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MEETUP

日本ワインをもっと深く知るために

グラスの中にワインづくりの風景を感じ取ろう

2016.11.28

photographs by Tsunenori Yamashita


つくり手と共に語らい、味わう中で見えてくる景色




サントリー日本ワインには、山梨の自園で栽培から醸造まで一貫して行う「登美の丘ワイナリー」シリーズと、日本各地の産地や品種の個性を打ち出した「ジャパンプレミアム」シリーズ、2つのシリーズがあります。後者は、青森・津軽、山形・かみのやま、長野・塩尻、長野・高山村など、各地のぶどう生産者との連携によって生み出されています。この日、お迎えした山本博保さんは、そんな生産者の一人です。

サントリー登美の丘ワイナリーの渡辺直樹ワイナリー長。サントリー日本ワイン全体の監修もしています。

長野県塩尻市でぶどう栽培を手掛ける山本博保さん。その畑の端正さに、訪れる人誰もが感動します。

ワインづくりは自然の中にあり、ワインはぶどう畑から生まれます。しかし、いったんボトルに詰められてしまうと、そのことが見えにくくなってしまう。せっかく日本でつくられているワインなのだから、グラスの中にワインづくりの風景を見出したい――つくり手を囲むこの会には、そんな思いがありました。

山本さんのぶどうからつくられた「ジャパンプレミアム 塩尻マスカット・ベーリーA ミズナラ樽熟成 2012」。

ワインとマリアージュする料理を手掛けたのは、「アジュール フォーティーファイブ」の宮崎慎太郎料理長です。宮崎料理長は登美の丘ワイナリーを訪れて、その環境やぶどう栽培、ワインづくりについて、渡辺ワイナリー長と語り合った経験があります。ワインの味だけでなく土地を知った上でのマリアージュへの取り組みだったと言えるでしょう。

「アジュール フォーティーファイブ」の宮崎慎太郎料理長。仕事はアグレッシブ、料理は繊細。今、東京でも注目度の高いシェフです。

より良いワインのために、せめぎあいの日々




この日、サントリー登美の丘ワイナリーの渡辺直樹ワイナリー長はまだもう少し続く収穫の合間を縫って、塩尻の生産者・山本博保さんは収穫を終えてほっとしたところでの参加となりました。山本さんが笑いながら打ち明けたところによれば、「渡辺さんはなかなか収穫させてくれないんですよ。畑の人間としては、早く収穫して、早く肩の荷を下ろしたい。でも、渡辺さん、なかなか摘もうって言ってくれなくて(笑)」。渡辺さんも笑いながら、「そうですね、なんだかんだと理由をつけては粘りますね。どこまで熟させられるか、見極めたいからですが……」。
ぶどうは一度摘んでしまったら、そこから熟すことはありません。「黒系品種であれば、種が香ばしくなるまでしっかり熟させることが大切なんです。それがワインになってからの味わいに影響するのです」。だから、渡辺さんは畑で粘ります、もう少し、もう少し、と。
そのことはリスキーでもあります。粘っている間に雨が降ってしまったら、元も子もなくなるかもしれない……。渡辺ワイナリー長と山本さんは、ぶどうの実の熟度を見、天気予報を見ながら、収穫すべきか、待つべきか、せめぎあいの日々を送るのです。「畑でワインをつくるイメージなんですよ」と渡辺さん。「心臓に悪いですが(笑)」。

山本さんの畑は、元々、生食用のぶどうを栽培していたそうです。それを山本さんの代でワイン用ぶどうの栽培に転じました。
「生食の場合、水をたっぷりあげて、粒を大きくして、みずみずしい実に仕上げることが、ぶどう栽培の基本なんですね。それが、ワイン用ぶどうになった途端、水はやるな、粒を大きくするな、凝縮させるんだ、と真逆のことを言われて(笑)、戸惑いました」と山本さんが当時を語ります。
「塩尻は、凝縮感のあるぶどうを産するエリアです。とりわけ山本さんの畑は、水はけが良くて、日照量が多く降雨量が少ないなど、凝縮感を生む条件が揃っている」と渡辺ワイナリー長。ワイン用ぶどう栽培に極めて適した土地ということですね。その特性を生かしてこそ、いいワインができる……。
事実、山本さんのぶどうでつくられる「ジャパンプレミアム 塩尻マスカット・ベーリーA ミズナラ樽熟成 2012」と「ジャパンプレミアム 岩垂原メルロ 2012」は、高い評価を得ています。

つくり手と共にマリアージュを堪能!




