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~食のバリアフリープロジェクト・FREEなレシピ~

「organ」紺野真シェフと共に学び実践するムスリム対応食

text by Kyoko Kita / photographs by Tsunenori Yamashita

2020年の東京オリンピックまで2年を切りました。訪日客が増える中で、世界の総人口の4分の1に迫るムスリム(イスラム教徒)をおもてなしする準備も進めていかなければなりません。ムスリムもそうでない人も、共に食卓を囲むにはどんなことに気をつけなくてはならないか、どんな料理を提供するのがよいか。共に学び、実践に向けて考えるMEETUPが、7月12日に開催されました。

日頃から“食のバリアフリー”を意識する人々が集まりました。



食べられない食材を知ろう。

会場となったのは、西荻窪の自然派ワインビストロ「organ」。シェフの紺野真さんは滞米歴が長く、帰国後もフランスをはじめ世界各地を旅して、様々な人と食事を共にし、お酒を交わしてきました。でも、意外にも、ムスリム対応食として料理と向き合うのは、今回が初めてだそうです。

ムスリム対応食に取り組むにあたり、まずは、ムスリムについて、正しく理解する必要があります。そこで、ムスリムに関する知識や対応策の普及に努める「クロスブリッジ」のカーン恵理子さんを講師にお招きしました。 カーンさんは日本人ですが、パキスタン人の男性との結婚を機にイスラム教に改宗、約20年にわたってムスリムとして日本で生活・子育てをしてきました。在日&訪日ムスリムの人々が、何を望み、何に困っているか、ご自身の経験をもとに語る言葉に、参加者はみな真剣に耳を傾けました。

ムスリムについての正しい知識を広め、理解促進に努めるカーン恵理子さん。

「“ムスリム”や“ハラール”といった言葉が一般に知られるようになってきましたが、やや偏った方向に向かっている印象を受けます。“ハラール認証”という言葉が独り歩きして、ムスリムは『認証を得たものしか食べられない』と誤解している人が多いのです。このままではムスリムは何も食べられなくなってしまう、と心配になってしまいます。まずは、ムスリムについての基本のキを知っていただきたいと思います」

ここでカーンさんから参加者の方への質問、「ハラールとはどういう意味だと思いますか?」
――「肉を食べられない、野菜中心、魚もダメ……?」「“許された”という意味だったような……」。
参加者の回答に、「半分は正解!」とカーンさん。

「日本では食べ物とセットで使われることが多いのですが、本来の意味は、合法であること、正しいこと。生活全般にわたった正しい考え方や行いのルール、生き方のガイドラインなんです。だから“ハラールな生き方”という言い方もします。対義語は“ハラーム”です。
一方、“ハラール認証”は、ハラールであることを第三者機関が調査をして与えるマークのことを言います。また、“ムスリム対応”という言葉もあります。これは、簡単に言えば、認証は取っていないけれど、ムスリムの大切にしていることを尊重したおもてなしをすることです。認証を取得するには、時間も労力もかかりますから、あきらめてしまう方も多いです。そうであれば、私はムスリム対応をしていただきたいと思っています」

カーンさんが考えるムスリム対応の基本は4つ。
(1)食べられない(ハラーム)食材を知っておくこと
豚肉、豚肉を使ったもの/ハラール認証マークがない牛、鶏、羊、ヤギ肉と、それらを使ったもの/アルコール
(2)ハラーム食材を抜く、代える、使わない、混ぜない
(3)原材料を表示する
日本語ができない人や子供でもわかるように、ピクトグラムか多言語で。両方が理想的。
(4)店内や調理環境を表示する
ワインなどが店内に置かれていること、豚肉と一緒に調理されていることを嫌う人も。


「特に3や4については、ムスリムによって許容範囲が違います。気にする人もいれば、しない人もいる。だからこそ、ムスリム自身が判断できるように表示をしていただきたいのです」

カーンさんの話に耳を傾け、熱心にメモをとる参加者のみなさん。

基礎知識を教わった参加者から、質問が挙がりました。(Aはカーンさん)

