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「栽培」と「醸造」から紐解く日本ワイン Vol.2

「栽培」と「醸造」の基本を知る編

2015.12.25


ワインの味わいは、その多くが栽培や醸造にもとづきます。
だから、ワインを理解するには、栽培や醸造について知ることが近道です。
1909年に開園した「登美の丘ワイナリー」には、百年を超える歴史の中で試行錯誤を重ね蓄積してきた栽培と醸造の知見があります。
日本ワインを理解する上で不可欠なそれらの知識を、登美の丘ワイナリーを例に引きながら、渡辺直樹ワイナリー長がレクチャーしてくださいました。

text by Kei Sasaki / photographs by Tsunenori Yamashita




環境 ―ワイン用ぶどう栽培に適した環境




「登美の丘ワイナリーは、富士山や南アルプス、甲斐駒ケ岳や八ヶ岳などの山々に囲まれ、山梨でも最も雨の少ない土地にあります。約150ヘクタールの敷地内に約25ヘクタールのぶどう畑が広がる、自然の中のワイナリー。ぶどう畑は標高約400~600メートルの南向きの斜面に広がっています。
土壌は粘土とシルトと砂が適度に混ざった火山性土壌。下層部は火砕流堆積物で形成されていて、水はけはいいほうです。年間日照時間は約2250時間とボルドーと比べても長く、8月には40℃近い高温を記録しますが、標高が高いせいもあって、昼夜の寒暖差が大きい。とりわけ収穫期にあたる9月、10月は昼夜の気温差が大きく、ぶどう栽培に適していると言われています」


■森覚ソムリエによるコメント
「登美の丘ワイナリーは、広大な畑の中に醸造施設があります。ワイナリーなのだから当たり前なのでは、と思う方もいるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。日本国内には栽培農家から購入したぶどうでワインを仕込むワイナリーも数多く存在します。どちらがいい、悪いとは一概にいえませんが、その両方があることを頭に入れることは、日本ワインを理解する上でとても重要です」





栽培 ―自然の営みを活用する不耕起草生栽培



「『頑なに“土”からつくり上げる』というのが私たちの基本的な考え方です。
日本は雨が多いので、水はけの分析とケアは必須。登美の丘の土壌分析をすると、畑の表面は水の動きが少なく、深い層で水が動くことがわかりました。そこで、新しく苗を植える際、掘る穴の深さは20センチ程度にとどめ、なるべく傾斜地に植えることで、水が動く部分に根が触れず、表面に染みた水は傾斜で排出できるよう工夫しています。また、排水のための暗渠も敷設しています。
ワイナリーは一面が草に覆われていますが、これは、できるだけ手を入れず畑を自然の状態に保つ不耕起草生栽培を行っているから。下草が土を耕し、柔らかくなった層を水が流れていくので、雨が降っても表土が流出せず、土の中の排水性が高まります。同時に微生物やミミズなどの生物も増加し、土壌が豊かになる。また、ぶどうの木に水や栄養が集中して枝が伸びすぎるのを防ぐなどの効果もあります。下草が伸びても抜かずに刈り込むだけ。季節と共に移り変わるのを見守ります」


■森覚ソムリエによるコメント
「ボルドーのAOCマルゴーといえば高級ワインのアペラシオンですが、80~90年代までは評価も価格もあまり高くありませんでした。理由は排水にあります。マルゴー村を中心に5つの村でつくられるワインがAOCマルゴーを名乗れるのですが、中心のマルゴー村以外は排水の完備が遅く、マルゴー村からの排水が土壌にたまってしまう悪循環が起こっていたのです。1994年にシャネルがマルゴー村のあるシャトーを買収し、すべての村の排水設備を整えたことでAOCマルゴーの品質は飛躍的に向上したと言われています」





品種 ―土壌や気候との相性を見ながら植えています




「登美の丘ワイナリーでは11品種※のぶどうを栽培しています。栽培は単に品種別ではなく、約25ヘクタールの畑を50の小区画に分割し、それぞれの品種の個性と土地との相性を見極めながら栽培しています。日照量が豊富で水はけの良い区画には乾燥を好む赤系品種を、水分を抱え込みがちな区画には、適度な水分を必要とするシャルドネやリースリング・フォルテなどの白系品種を、という具合に。
メルロが比較的、雨や暑さにも適応性が高いのに対して、カベルネ・ソーヴィニヨンは雨や暑さの影響を受けると品種の個性が出にくくなる。栽培には細心の注意が必要です。また、9月中旬以降の涼しくなる時期にゆっくりと熟すプティ・ヴェルドは、登美の丘の気候の中でより個性が発揮されるため、今後、増やしていくつもりです」

