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PEOPLE / 生産者・伴走者

大地からの声――22

スペシャルティコーヒーのすそ野を拡げる。

「丸山珈琲」 丸山健太郎さん

2020.09.07

連載:大地からの声

スペシャルティコーヒー浸透のキーマンとして産地と日本をつないできた丸山健太郎さんのコロナ体験は、1月下旬、グアテマラから帰国する機中に始まりました。「マスク嫌いのはずの海外の乗客の多くがマスクをしているのを見て、ただならぬことが起きていると思った」。ステイホーム期間中には人々のコーヒーとの接し方に「コーヒーは嗜好品から必需品になった」と実感。産地訪問は当面封印されましたが、「生産者にとって日本は豆を売りたい国の筆頭。生産国と消費国、双方にとってwinーwinのビジネスモデルを日本発でつくれないか?」とwithコロナ時代のコーヒービジネスを模索しています。



問1 現在の状況

SNSで生産者と消費者を結ぶ。

スペシャルティコーヒーの動向を左右する「Cup of Excellence」。中南米を中心とする生産国ごとにその年の最も優れたコーヒー豆を決める国際品評会ですが、今年はコロナの影響で開催方法が変わりました。
従来、生産国に国際審査員が集まってカッピング審査を行なうというスタイルで運営され、私も毎年、現地に赴いて審査に携わっています。しかし、人々の移動がむずかしくなった今年は、主催者であるAlliance for Coffee Excellenceが審査を実施するにふさわしい世界各地のロースターを「Global Coffee Centers」に指定。GCCsごとにカッピング審査を行なった後、主催者が全GCCsのスコアを集計して受賞者順位を決定するというスタイルに。丸山珈琲もGCCsとして指名を受け、5月21~22日にニカラグアの国際品評会を実施しました。

カッピングの様子はCup of ExcellenceのInstagramアカウントで配信、集計結果はzoomで発表。図らずも全プロセスがオンラインで一般公開されることになり、受賞豆のオークション――これは以前からネットオークションで行われ、誰でも参加できるシステムになっています――が例年にもまして盛り上がるといううれしい結果がもたらされたのでした。

コロナによって引き起こされた事態は、私にとって流通を考え直す勉強の機会となっています。
緊急事態宣言が発令されて、私たちはすぐにインスタでの発信に取り掛かりました。4月4日には「minimal」山下貴嗣さん、「LIGHT UP COFFEE」の川野優馬さんと3人でインスタライブを開催。インスタライブは「日本酒と珈琲」「飲食店の今とこれから」といったようにテーマと相手を変えて回を重ね、さらに、私のカッピング風景をライブで流したり、ドミニカの生産者と結んでのライブトークとカッピングの様子を配信したり。ことにカッピングライブは、BtoB、BtoC、共に好評。テレフォンショッピングのようなわかりやすさがあるのでしょう。であればと、コーヒー豆の生産者とSNSで結び、公開買付という形で行なう仕入れができないかを検討中です。
コーヒー豆への正しい理解、生産現場への理解をいかに広めるかに長年心を砕いてきた立場として、情報も商品もオンラインに一本化されていく現状をプラスに活用できる可能性を感じています。


豆の収穫を担うピッカーには移動労働者が多いため、人の移動が制限されたコロナ下、産地では収穫の人手集めに困ったという話もある。写真は1月に訪れたグアテマラで。


問2 気付かされたこと、考えたこと

リアル店舗は要らないのか?


SNS発信と販売を結び付ける展開が可能になるにつれ、リアル店舗の意味を問い始めています。
緊急事態宣言下、店舗の喫茶スペースは閉鎖して豆売りのみにしたため、都心の店は売上が20~30%まで落ちたものの、郊外店舗やネット販売は約1.5倍の売上に。食品である以上、「飲んでみなければわからないよね」がお客様のスタンスだと信じてきたのが、試飲しなくても興味をそそる要因やカッピングしている私への信頼があれば購入してもらえるんだという手応えも感じます。豆売りだけだったら店が要らないのではないか、とりわけ地価が高い都心で店を構える意味は何なのか? 店がなくても成立しそうにも思えますが、先のことを考えると限界があるようにも感じる。コーヒービジネスは、優れた豆を購入して焙煎して売るという、行為がシンプルなだけに、店という場がなければクリエイティビティやイノベーティブな部分が膨らまなくなる気がします。
今夏、新進気鋭のクラフトコーラメーカー「伊良コーラ」とコラボして、コーヒーとコーラのコンビネーションにチャレンジしましたが、店という場があればこそ、こういった化学反応を起こせるし、ムーブメントも発想も膨らんでいくのではないか。ネット通販だけでいいとは思い切れないんですね。店の役割を定義し直すことが、これからの課題です。

問3 これからの食のあり方について望むこと

質の向上と生活の向上は一体。


1キロ当たりの買取価格を100円多く支払ったならコーヒー生産者の生活はドラスティックに変わる、と言われてきました。コーヒー豆の質の向上と同時に、生産者の生活の向上も、スペシャルティコーヒーの理念です。
日本のコーヒー輸入量に占めるスペシャルティコーヒーの割合が10%を超えるなど、スペシャルティコーヒーは着実に浸透。コンビニコーヒーの一部にも使われるなど大手企業も扱うようになっています。スペシャルティコーヒーとコマーシャルコーヒーの間には誰も渡らない川が流れていたのが、いつしか川ではなく湿地帯になって行き来する人が増えてきた、とでも言えばいいでしょうか。