では、そんなつくり手の思いを汲み取って生み出されたマリアージュの数々をご紹介しましょう。

季節のアミューズブッシュ
マリアージュ:ジャパンプレミアム 甲州 2015


「この甲州の軽やかさは、優しいタイプのソーヴィニヨン・ブランにも似ています。青くほのかな苦味のトーンを生かすべく、生の白い魚介類と合わせています」と宮崎シェフ。「平目のマリネにシイタケを添えることで旨味をプラスして、マリアージュした際に、グリーンなトーンの中にも厚みや膨らみをもたせるようにしました。ソースは、ジロール茸のヴィネグレットです」。会場からは「和の食材とのマッチングがいいですね。甲州には、私たち日本人の食材や料理を包み込む包容力を感じます」との声が寄せられました。

様々な貝類と薫香のウズラの卵黄
タルタル仕立て フヌイユの香り
マリアージュ:登美 白 2011


「登美 白 2011には、濃密な熟成感に加えて、長く熟成させたシャンパーニュが持つような、藁にも似たアロマ、やや燻したようなニュアンスを感じました。とてもマリアージュしがいのあるワインだと思います」と宮崎シェフ、このワインに潜む奥深さに魅了されていました。渡辺ワイナリー長によれば、「登美の丘ワイナリーのシャルドネは、ゆったり穏やかなキャラクターが持ち味なんですね。そんな中でもこの2011は、酸もあり、骨格がカッチリしています」。宮崎シェフ、「ワインが持つ強さに負けないよう、旨味のしっかりした貝類(ツブ貝、タイラ貝、ミル貝)のタルタルに、鳥の巣状にしたポロネギのフリットをのせ、ウズラの卵黄を潜ませました。ぶどう畑の中の鳥の巣のイメージです。添えたのは、フヌイユのムース」。

「登美白のアロマとフヌイユの香りの相性がとても良いですね」と渡辺直樹ワイナリー長が絶賛。

塩尻のぶどうがもたらす類稀れな凝縮感




さぁ、ここで、山本さんのぶどうからつくられたワインの登場です。

マスカット・ベーリーAのイメージを覆した「塩尻マスカット・ベーリーA ミズナラ樽熟成」。

グリルしたフォアグラ
鰻の冷製
マリアージュ:ジャパンプレミアム 塩尻マスカット・ベーリーA ミズナラ樽熟成 2012


宮崎料理長いわく「フルーティでベリー系のニュアンスがしっかり感じられながらも、タンニンの柔らかさを感じます。最初の赤として、ふさわしい」。そこで、料理は「海老芋とフォワグラをモザイク状にしたテリーヌの上に、ポルト酒と赤ワインでキャラメリゼしたウナギをのせています。山椒パウダーをふってもよいのですが、ワインがフルーティなので、あえて山椒の風味はつけずに、ポルト酒&赤ワインソースと同調するようにと考えました」。

サービスを進行しながら、ワインのテイスティングコメントを語ってくれた「アジュール フォーティーファイブ」のアシスタントマネージャー鴨志田大史さん。この日、東京・銀座「マルディグラ」の和知徹シェフ(中央)も参加。「塩尻マスカット・ベーリーA ミズナラ樽熟成」に「今まで飲んだマスカット・ベーリーAの中で最高です」と太鼓判。

会場からあがった声が「こんなマスカット・ベーリーAは初めて。マスカット・ベーリーAと言えば、“キャンディのような”と表現される軽やかで甘い風味が特徴だと思っていたけれど、これは凝縮感があって、厚みも豊かさもある」。みな、山本さんのぶどうの醸し出す深い味わいに感動しきりです。