※白…シャルドネ、甲州、リースリング・フォルテ、リースリング・イタリコ
赤…メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、ブラッククイーン、マスカット・ベーリーA、ビジュ・ノワール





収穫 ―品種ごと畑ごとに最適のタイミングで収穫する




「ワインの香りや味は畑で育まれます。畑でしっかりぶどうの味わいやアロマが蓄えられるように意識して、収穫のタイミングをはかります。たとえば、甲州の収穫は、山梨の他のワイナリーに比べ約3週間も遅い10月中旬以降。樹でしっかり完熟させることで、深みのある味わいに仕上げていきます。
ぶどうの収穫は、50の区画ごとに収穫日を決めて行っています。8月下旬から11月上旬まで、3カ月に及びます。白系品種は香りの質やボリュームがピークに達したかどうかで適期を見極めます。赤は種がナッツのようにパリッと香ばしく感じたら収穫の合図。果実が熟しているように見えても、種を噛んで苦いうちはまだ早いので、種まで熟すの待ちます。
シャルドネなどは、爽やかに熟す畑とトロピカルに熟す畑とがあるため、同じ品種でも畑によって収穫の時期は変わります。それらを醸造後にアッサンブラージュすることで、登美の丘のシャルドネを表現する味わいになるのです。
収穫はすべて手摘み。貴腐ぶどうは熟度を確かめながら、樹ではなく房や粒単位で収穫していきます」








醸造 ―厳密な選果とぶどうの個性を活かす小仕込み





「50の区画ごとに収穫したぶどうを、小さなタンクで別々に仕込む“小仕込み”を行っています。それらを醸造後にアッサンブラージュすることで、登美という土地とヴィンテージをより表現するワインにしていこうというのが私たちの考えです。
畑の段階でできる限り味わいを損ないそうな粒は外して収穫した上で、厳密に選果してから仕込みます。ワインは液体なので、カビや病気のついた粒がひとたび混入してしまうと、悪い部分だけを後から取り除くことができません。
ぶどうや果汁になるべく負荷をかけずに醸造するため、振動式の除梗機や重力でワインを移動させるグラヴィティフローシステムなど最新の設備も導入し、余分な酸素が入らないようO2コントロールも行っています。また、白ワインは、澱と共に寝かせるシュールリー製法でいきいきとした味わいに仕上げるなど、品種とワインの個性に合わせた醸造も行っています。
2013年には新たに20基、ステンレスの醸造タンクを導入しました。今後、ますます小仕込みを徹底し、登美の丘ならではのワインの味わいを模索するつもりです」



■森覚ソムリエによるコメント
「畑を細かな区画に分けても、収穫後にまとめて大きなタンクで醸造しては意味がありません。冷蔵庫でも野菜は野菜室、肉はチルドルームに入れるように、温度を含めてふさわしい環境で仕込むことが大切です。新興の小規模ワイナリーは、必然的に小仕込みになることが多いですが、25ヘクタールの自社畑を持つ登美の丘ワイナリーが小仕込みを徹底していることは非常に意味があると思います」





熟成 ―ぶどうが持つ味わいとアロマを引き出す醸造





「日本ワインの品質が高まった要因のひとつに、欧米志向からの脱却が挙げられます。登美の丘ワイナリーでも、2009年から、パワフルさよりも日本ならではの柔らかさ、自然な甘さがあるワインづくりを目指すようになりました。畑でよく熟したぶどうをいかにしてそのままワインにするか。したがって熟成も、樽の香りを付けるのではなく、ぶどうのアロマを生かすという考えで行っています。その結果、木樽での熟成期間は短くなり、新樽の使用比率も低くなってきています。ステンレスタンクで熟成させることもあります」





アッサンブラージュ ―よりクオリティ高く土地を表現するために





「アッサンブラージュというと、異なる品種のブレンドを想像されるかもしれませんが、登美の丘ワイナリーでは必ずしもそれだけを意味するものではありません。50の区画に分けて栽培したぶどうを、それぞれ区画ごとに醸造するわけですから、単一品種のワインでも別々に仕込んだ数種類をアッサンブラージュして仕上げます。
たとえば、シャルドネは6つの区画に分けて栽培されています。別々に仕込んで各々の区画の個性が表れたものをアッサンブラージュすることで、その年の登美の丘のシャルドネをより良く表現するワインに仕立てるのです」




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