Q:わからないことが多いため、悪意はなくても間違ったことをしてしまいそうです。
A:食べてはいけないものを知っておくことが大切です。その上でコミュニケーションを取っていただきたい。食べられるもの、食べられないものを最終的に判断するのは一人ひとりのムスリムで、その基準も個人差が大きいのです。原材料表示があれば、双方のリスクを回避しやすくなります。ピクトグラムなら、日本語ができない人や子供でも、指差しで確認し合えるので、良いですね。

Q:タコやイカを嫌う方もいると聞きましたが。
A:宗派によって嫌う方もいます。でも全員ではありませんので、疑問に思ったら本人に聞いてみてください。

Q:ピクトグラムではどこまで表示すべきですか?
A:アレルギー27品目とアルコールです。これでヴィーガンなども含め、幅広い食のバリアフリー化が実現できます。

Q:みりんは使えますか?
A:人によっても考え方が違います。許容するのかしないのか、原材料の表示をすることでムスリム自身に判断してもらうのがよいでしょう。お酢、アルコールを最終添加する場合がある味噌や醤油、精製過程で牛骨を使っているとされる白い砂糖も同じことが言えます。



普段の料理をベースに考えよう。

何よりも食べ手を思う気持ちが障壁を突き崩していくと教えてくれた紺野シェフ。



ここからいよいよ実践編。紺野シェフによるムスリム対応料理がサーブされました。
「うちの場合、数年前から魚と野菜料理がメニューの半分以上を占めているので、正しい知識があれば、大きく変えずに対応できると思いました。今日お出しする料理も、普段の料理とまったく同じか、少し考え方や食材を変えただけです」



提供されたノンアルコールドリンクのクリエイティビティがどれもハンパない。



料理と一緒に添えられたのは、ペアリングを楽しめるノンアルコールドリンク。手元に配られたメニューには、料理名の他、料理とドリンク、それぞれに使われている原材料が書かれていました。
またパンを作る時、普段はワインの絞りカスから起こした酵母を使っているそうですが、今回はレーズン酵母で作ったとのこと。「判断が難しい食材かもしれない」という紺野シェフの言葉に、「それも個人の判断によるので、お客様とのコミュニケーションが必要ですね」とカーンさん。



1品目:カリフラワーのムースと雲丹、浅利サフランクリーム、トマトのジュレ
paring:ヨーグルト、赤紫蘇、グレープフルーツ、レモン、砂糖、水、塩



「トマトのジュレは、トマトをミキサーにかけて濾したものをゼリー状に固めています。ゼラチンは豚由来なので、代わりにアガーを使っています。アサリは普段なら白ワインとペルノーで蒸すのですが、今日は水だけで開かせて、生のフェンネルで香りをつけ、サフランを加えてクリームソースにしました。ドリンクは、ソースと相性の良いヨーグルトをベースに、季節の赤紫蘇を使って、色を合わせています」(紺野シェフ)



2皿目の料理にはスモークしたオリーブオイルを紺野シェフ自らかけて。



2品目:椎茸と蕪、米、野菜のジュとスモークしたオイル
paring:ビーツ、ほうじ茶、オレンジ、レモン、蜂蜜、水



「この料理は、野菜だけで作ることを課題に考えました。最近、自分自身の料理が軽くなっていて、その流れで、野菜のジュがマイブームなんです。野菜をクタクタになるまで煮て、ミキサーにかけて絞って煮詰めたソースです。いつもは肉にかけているのですが、肉に引けを取らない満足感が得られるよう、キノコを使いました。また、食べ応えが出るようにお米も敷いています。お米は、だし、砂糖、みりん、塩、ワインビネガーで炊くととてもおいしいんです。今回は砂糖を黒糖に、ワインビネガーを黒酢に代え、みりんを使わずに炊いてみました。だしは、昆布とシイタケからとったものです」(紺野シェフ)

