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PEOPLE / 生産者・伴走者

大地からの声――2「食は生命」と考えるきっかけ。佐々木ファーム 佐々木麻紀さん

2020.05.07

PEOPLE / LIFE INNOVATOR

連載:大地からの声

佐々木麻紀さんのinstagramには色鮮やかな野菜とそれに負けないくらいみずみずしい感性がほとばしっています。しかし、4月下旬のある日、「野菜達に、最後まで送り届けるという責任が取れなかった不甲斐なさ。野菜達に謝り、土へと返す。つくる責任。この悔しく、哀しい懺悔の思いを必ず明日の力に変える」という言葉が綴られました。

問1 現在の仕事の状況

食べ手と直接つながる機会と捉えて。

北海道の洞爺で循環型の農業を営んできました。菌や微生物、虫や動物、人と自然が共生する農業です。
出荷先はtoBが9割、toCが1割。それが営業自粛の影響でtoBのお客様への出荷が激減しました。4月末の時点で、前年の4~5割です。この状態が3カ月目を迎えています。

畑には生育途上の作物が多く、自粛が続けばロスになりかねません。ほうれん草など成長が早い野菜は出荷を急ぎたい。一年の半分が冬という洞爺の環境の中で、アイスシェルターで熟成させ糖度を高めて出荷する野菜もありますが、貯蔵できるタイムリミットは刻々と近づいてきています。

toBへの出荷が減った分をカバーすべく、これまで十分に手を掛けられずにいたネットショップに野菜セットをアップしました。ありがたいことに「NARISAWA」の成澤由浩シェフや「OGINO」の荻野伸也シェフがシェアしてくださり、また、ap bankの「GREAT FARMERS TO TABLE」で「The Blind Donkey」の原川慎一郎シェフが推薦してくださって、以前は週3件くらいだったネット注文が1日に5~20件は入るように。エンドユーザーと直接つながる機会と捉えて、詳しい野菜の解説を付けるなど、慣れないながらも、toC向けの梱包に力を注いでいます。

並行して、保存食作りに力を入れています。
東日本大震災や北海道地震など、災害時に痛感するのが保存食の必要性です。保存可能でしかも調理せずに簡易に食べられる野菜があるといい。野菜を乾燥させ、味噌を使って作る保存食作りに取り組んできましたが、今だからこその必要性を感じ、その加工にも力を入れています。


問2 今、思うこと、考えていること

人から人への輪の広がりに胸が熱くなりました。

東京・学芸大学「ヒグマドーナッツ」の春日井順さんとは、ジャガイモが余っていた時に原川シェフが届けてくださったことからお付き合いが始まりました。以来、うちの熟成ジャガイモをフライドポテトに使ってくださっています。春日井さんは北海道出身で、道産食材へのこだわりが強い。
その春日井さんから連絡がありました。「店の前で野菜を売ろうと思うので、送ってほしい」。店頭にジャガイモ、ビーツ、ニンジンなどを並べ、葉物は傷まないように冷蔵庫に入れて売るという行き届いた扱い方で、SNSでも投稿してくださった。それが思ってもみないほど早いペースで売れていくんです。

お客さんが購入した野菜で作った料理をインスタにアップ。ご近所の居酒屋「ばりき屋」さんは、ビーツで「塩きんぴら」を作って春日井さんに届け、レシピまで公開してくださったそうです。続々と「ヒグマドーナッツ」の周りで「佐々木ファームの野菜で作ったよ。おいしかったよ」と輪が広がっていった。
これまで経験してこなかったつながりや循環に胸が熱くなりました。今日も札幌の日本酒屋さんが、「お酒を飲む時、おいしい野菜があったほうがいいでしょう。店で野菜売りますから」と言ってくださいました。


東京・学芸大学「ヒグマドーナッツ」の店頭には、今、佐々木ファームの野菜がずらり。



自分さえ良ければいいと誰も思わないのは、みんなが困っているからかもしれません。業種を超えて、環境意識が高く、社会意識の高い人たちが核になって、周囲を巻き込み、大事なことを楽しく伝えている。新しい価値観が生まれていくのを感じます。


