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FEATURE / MOVEMENT

食のバリアフリープロジェクト:FREEなレシピ 10

ムスリム・実践編

「organ」紺野真シェフ × ムスリム・実践編

2018.06.07

text by Kyoko Kita / photographs by Tsunenori Yamashita

連載:食のバリアフリープロジェクト

テーマ:【ムスリム・実践編】

東京・西荻窪の人気店「organ」の紺野真シェフに、前回のレクチャー「ムスリム対応の基礎知識」を踏まえた上で、ムスリムのお客様のための料理を作っていただきました。
取り組んでみて気付いたことや、工夫のポイントも語っていただきます。





野菜と魚で構成する。

「organ」紺野真シェフ。



イスラム圏の国を旅行したことはありますし、10年暮らしたカリフォルニアでも、ムスリムの人々がレストランやカフェで食事する姿を日常的に見ていました。でも、ムスリム対応食として、きちんと向き合うのは今回が初めてです。率直な感想を言えば、知識があればむずかしくないと感じました。

ムスリムの人が食べられないのは、次の3つです。
1 豚肉、豚肉を使ったもの
2 ハラール認証マークがない牛、鶏、羊、ヤギ肉と、それらを使ったもの
3 アルコール

今、私の店では、メニューの半分近くが魚と野菜の構成なので、このまま提供できる料理は多いと言えます。最近、動物性の旨味を加えずに野菜だけで味を作ることに興味があるため、見えない部分でも動物性素材を使っていない料理が多い。ハラール認証食材を用意せずとも、普段のメニューから選んでいただくことが可能です。
今回は、そんな野菜だけで構成した普段の料理と、肉を魚に代えた料理の2品をご紹介します。

ムスリム向けに料理を考えるアプローチとしては、ヴィーガンやアレルギー対応と同様、タブーな食材を「抜く」「代える」という手段があります。
「ヒラメのキャベツ包み ヒラメのアラのピルピルソース」は、通常「豚肉とキャベツのブレゼ ラグーソース」として提供している料理の肉を魚に代えたもの。豚の端肉とトマトを煮込んでラグーソースにするところを、ヒラメのアラと骨をコンフィにして、その屑肉と香りの移った油、そして煮凝りを、焦がしたトマトと合わせてソースにします。アプローチはそのままに、素材を代えて、それに合わせてだしやソース、付け合わせをアレンジするのです。

野菜だけで構成した、普段から提供している料理のほうは、「シイタケとカブ 根菜のジュとスモークしたオイル」です。
シイタケとカブという淡白な素材だけで満足感を持たせるポイントはソースにあります。野菜を水で軟らかくなるまで煮て、絞って、煮詰める。それだけで複雑味のあるソースになります。塩を加えていないのに、仄かな塩気も感じるんですよ。野菜の力って、すごい……。野菜と水だけで作る料理は、味を決める塩加減がピンポイントでむずかしいと感じていたのですが、このソースは決め所の幅も広いのに驚きました。塩を加えなくても十分ですし、しっかり効かせても、それはそれでおいしい。

煮詰める以外に、野菜料理には何か旨味成分を足すことを意識しています。昆布、醤油などの発酵調味料はいいですね。昆布を使う時は、和食のような繊細な旨味ではなくボディを出したいので、野菜と一緒にしっかり煮出します。
スパイスや油も、味に深みや奥行きを与えてくれます。油は香りの媒体になりますから、燻製にして仕上げにかければ、料理に仄かな燻香を添えることもできます。



考え方やスタンスを尊重したい。

一言でムスリムと言っても、考え方は様々と聞きます。3つの食材を避けるのは基本として、どこまで厳密に戒律を守るかは、個人の判断によるところが大きい、と。
前回の「ムスリム・基礎知識編」でレクチャーしてくださっているカーン恵理子さんからは「ムスリム一人ひとりが“食べられるか、食べられないか”を自分で判断できるように、料理の原材料表記がなされると、それ自体がムスリム対応として有効です」とのアドバイスをいただきました。「特別な料理を用意せずとも、それだけでムスリム対応になる」と。

たとえば、今回、「シイタケとカブ 根菜のジュとスモークしたオイル」には当初シェリービネガーを使う予定でした。醸造過程で自然発生したアルコールは問題ないようですが、最終段階でのアルコール添加の有無など不安要因があったため、レモンに変更しました。ただ、お客様によっては許容する人もいると聞きます。認証を得ていないビネガーは使わないのが安全ではあるけれど、あえて使ったとしても、メニューに原材料表示をすれば、その料理を選ぶか選ばないかがお客様の判断に委ねられる、ということですね。

と同時に、私自身は、ひとり一人の考え方を尊重して、できるかぎり寄り添いたい。より満足していただこうと思えば、その方が食べられないものを確認するのが理想かもしれません。
海外の友人と酒を飲んでいて話が深まると、必ず最後は宗教の話題になります。価値観や生き方そのものと言ってもいいのかもしれません。日本人だって、日頃、特別意識はしませんが、神道や仏教の影響を受けて生きています。全く違う思想ではあるけれど、互いの歴史や文化の素晴らしさを認め合い、尊敬の気持ちを持って共に食卓を囲むこと。ムスリムの人々が大事にしていることに思いを馳せて料理を作ること。それを忘れてはいけないと思います。



<RECIPE>

■シイタケとカブ 根菜のジュとスモークしたオイル

カブとシイタケの角切りソテーの上に、おおぶりのシイタケのローストをのせ、薄切りのカブで覆う。豚肉をシイタケに置き換えた料理だが、シイタケの旨味がしっかり引き出されて、充実度の高い味わい。視覚的な美しさも満足感を高めてくれる。