実際、コーヒー豆の質の向上は顕著です。前述の国際品評会Cup of Excellenceの評価方法で85点レベルのものを作る生産者が続出しています。

しかし、コロナ禍の影響で世界的に経済が低迷すると、飲食業界などで安価なコーヒーが使われるようになり、スペシャルティコーヒーの買い控えが起きるのではないか。それを私は懸念しています。生産者とやりとりしていると、「今のところはなんとかやっているよ」と言うけれど、来年はわからないと思うのです。


生産者を取り巻く気候風土、コーヒー栽培の考え方と取り組み、豆の特徴などを伝えるフリーペーパー「Beans Menu」を毎月発刊。生産者の手元へも届ける。


昨年11月、渋谷のスクランブルスクエアにコーヒーバッグ専門店をオープンしました。スペシャルティコーヒーをもっと身近に、もっと手軽にと考えての取り組みです。
コロナによる自粛期間、人々のコーヒーとの接し方を見ていて改めて気付かされたのが、楽しみ方の幅の広さ。在宅で仕事の合間に淹れるのはコーヒーバッグのほうがいいんだよっていう方は多い。たまたまコロナの直前から卸し始めたスーパーがあるのですが、そこで購入される方も多い。コーヒーはもはや嗜好品じゃない、必需品なんだって気付かされました。そう考えると、リキッドもあったほうがいいよね、ギフト対応できたほうがいいよね、とすそ野が拡がっていく。
スペシャルティコーヒーを、愛好家だけじゃなく広く飲んでもらえるようにすることが、結局は生産者の生活を守ることになる。それがスペシャルティコーヒーに携わる者の責任だと思っています。


いろんな産地、いろんなタイプをティーバッグのように手軽に楽しめる「Quick Coffee Package」は心浮き立つカラフルなパッケージで。


丸山健太郎(まるやま・けんたろう)
1968年生まれ。神奈川県出身。数年にわたる海外放浪の後、1991年、軽井沢の妻の実家で「丸山珈琲」を開業。2001年、Cup of Excellenceに初参加。以来、日本におけるシングルオリジンコーヒーの普及に尽力。バイヤーとして1年の半分近くを海外で過ごし、独自のルートで産地を巡って自ら厳選、世界各地の高品質コーヒーを直接買い付けている。Cup of Excellenceの国際審査員を数多く務め、Alliance for Coffee Excellence名誉理事でもある。長野県と東京を中心に12店舗を展開する。

丸山珈琲西麻布店
東京都港区西麻布3-13-3
03-6804-5040
9:00~21:00
第1・3月曜休(祝日の場合は営業、翌日休)
https://www.maruyamacoffee.com/




大地からの声

新型コロナウイルスが教えようとしていること。




「食はつながり」。新型コロナウイルスの感染拡大は、改めて食の循環の大切さを浮き彫りにしています。

作り手-使い手-食べ手のつながりが制限されたり、分断されると、すべての立場の営みが苦境に立たされてしまう。
食材は生きもの。使い手、食べ手へと届かなければ、その生命は生かされない。
料理とは生きる術。その技が食材を生かし、食べ手の心を潤すことを痛感する日々です。
これまで以上に、私たちは、食を「生命の循環」として捉えるようになったと言えるでしょう。

と同時に、「生命の循環の源」である生産現場と生産者という存在の重要性が増しています。
4月1日、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)、3機関のトップが連名で共同声明を出し、「食料品の入手可能性への懸念から輸出制限のうねりが起きて国際市場で食料品不足が起きかねない」との警告を発しました。
というのも、世界有数の穀物生産国であるインドやロシアが「国内の備蓄を増やすため」、小麦や米などの輸出量を制限すると発表したからです。
自給率の低い日本にとっては憂慮すべき事態が予測されます。
それにもまして懸念されるのが途上国。世界80か国で食料援助を行なう国連世界食糧計画(WFP)は「食料の生産国が輸出制限を行えば、輸入に頼る国々に重大な影響を及ぼす」と生産国に輸出制限を行わないよう強く求めています。

第二次世界大戦後に進行した人為的・工業的な食の生産は、食材や食品を生命として捉えにくくしていたように思います。
人間中心の生産活動に対する反省から、地球全体の様々な生命体の営みを持続可能にする生産活動へと眼差しを転じていた矢先、新型コロナウイルスが「自然界の生命活動に所詮人間は適わない」と思い知らせている、そんな気がしてなりません。
これから先、私たちはどんな「生命の輪」を、「食のつながり」を築いていくべきなのか?
一人ひとりが、自分自身の頭で考えていくために、「生命の循環の源」に立つ生産者の方々の、いま現在の思いに耳を傾けたいと思います。

<3つの質問を投げかけています>
問1 現在のお仕事の状況
問2 新型コロナウイルスによって気付かされたこと、考えたこと
問3 これからの私たちの食生活、農林水産業、食材の生産活動に望むことや目指すこと
























































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