料理を食べ進める中で、こんな質問が挙がりました。

Q:材料を変えてしまって、味も変わりませんか?
A(紺野シェフ):そもそも同じ味にしようと思っていないんですね。おいしければよいかなと。



参加者からの質問に答える紺野シェフ。「本格的に取り組むのは初めて」というシェフが語る言葉は共感を生みました。



Q:ムスリムの方が明日、突然来店することになったらどうしたらいいでしょう? 上手くアレンジできるかどうか……。
A(カーンさん):ご自身が満足のいくお料理を提供できないのであれば、断っていただくのがよいと思います。「お迎えする準備ができていないので、また今後来てください」と言えば、嫌な感じはしませんよね。
A(紺野シェフ):作り方や食材を変えておいしいかわからないものを出したくはないですよね。焦ってしまいがちです。でも冷静になって視野を広げると、できることってたくさんあるのに気付く。ビネガーさえ気を付ければ、サラダ類なら大丈夫な料理が多いと思います。また魚や野菜をメインにすれば、いろんな料理が思い浮かぶ。臨機応変に考えられるといいですね。



3品目:平目のキャベツ包み、平目のアラのピルピルソース
paring:茄子、トマト、鰹節、レモン、タイム、塩、水



「魚の頭やアラをピルピル(コンフィ)にし、煮凝りと屑肉、香りの移った油を、焦がしたトマトと一緒にミキサーにかけてソースにしました。ジャガイモのパンケーキにはバターや牛乳、チーズを使っています。乳製品はハラールなんですね。それを知って一気に可能性が広がりました」(紺野シェフ)



4品目:桃とバジルのアイスクリーム、ライムとローズマリーのバシュラン
paring:ジャスミン茶、柚子、グラニュー糖、水、レモン



「ジャスミン茶をたっぷりかけて召し上がってください。ジャスミン茶は甘味をつけて果物を浮かべるだけでもスイーツになるんです。通常、アイスを作る時に安定剤として加えるゼラチンは入っていません。かえってナチュラルな味わいに仕上がった気がします」(紺野シェフ)



「できない」ではなく「やってみよう」。

食事を終えた参加者からは、「ムスリム対応食ということを忘れてしまうくらい、ただただおいしいお料理でした」と大満足の声。

「難しく考えていたけれど、楽しいのが一番だと実感しました。“食卓を囲む”というのは、みんながフラットになるということ。たくさんの人が楽しめる空間作りをしていきたいと思いました」

「特別なことをしなくてよい、ということがよくわかりました。食べられないものだけ意識すればよいのであれば、アレルギーや好き嫌いへの対応と同じ。ごく当たり前のことだと思えます」

「意識が変わり、自分の世界も広がったように感じました。みんなで同じ食卓を囲み、同じ料理を楽しむことは、作り手のちょっとした意識の変換で簡単に実現できることだと思います。私自身、もっともっと柔軟な頭と心で料理をしていきたいです」

「コミュニケーションの大切さをとても感じました。また、『できない』ではなく『やってみよう』という思いは良い方向につながるはず」



自身の体験をもとに語る言葉には説得力があります。



カーンさんも、「ハラームな食材が入っていないかどうか、食事前の30分はいつもストレスにさらされます。今日はそれから解放されて、普通に皆さんと同じ食卓を囲める幸せを感じました」と喜びの表情を浮かべていました。
「ムスリムのための味つけや料理にしてもらう必要はありません。“みんながおいしい料理”はムスリムにとってもおいしいのです。ちょっとした工夫で、今あるものをどう変えるかという視点を大事にしていただけたら」

異文化の人を迎える時、言語を学ぶ努力も必要だと思います。それと同時に、相手が大事にしているものを理解しようとする気持ち、良い時間を過ごしてほしいという思いが大切なのかもしれません。
2020年に向けて、日本のレストランがより幅広く、多くの人にとって、楽しく豊かな場となることを願ってやみません。



体質、宗教、年齢などの制約や制限に関わらず、食卓を囲む同士が分かち合って食べられる料理を生み出そう……。





SHOP DATA
◎ organ

東京都杉並区西荻南2-19-12
☎ 03-5941-5388
17:00~23:00LO
月曜、第4火曜休
カード可、22席、禁煙
JR西荻窪駅より徒歩5分















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