このワインのもうひとつの特徴が「ミズナラ樽」を使っていることです。
ほとんどの日本ワインにおいて、樽熟はフランスやアメリカ製の樽で行なわれます。ぶどうは国産でも、樽まで国産という例はまずお目にかかれないと言っていいでしょう。そんな中で、ウイスキーのために国産のミズナラで樽をつくるサントリーでは、ごく一部、ミズナラ樽をワインの熟成に使うことができるのです。
渡辺ワイナリー長によれば、「ぶどうの持ち味、土地がもたらす味わいを第一義とする私たちは、樽を前面に出すことをしていないのですが、唯一の例外がこのミズナラ樽なんですね。使う以上、ミズナラ樽の特性はどの品種を仕込んだ時に最も発揮されるのか、様々な品種で試してみました。その結果、マスカット・ベーリーAにおいて最も良い効果をもたらすことがわかったんですね」。ちなみに、ミズナラ樽で熟成させると、ココナッツ香や白檀のニュアンスが発現するそうです。

ピエールオテイザのキントア豚
アンクルート
マリアージュ:ジャパンプレミアム 岩垂原メルロ 2012


山本さんのぶどうでつくられたワインが続きます。「こちらはボディのしっかりした、タンニンも十分に感じるワインで、料理もそれに負けないパワーが求められると感じました」と宮崎シェフが言うように、ゲストからは「日本ワインとは思えない力強さを感じる」との感想が。渡辺ワイナリー長も「あと2年は置いてから味わってもいいでしょうね」。山本さんのぶどうのポテンシャルの高さが印象付けられたようです。宮崎シェフは「パテ・ド・カンパーニュのような、ざっくりとした肉料理でもいいくらいだと思いました。キントア豚(仏バスク地方の純血種。戸外で育ち、濃い肉質とキレの良い脂が特徴)のコンフィと豚足をミルフィーユ状のパテにして、パイ生地で包んで焼く料理をご用意しました。これでないと闘えない(笑)と思って」。

「ジャパンプレミアム 岩垂原メルロ 2012」は「日本ワインコンクール2015」で金賞を受賞しています。

アイユチップで燻したエゾ鹿のロースト
ビーツとそのラグー
マリアージュ:登美 赤 2012


そして、登美の丘ワイナリーの赤のフラッグシップ、「登美 赤 2012」がサーブされます。「申し分なく上質で品の良いワイン」と宮崎シェフ。「ですので、余分な脂肪や雑味のない赤身を持つ鹿肉がふさわしい。ニンニクのスライスで燻製して香りだけ付けることで鹿の味わいと肉質を生かしたローストに、同じ色彩でほのかな土っぽさを持つビーツを添えました」。

「登美の丘ワイナリーから生まれるのは、優しさ、柔らかさ、繊細さを持ち、緻密で凝縮感のあるワイン」という渡辺ワイナリー長の言葉を象徴する「登美 赤 2012」。

グレープフルーツのマリネ
そのムース
マリアージュ:登美 ノーブルドール 2006


締め括りは、登美の丘ワイナリーが誇る貴腐ワインとのマリアージュ。宮崎シェフとフランス人の同僚とで、ノーブルドールの濃密な凝縮感をどう生かそうか、随分悩んだそうです。「こっくりとした甘さを強調する仕立て方もあるのですが、逆にさっぱりしたテイストの素材を合わせることでバランスをとる仕立てにしました。グレープフルーツの酸味と苦味を生かしたマリネとムースが、ワインの甘さと引っ張り合うイメージです。添えてあるのは、マロンとラム酒のアイスクリームです」。贅沢ですね。

「登美 ノーブルドール 2006」。世界的にも稀有な貴腐ワイン。貴腐ぶどうならではの複雑で深みのある香り、蜜のように甘美で芳醇な味わい。

長期間熟成させる中で生まれる味わいもさることながら、とろりとしたテクスチャーも魅力。

栽培のプロと醸造のプロが手を携えることで生まれる味わい




最後に語った山本さんの言葉が印象的でした。
「ぶどう栽培から手掛けるワイン生産者が増えました。畑で頑張っている彼らの話を聞くと、私たち農家も負けていられないなぁと思うのです」
この言葉は、ぶどう生産者とワイナリー、栽培のプロと醸造のプロ、それぞれの専門領域に身を置きながら、共に手を携えることで生まれる味わいがあることを教えてくれているように思います。

渡辺ワイナリー長と山本さん、ぶどうと向き合う人々の話はワインの味わいにいっそう深みをもたらしてくれました。



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