◎材料(4人分)
<シイタケとカブのソテー>
シイタケ(5mm角)……60g
カブ(5mm角)……80g
ニンニク……1/2片
オリーブ油……適量
コリアンダー……1つまみ
クミン……1つまみ
塩、コショウ……各適量

<シイタケのロースト>
シイタケ……4枚
ゴマ油……適量
ニンニク……1/2片
ショウガ……スライス2枚
塩……適量

<ソース>(作りやすい分量)
カブ……1㎏(6個)
フェンネル……400g
セロリ……150g
ニンニク……60g
タマネギ……240g
ジャガイモ……150g
タイム……3本
ローリエ……1枚
塩、コショウ……各適量
ナッツメグ……少量
レモン汁……15g
1) 粗く切った野菜とハーブ、水2L(分量外)を鍋に入れ、軟らかく煮る。
2) タイムとローリエを取り出し、ミキサーにかける。
3) 布で絞り漉して鍋に戻し、とろみがつくまで(1/4量まで)煮詰める。
4) 塩、コショウ、ナッツメグ、レモン汁で味を調える。

<スモークオイル>
オリーブ油……適量
桜のチップ……適量
*バットにオリーブ油を入れ、燻製器にかけて桜のチップで燻す。

<シイタケパウダー>
シイタケ……4枚
ニンニク……1/2片
ショウガ……スライス4枚
オリーブ油……適量
1) フライパンでオリーブ油、ニンニク、ショウガを熱し、シイタケを入れて蓋をして、しんなりするまで焼く。
2) 110℃のオーブンで60分焼き、半乾燥に。
3) フードプロセッサーで細かく刻む。
4) バットに広げて、100℃のオーブンで30分間乾燥焼きに。
5) フードプロセッサーで粉末にする。

<仕上げ>
小カブ……4個
ペコロス……10個
アマランサス……適量
小カブはスライスして、20秒茹でて氷水に取り、水気を切る。
ペコロスは半割りにして、フライパンで焼いて焦げ目をつける。

作り方
<シイタケとカブのソテー>
オリーブ油とニンニクを熱し、香りが出たら、シイタケとカブを炒める。コリアンダー、クミン、塩、コショウで調味する。

<シイタケのロースト>
フライパンにゴマ油、ニンニク、ショウガを熱し、香りが出たらシイタケを入れる。 蓋をして弱火で焼き、塩で味を調える。

<仕上げ>
皿にソースを適量敷き、スモークオイルを垂らす。シイタケとカブのソテー、シイタケのロースト、小カブのスライスの順に重ね、シイタケパウダーをふる。ペコロス、アマランサスを飾る。





■ヒラメのキャベツ包み ヒラメのアラのピルピルソース

アサリのだしで蒸し煮にしたキャベツで、ポワレしたヒラメを包み込む。ヒラメの骨とアラをコンフィにしてこそげ取った身と油で作るソースをたっぷり添えて。魚はムスリムにとって自由度の高い食材だ。

◎材料(4人分)
ヒラメ(フィレ)……4切れ
キャベツ……4枚
アサリ……100g
塩……適量
オリーブ油……適量

<ソース>(作りやすい分量)
┌ヒラメの骨、アラ……1尾分
│ニンニク……2片
ローリエ……1枚
│ローズマリー……1枝
└タイム……4本
ミニトマト……250g
ニンニク……1片
オリーブ油……適量
ピマンデスペレット……3つまみ

<パンケーキ>
ジャガイモ……1個
薄力粉……25g
豆乳……60g
塩……適量
1) ジャガイモは皮を剥いて5㎜幅に切り、水から茹でてマッシュする。
2) 1のマッシュポテト65g、薄力粉、豆乳、塩を混ぜ合わせた生地をフライパンに流して焼く。

<フェンネルパウダー>
フェンネルの葉……適量
フェンネルの葉をバットに広げ、100℃のオーブンで60分乾燥焼き。ミキサーでフェンネルパウダーにする。

<オニオンフリット>
タマネギ……1個
強力粉……適量
揚げ油……適量
タマネギを薄切りにし、強力粉をまぶして低温の油で揚げて、オニオンフリットにする。

作り方
<ソース>
1) 鍋にとひたひたの量のオリーブ油を入れ、弱火でコンフィにする。
2) アラと骨から身を丁寧に外し、鍋底に残った煮凝り、香りの移ったオリーブ油大さじ2杯と共にミキサーにかける。
3) フライパンにオリーブ油とニンニクを熱し、ミニトマトを入れて焼く。バーナーで焙りながら焦げ目をつける。
4) 23とピマンデスペレットを加えて、ミキサーにかける。

<ヒラメとキャベツ>
1) 鍋にアサリとひたひたの水(分量外)を張って火にかけ、15分ほど煮出してだしを取る。
2) キャベツとアサリのだし少量を鍋に入れて、キャベツを蒸し煮する。
3) ヒラメに塩をふり、オリーブ油を引いたフライパンで焼く。
4) 32で包む。

<仕上げ>
ソースをエスプーマで絞り、パンケーキ、ヒラメのキャベツ包みをのせる。フェンネルパウダー、オニオンフリット、マイクロバジル(分量外)を飾る。



◎ organ
東京都杉並区西荻南2-19-12
☎ 03-5941-5388
17:00~23:00LO
月曜、第4火曜休
カード可、22席、禁煙
JR西荻窪駅より徒歩5分





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