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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

三水亜矢さん(さみず・あや)産直コーディネーター

第3話「農家の未来を考える」(全5話)

2016.08.01

農家が永続的に自立できるように。

生産者は、JAに卸すと自分たちで価格を決めることができません。
「JAがいいか悪いではなく、自分の商品の価格を、自分で決めるという行為が必要だと思っていました。製造業でも出版業でも、どんな業界でも、生産、出荷、請求というサイクルがある。そのサイクルに乗り、“商売をしている”という考えを持つことが、これからの農業には必要なのではないか」

農業が向き合っている問題は様々です。仕事はきつく、後継者も少ない。
自分が農に携わることで、生産者に経済的な大きなものは与えられないけれど、何か力になれるのではないか? 三水さんはそう考えました。






Photographs by Masahiro Goda,text by Reiko Kakimoto



産直システムを維持できる理由





目指したのは、「できる限り完熟の状態で届ける」こと。産直は適した方法ですが、リスクもあります。最も大きなのは、農家と顧客が直接取引を始める可能性。しかし、そうしたケースは起こりませんでした。理由を掘り下げると、三水さんが作った産直システムの“強み”が見えてきます。

なぜ、産直システムが維持できるのか?
1 製菓業務用に限定(ターゲットを絞る)
2 生産者との信頼関係を築く(自分の装飾をしない)
3 生産者の思いを伝えるツールを作る(商品ありきでない取引をする)
4 情報をオープンにする(風通しのよい流通を作る)

製菓の業務用に限定





取引先は、“プロ向けの業務用”とし、さらに絞り込んで、パティスリーに限定しました。オーナーシェフが多く、仕事がハードで、仕事量を考えると収入は決して多くない。「そんな風に苦労している方に“怪しい”人はいないだろうと。結果、トラブルも少ないと推論したのです」

製菓材料メーカーでの経験から、業界の事情を理解した無理のない値付けもできます。「正直に申し上げて、掛け率はほかの製菓材料より高いです。安価さを求める人には向かないかもしれない」。けれど、品質と“情報”という付加価値を付けて、取引を差別化させました。

生産者との信頼関係





取引前には自身が何者か、何を大切にしているかを伝えます。「私よりも、生産者のほうがリスキーだと思う」から、一切、自分の装飾をしないことに決めました。そうして丸裸になったうえで、「生産者に、私でいいかどうかを決めてもらうのです」。 “価格は自分で決めるべき”という考えは、仕入値の決定権を農家に委ねました。

そうして培われた関係は、産直のリスクを回避することになります。ある日の生産者からの連絡。
「○○さんから直接注文が来たよ。請求書は、三水さんにつけておくって伝えたから」。

思いや情報を伝えるツール





取引が決まると、生産者に届ける3点セットがあります。運送便の送り状、伝票、生産者の思いや今後の展望を写真付きで綴った三水さんオリジナルの手紙。生産者は出荷の際にその「手紙」を同梱します。

ある日テレビをつけたら、取引先のリンゴ生産者がドキュメンタリー番組の「なぜ安曇野でリンゴ栽培をしているか」というインタビューに応えていました。

「その方は『安曇野の景観を維持したいから』という思いを述べていらして、それは私が今まで知らないことでした。ああ、こんなことを思いながら栽培を続けていたのかと。それまでは栽培の技術やこだわりを伝えていたのですが、それからは、彼らの思いや将来に向けての考えを中心に紹介するようになったんです」

生産者にはPRが上手でない人も多い。「でも、東京の有名菓子店が自分の果物を使うことで誇りを持った生産者は少なくありません」。三水さんの仕組みの一つひとつは、農業に活気を吹き込めたらという願いの表れでもあるのです。

パティシエを生産者の畑に連れて行くこともあります。これらも、農業を衰退させないための、三水さん流のライフワーク。パティシエは畑から創作のインスピレーションを得て、生産者は使い手の要望を聞くことも。「実際に見ていただくことで、地元では当たり前になりすぎて見えなくなっている価値に気づかせていただくことも多いんです」




情報はオープンに





顧客用の出荷リストや送り状には、生産者情報をすべてオープンにしています。「ここまでオープンにすると、逆に浮気しづらいのかもしれません」と三水さん。パティスリーからは生産者指定で注文が入ることもあれば、「誰々さんのがないなら、いらない」と、代替商品を求めないシェフたちもいます。

適正な価格、生産者との信頼関係、顧客に対する信頼を考えると、直接取引のほうがリスクが高い。生産者、使い手ともにそう思わせるような、風通しのよい流通を作れたことが、15年間右肩上がりで続けてこられた大きな要因となっています。

「でもなにより・・・」、ビジネスを立ち上げた当初を振り返り、「生産者の方々が、なんの実績もない自分のために、掛け売りを承諾し、手塩にかけた農産物を出荷してくれました。それがなければ、今はありません。シェフたちの理解もこの仕組みを支えてくれています」。




三水亜矢(さみず・あや)
大学卒業後、製菓材料メーカー勤務等を経て、長野県に移住。県内の果樹生産者との出会いがきっかけで、業務用(パティシエ、料理人)に限定した果物の産地直送コーディネートビジネスを立ち上げる。現在は、特徴ある野菜栽培の産地を目指して「プチレギューム」「ベジタブルブーケ」の栽培・販売にも力を入れる。

























































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