問3 シェフや食べ手に伝えたいこと

野菜も人間も同じ。自分の中に生きる力を。

何のために食べるのか、立ち返ることが大事じゃないかと思います。
健康、ダイエット、便利、流通……これまで便宜的な面ばかり語られがちだった。生命を軽く見ていた。今、改めて「食は生命」と考えるきっかけをもらったように思うのです。


「春になるとちゃんと芽が出てくる野菜たち。ほんとすごいねー」とinstagramに投稿。麻紀さんは常に初心だ。



土の中にも腸の中にも、良い菌と悪い菌と両方いて、両方必要なんですよね。そのバランスを調整するには、バランスが整っているか偏っていないかを感じ取る力が必要です。
今の主流の農業は、人間の手厚いサポートにより育てられる野菜が多く、自然や植物そのものの意志や力でというより、人間のほどこしにより生かされている野菜と感じています。けれど、自然農はひたすら見守り支える農業。私は野菜の生命力を信じています。

生きものって、生命の危機を感じた時に、生命力が上がるのだと思う。寒いぞとか、こりゃまずいぞとか感じて、対処しようとするから生命力も強くなる。
人間も同じです。甘やかされて生かされていたら、ウイルスが来た時に自分で自分を守れない。
自分の生命を輝かせる力、生命のスイッチを押す力は、自分の中に持たなければと思うのです。

佐々木麻紀(ささき・まき)
北海道の洞爺で1907年から続く「佐々木ファーム」5代目。レストラン、パン屋など、野菜が使われる現場を経験した上で、2017年から代表を務める。家族で大切にしてきた言葉は「土といのち」。ロゴマークの3色のシンボルカラーは、青:宇宙・空気・水、緑:植物・自然・いのち、茶:地球・大地・食を表し、すべてがつながり合い、循環・共生していることを表現している。

佐々木ファーム
http://sasakifarm.net/
オンラインショップ
http://sasakifarm.shop-pro.jp/
佐々木麻紀さんinstagram
@maki01130314

ap bankによる小さな生産者と食べ手を繋ぐプラットフォーム「THE GREAT FARMERS to TABLE」はコチラ






大地からの声

新型コロナウイルスが教えようとしていること。




「食はつながり」。新型コロナウイルスの感染拡大は、改めて食の循環の大切さを浮き彫りにしています。

作り手-使い手-食べ手のつながりが制限されたり、分断されると、すべての立場の営みが苦境に立たされてしまう。
食材は生きもの。使い手、食べ手へと届かなければ、その生命は生かされない。
料理とは生きる術。その技が食材を生かし、食べ手の心を潤すことを痛感する日々です。
これまで以上に、私たちは、食を「生命の循環」として捉えるようになったと言えるでしょう。

と同時に、「生命の循環の源」である生産現場と生産者という存在の重要性が増しています。
4月1日、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)、3機関のトップが連名で共同声明を出し、「食料品の入手可能性への懸念から輸出制限のうねりが起きて国際市場で食料品不足が起きかねない」との警告を発しました。
というのも、世界有数の穀物生産国であるインドやロシアが「国内の備蓄を増やすため」、小麦や米などの輸出量を制限すると発表したからです。
自給率の低い日本にとっては憂慮すべき事態が予測されます。
それにもまして懸念されるのが途上国。世界80か国で食料援助を行なう国連世界食糧計画(WFP)は「食料の生産国が輸出制限を行えば、輸入に頼る国々に重大な影響を及ぼす」と生産国に輸出制限を行わないよう強く求めています。

第二次世界大戦後に進行した人為的・工業的な食の生産は、食材や食品を生命として捉えにくくしていたように思います。
人間中心の生産活動に対する反省から、地球全体の様々な生命体の営みを持続可能にする生産活動へと眼差しを転じていた矢先、新型コロナウイルスが「自然界の生命活動に所詮人間は適わない」と思い知らせている、そんな気がしてなりません。
これから先、私たちはどんな「生命の輪」を、「食のつながり」を築いていくべきなのか?
一人ひとりが、自分自身の頭で考えていくために、「生命の循環の源」に立つ生産者の方々の、いま現在の思いに耳を傾けたいと思います。

<3つの質問を投げかけています>
問1 現在のお仕事の状況
問2 今、思うこと、考えていること
問3 シェフや食べ手に伝えたいこと
























































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