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PEOPLE / 生産者・伴走者

大地からの声――14未来は、考えた先にある。「ルコラステーション」 畝田謙太郎さん

2020.06.18

連載:大地からの声

飲食店への野菜の卸業を営む「有限会社ルコラステーション」の畝田謙太郎さん。自らの職業を“ベジター”(野菜人)と名乗り、その目利きには「畝田さんの野菜でなくては」とシェフたちから厚い信頼が寄せられます。調理場のニーズを畑に伝え、時に自らも畑に入って野菜を届ける。拠点を置く千葉県八街市は、昨年甚大な台風被害を受けており、新型コロナウイルスの感染拡大はその復興途中の出来事でした。



問1 現在の仕事の状況

シェフたちが顧客を紹介してくれた。

ルコラステーションは生産者から野菜を仕入れ、レストラン向けに販売しています。レストランが自粛すると売り先はゼロになります。自分たちで店頭販売する案もありましたが、立地やニーズを考えると現実的ではなかった。そこで、卸先のレストランに個人のお客様を紹介してもらうことはできないかと考えました。
「レストラン向け・プロ向け」専門で創業した方針を守りたい気持ちもありましたが、事業もスタッフも、家族も守らなければいけない。何より野菜の成長は待ったなしです。その出口が必要でした。変えるなら今しかないと決断しました。

一般の方に野菜を売ることについて、東京・表参道「L’AS」の兼子大輔シェフに相談したら、「それはいい考えだと思います。応援します」と賛同してくださった。
そこで、「レストラン野菜BOX」という詰め合わせを作り、LINEで受注、宅配で届けるという一般販売をスタートしたのです。
協力レストランにもお金が入る仕組みにして、取引店に一斉に依頼のFAXを送ると、シェフたちが「レストランクオリティの野菜を家庭で楽しむことができる貴重な機会です」と広めてくれました。飲食業が厳しい状況にあるなか、自分の名前と店の看板を出して伝えてくれたことは本当にありがたかった。

3月末に売上が9割減したものの、4月2日には野菜BOXの入金がありました。結果的に思ってもみなかった注文数に。4月の対レストラン売上は2割でしたが、野菜BOXで通常月の売上をまかなうことができました。

私が扱う野菜はすべて、足を運び、土を触り、生産者の仕事と人柄を見てきたものです。産地から届く段ボールを開ける度に、生産者の野菜作りに対する熱意や想い、努力や手間、根性や意地、そして野菜を育てることへの愛や自信が伝わってきます。


生産者から届いた野菜。段ボールの中の景色からも、畑や仕事の様子を想像する。


農家の方たちの仕事はコロナ禍でも何も変わりません。畑は同じようにそこにあり、彼らの手によって野菜は力強く育っています。「なんだか大変なことになったね」「でも、今までより仕入れの量が増えているのはなんで?」という質問が来ることもありますが、おかげさまで野菜の流通をストップせずにいられています。



問2 今、思うこと、考えていること

野菜の味が家庭にも伝わっている。

2019年、千葉県は過酷な台風被害を受けました。ルコラステーションの小さな出荷場は水害により、海に浮かぶフランスの小さな島・モンサンミッシェルのようになりました。
近隣農家は被害を受け、配送業者もストップ。「なのに、ルコラステーションの野菜はヤマトで届く」と不思議がられました。

私たちの仕事は必要とするシェフに野菜を届けることです。無事だった野菜を探し出し、荷受けも出荷も1時間かけて別の営業所までピストン輸送して発送しました。
状況がどうあろうと、できる方法を探すのがプロの仕事だと思っています。不測の事態に対応する術をスタッフ全員で日頃から考えているので、それほどあたふたはしない。シェフたちに迷惑がかからないように頑張るまでです。

今回の発見は、自分が思っていた以上に、一般のお客さんが野菜の味の違いに気づき、喜んでくれたことです。「普段なにげなく買っている野菜と、味の強さが違う」という感想が毎日届きます。


レストラン野菜BOXの詰め合わせ。内容は時期によって変わる。珍しい品種も多いため、野菜ごとのおススメの食べ方が添えられて届く



過去の職歴に「友禅染め師」がある。野菜の案内はすべて手書き。日頃、色彩を考えてシェフに野菜の提案ができるのもかつて絵師だった畝田さんならでは。



「生産者の仕事を正しく理解してくれるのはプロの料理人」と今まで思っていたのですが、その考えは狭かった。これまで「プロ向け」と頑なだったことを申し訳なく思いました。2回も3回も野菜BOXをリピートしてくれる方がいて、それはもう私たちの大切なお客様です。

「実家のおふくろに野菜を送りたい」。「一緒に暮らすことができなくなった子どもと、野菜をきっかけにビデオメッセージすることができた」なんていう感想もありました。そんな便りがうれしくて、ぐっときてしまいました。

