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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

古澤千恵さん(ふるさわ・ちえ) アンティークコーディネーター

第2話「自分探し、イタリア探し」(全5話)

2016.02.01

演出するって、面白い

母も祖母も料理好きで、古い物好きでした。
梅干しや漬け物やおはぎは自家製が当たり前。古い家具や器、着物にも親しみ、幼心に自然とその佇まいに惹かれていました。

一方で、幼い頃からピアノを習っていたことから、音大に進学。何か生かせる仕事はないかと、結婚式場でオルガン奏者のアルバイトを始めました。
卒業後、そのまま就職。仕事の幅は徐々に広がり、やがてブライダルのプランニングを任されるようになります。後に取締役として、すべての業務を統括して見るようにもなりました。 「思えば、この時に学んだことがとても大きかったですね。
お花やテーブルセッティング、光、音楽。
お客様の要望を叶えるために、様々な要素を組み合わせて、最大限の効果を生む。
演出することの面白さを知りました」。





Photograph by Masahiro Goda




新天地へ





おいしいもの好きが高じ、並行して在学中から鎌倉のイタリア料理店「ア・リッチョーネ」でもアルバイトをしていた古澤さん。店で食べさせてもらった料理を自宅で再現することもしばしばでした。
そして後に夫となる一記さんとも、この店で出会うのです。

結婚を機に、ブライダルの仕事を退職。一記さんとのイタリア行きを決意しました。2000年のことです。
「正直、迷いました。仕事はやりがいがありましたから、このまま続けるという選択肢もありました。でも、異国の地で何か新しいことを吸収する時間を作るのもよいのではないかと」。

ほんの1~2年のつもりでした。それが10年もいることになるなんて。

2つの問い





フィレンツェでの暮らしに少し馴れてきた頃、古澤さんの心の中には2つの問いが生まれていました。

「私は何のためにイタリアにいるのだろう」という内に向けた問い。
一記さんには料理とワインを学ぶという明確な目的がある。
では、私はここで何をするのか。

そして、「イタリアって、これだけ?」という外向きの問い。
確かに街並みは美しい。食事もおいしい。
でも本当はもっと面白い“何か”が隠れているんじゃないか、そんな漠然とした思い。




エンリコおじさんに導かれ





語学学校に通いながら始めた、自分探しとイタリア探し。
ある日、食材を調達した市場の帰りに、ふと隣のチョンピ広場の骨董市に立ち寄ってみました。
「イギリスやフランスなどの骨董市とは違って、はっきり言ってガラクタばかり(笑)。
でも、その中にぽつりぽつり、目に留まるものがあるんです」。
好きな色みの器、用途のわからない暮らしの道具……。
何かに吸い寄せられるように、翌日も、その翌日も、その骨董市に足を運びました。
ぐるりと見て回る中で出会った店主の一人、エンリコおじさんは、それらの価値や、背景にあるストーリーを丁寧に教えてくれました。
そして遠い昔の、それが使われている風景に思いを馳せる。
古物を通じて、この国の歴史、当時の人々の知恵や暮らしぶり、美意識までも見えてきました。

エンリコおじさんに導かれ、古物の世界の入口に立った古澤さん。
「これかもしれない」
2つの問いに対する答えは、意外にも一つのテーマに着地をしたのです。


Photograph by Chie Furusawa




ここで質問。
Q. 最初の頃はどんな物を買いましたか?
A. イタリアに渡った理由がやはり「食」でしたので、日常に使える器が多かったです。

Q. 古い物ほど値段も張りますよね。古物は素人には適正価格がわかりにくいと思いますが、そこはどう判断されていたのですか?
A.学生ビザでイタリアに渡り、貯蓄を崩しながら生活していたので、決して贅沢はできませんでした。最初は「この感じで、この値段なら払ってもいい」と思えるものを買っていました。適正かどうかより、自分の好みや感覚ですね。知識が増えてくると、「この時代のものでこの状態なら、今、手にしておかなくては」と、もう少し分析的に買い物をするようにもなりました。

Q. チョンピ広場にはどのくらいの頻度で通っていたのですか?
A. ほぼ毎日です。少しずつ品物が変わっていきますし、おかげで店主もこちらの顔を覚えてくれました。イタリア人って、見てないようでちゃんと見ているんです。「あの日本人、また来た。またあの感じの器を見てる」って。するとお互いの好みもわかってきて、私が好きそうな物が手に入ると教えてくれたり、「あの広場でやっている市にも行ってみるといい」など情報をくれるようになりました。
(次の記事へ)
Text by Kyoko Kita


古澤千恵(ふるさわ・ちえ)
音楽大学を卒業後、ブライダル企画会社に就職。その後、夫の一記さんと共にイタリア留学へ。足繁く通った骨董市をきっかけに古物の世界に入り、2008年、イタリア古物などを販売するサイト「OVUNQUE」を立ち上げる。そのセンスに信頼を寄せる人は多く、テーブルコーディネートのほか、飲食店の什器手配、執筆など活躍は多岐にわたる。



























































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