HOME 〉

FEATURE / MOVEMENT

消えゆくリンゴで焼き上げたパネットーネが日本初上陸!

2019.12.12

photographs by Yasufumi Manda

イタリア人的12月の過ごし方

12月に入ると「師走」の二文字がちらついて、追い立てられるような1カ月を過ごす人も多いのではないでしょうか?
イタリア人の12月の過ごし方は、気ぜわしい日本人とは正反対。
クリスマスの訪れをパネットーネと共に待ちわびる、ワクワクするような1カ月を過ごすのだそうです。
12月最初の日曜日、鎌倉のエノガストロノミア「オルトレヴィーノ」で開かれたパネットーネの会は、まさにイタリア的クリスマスシーズンの始まりを喜ぶ空気に溢れていました。


イタリア・ピエモンテ州北部の町ビエッラで、かつて地元の名産だったリンゴの多品種栽培を復活させたマルコ。『ガンベロ・ロッソ』の「イタリアのバールBEST15」の常連でありパスティッチェリア(菓子屋)としても評判の高い「カンテリーノ」の店主マリオ。2人が出合い、生まれたリンゴのパネットーネ(記事はコチラ)が初めて国外でお披露目される日です。




毎年地元のファンで売り切れる品を彼らの店以外で初めて販売するとあって、「カンテリーノ」を代表して来日した長女のキアラは、本場と変わらぬカフェを淹れるべくエスプレッソマシーンの調整に余念がありません。古澤夫妻とカンテリーノファミリー、リンゴの仙人マルコをつなげたビエッラの友人、クラウディオもシェフコートに身を包んでカウンターに入ります。





「オルトレヴィーノ」古澤シェフは、「今日はお菓子屋さんが主役だから」とまるでチョコレートのように並べたカラフルな野菜のスフォルマートや、パルミジャーノ・レッジャーノとモルタデッラのクリームを挟んだ一口シューなど普段とは趣向の違うおつまみを用意。千恵さんのコーディネートでテーブルも店内もクリスマスモードに切り替わり、いよいよ14時、お客さんが次々とやってきました。









グラスワインはキャッシュオンで。ピエモンテ州の泡、白、赤がずらりと揃います。まずはワインを片手におつまみが並ぶテーブルへ。冬晴れの陽射しが入る店内は明るく、普段とは違う装いに、皆ゆっくりおしゃべりやワインを楽しんでいます。







そしてお待ちかねのパネットーネへ。合わせる甘口ワインは、ピエモンテ州の土着品種であるエルバルーチェ100%のパッシート、こちらもビエッラの造り手によるものです。
特別なパネットーネを食べにわざわざ足を運ぶだけあって、皆さんパネットーネはお馴染み。毎年お気に入りのメーカーのパネットーネを予約して友人同士で交換するなど、イタリア的クリスマスの楽しみを実践している人も。けれど「カンテリーノ」のパネットーネは、そんなパネットーネ通にも驚きの味わいだったようです。




パネットーネ通も驚く繊細な味わいの秘密

「卵とリンゴの香りがしてナチュラル、すごくやさしい」
「ドライフルーツよりフレッシュなリンゴの砂糖漬けを焼き込むのは難しいはずなのに、皮が薄く焼き上がっていて上品」
「こんなにしっとり、ジューシーなパネットーネは初めて」




夏にビエッラを訪れ、リンゴ農園とカンテリーノの工房を訪れた古澤シェフも「特別なリンゴでもシロップ漬けにしたら個性が消えてしまうのではと思ったけれど、マルコのリンゴの風味、酸味が残っている」と、その繊細な味わいに驚いた様子。



そんな彼らの表情を見ながら微笑むキアラに、特別なおいしさの理由を訪ねると、
「うちのパネットーネは30年間大切に育てている元種で仕込んでいるから。使い続けるほどに香りは穏やかに、生地は力強くなるので重たいリンゴの砂糖漬けを抱き込んでもしっかり持ちあがる」と教えてくれました。



イタリアで暮らし始めた当初、年が明けてもクリスマスソングが流れるのに驚いたという千恵さん。「12月に入るとパネットーネを食べ始め、1月6日にベファーナという魔女が子供たちに贈りもの(1年間良い子だった子にはお菓子、悪い子には炭)を届けるまでがクリスマス。まるで元旦のように神聖な空気が流れる25日を挟んでクリスマスシーズンが続くんです」



マルコとマリオの友情、そして2人と出会った古澤夫妻の想いが実現させた1日は、私たちにクリスマスシーズンの豊かさを教えてくれました。
最後にパネットーネ通たちに聞いたパネットーネの真実(?)を。

パネットーネの真実 その1
「パネットーネは大きく焼いたほうがおいしい」

パネットーネ生地は卵と砂糖の割合が多く、焼き上がりの皮が厚くなりやすいので「大きく焼いたほうが中身のおいしい部分が楽しめる」のだとか。500gより1キロ、1キロより3キロ、3キロより5キロ。大きなパネットーネを買って仲間で分けるのがおすすめだそう。

パネットーネの真実 その2
「パネットーネは年を越したほうがいい香りがしてくる」

「12月に入ったらパネットーネを食べられる!」のが大人も子供もクリスマスシーズンを心待ちにする大きな理由ですが、通曰く「寝かせたほうが香りがよくなる」とか。食べるのを我慢するのは難しいけれど、多めに買って年明けのお楽しみを用意しておくのも一興かも?







◎ OLTREVINO(オルトレヴィーノ)
神奈川県鎌倉市長谷2-5-40
☎ 0467-33-4872
お食事 12:00〜18:30 L.O.
お買物 12:00〜19:00 水曜休
江ノ島電鉄長谷駅より徒歩5分
https://oltrevino.exblog.jp/







料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。