むずかしいのは、野菜BOXの止め時です。レストランへの出荷に影響が出ることは絶対にできないため、一般販売は数を制限しながら、ご要望があれば続けていきたい。バランスを考えながら2つのスタイルでやっていければと思っています。

問3 シェフや食べ手に伝えたいこと

できることを探して、探して、探した先に未来がある。



畝田さんのfacebookより。野菜の新しい側面に目を向ける。シェフたちもそれに応え、野菜の価値が広がっていく。



今回、取引先レストランのシェフたちの柔軟さやたくましさを改めて目の当たりにしました。

野菜BOXを相談した「L’AS」兼子さんの店は、直後に自粛要請で店を閉めています。そんな状況下で「ルコラステーションの野菜の味と品質は私が保証します」とSNSで繰り返し紹介してくれました。そして、「仲間達の雇用を必ず守り、スタッフと力を合わせながら知恵を絞り何とか生き延びたい」と、テイクアウトやデリバリーに果敢に取り組んでいました。

東京・神宮前「傳」の長谷川在佑さんは、店の看板メニューであるサラダ「畑の様子」を家庭で再現できる野菜セットを作ろうと提案してくれました。傳では野菜一つひとつに細かな仕事を施しているので、「そんなの、できるわけないよ」と私。「できる、できる! まったく同じはむずかしいけど、ごま油と塩昆布があればできちゃうんですよ」と、シェフ自らYouTubeで作り方を配信し、SNS投稿企画にレストランでの食事券プレゼントを付けるなどして盛り上げてくれたのです。
レストランクオリティのサラダを作ることができ、作る楽しさやおいしさを知り、レストランへの興味にもつながるといったアイデア。そして、生産者に食べ手の感想が伝わるというメリットもあります。


傳のオリジナル野菜BOX「畑の様子」に添えられた説明には、畑の様子も書かれている



そうした、柔軟で強靭なシェフたちによる「食べ手と一緒に楽しみながら」という発想や行動が私の支えとなり、気持ちも引っ張られました。
取引先の多くのお店が踏ん張っている一方で、思考停止して立ち止まってしまったシェフたちもいます。 状況は様々なので一概には言えませんが、誰にとっても厳しい状況の今、「何ができるか?」 と思考してチャレンジする力が求められている気がします。「苦しい」と嘆くだけでなく、考えて、できることを探して、探して、探して、地道に仕事をしていく先に未来があると思っています。

畝田謙太郎(うねた・けんたろう)
有限会社ルコラステーション代表。信頼する生産者から仕入れた野菜を主にレストラン向けに販売する。料理人のニーズを生産者に伝え、料理人には新しい食べ方を提案するなど野菜の多様な側面を伝える。野菜のプロ “ベジター”の育成にも取り組む。

有限会社ルコラステーション Facebook
https://s.r-tsushin.com/2UVqgPe




大地からの声

新型コロナウイルスが教えようとしていること。




「食はつながり」。新型コロナウイルスの感染拡大は、改めて食の循環の大切さを浮き彫りにしています。

作り手-使い手-食べ手のつながりが制限されたり、分断されると、すべての立場の営みが苦境に立たされてしまう。
食材は生きもの。使い手、食べ手へと届かなければ、その生命は生かされない。
料理とは生きる術。その技が食材を生かし、食べ手の心を潤すことを痛感する日々です。
これまで以上に、私たちは、食を「生命の循環」として捉えるようになったと言えるでしょう。

と同時に、「生命の循環の源」である生産現場と生産者という存在の重要性が増しています。
4月1日、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)、3機関のトップが連名で共同声明を出し、「食料品の入手可能性への懸念から輸出制限のうねりが起きて国際市場で食料品不足が起きかねない」との警告を発しました。
というのも、世界有数の穀物生産国であるインドやロシアが「国内の備蓄を増やすため」、小麦や米などの輸出量を制限すると発表したからです。
自給率の低い日本にとっては憂慮すべき事態が予測されます。
それにもまして懸念されるのが途上国。世界80か国で食料援助を行なう国連世界食糧計画(WFP)は「食料の生産国が輸出制限を行えば、輸入に頼る国々に重大な影響を及ぼす」と生産国に輸出制限を行わないよう強く求めています。

第二次世界大戦後に進行した人為的・工業的な食の生産は、食材や食品を生命として捉えにくくしていたように思います。
人間中心の生産活動に対する反省から、地球全体の様々な生命体の営みを持続可能にする生産活動へと眼差しを転じていた矢先、新型コロナウイルスが「自然界の生命活動に所詮人間は適わない」と思い知らせている、そんな気がしてなりません。
これから先、私たちはどんな「生命の輪」を、「食のつながり」を築いていくべきなのか?
一人ひとりが、自分自身の頭で考えていくために、「生命の循環の源」に立つ生産者の方々の、いま現在の思いに耳を傾けたいと思います。

<3つの質問を投げかけています>
問1 現在のお仕事の状況
問2 今、思うこと、考えていること
問3 シェフや食べ手に伝えたいこと
























































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