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“サステナブル”を五感で知る自然体験がスタート!

「生きる力を養う学校~いのちのてざわりワークショップ~」

2023.05.15

text by Sawako Kimijima / photographs by Shinya Morimoto

連載:生きる力を養う学校~いのちのてざわりワークショップ~

「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」と「料理通信」がタッグを組んでお届けする新しい食のプログラムがスタートしました。
「SDGs」「サステナブル」という言葉が日常的に語られ、地球に負荷をかけない暮らしが必須になった今、“知らなきゃいけないのに知らないこと”がたくさんあるような気がします。
森のこと、畑のこと、土のこと。海のこと、川のこと。菌、微生物、発酵のこと。そして、循環のこと・・・。
自然の仕組みや自然との付き合い方をちゃんと知りたい。環境に負荷をかけない自分になりたい。そう考える人は少なくないでしょう。
東京駅から高速バスで1時間半。千葉県木更津にあるクルックフィールズの30haの敷地には、農場と森が広がり、宿泊施設やレストラン、ソーラーパネルやアート作品の横で、動物や昆虫、植物、微生物が暮らしています。
「生きる力を養う学校~いのちのてざわりワークショップ~」は、クルックフィールズを舞台として、一人ひとりが暮らしの原点に立ち返り、持続可能な暮らしを実践するための学びの場です。
6月11日の本格スタートに先駆けて4月16日に行なわれたワークショップの様子をご覧いただきましょう。


「料理レシピの前に、土のレシピが大切なんです」

この日のテーマは「土づくりと生物多様性」。と聞くと、一瞬、自分とは関係のない事柄のように感じるかもしれません。
「決してそんなことはないんですよ」と話すのは、クルックフィールズの農場長・伊藤雅史さん。午前中のプログラム「土づくりワーク」の冒頭での出来事です。
「たとえば、鉄分を摂ろうとしてホウレン草を食べても、鉄分が生成される土壌で育てたホウレン草でなければ効果は薄いでしょう。私たちは健康のために野菜を食べますが、それって、野菜自体が健康でなければ意味がなくて、野菜が健康であるには、栽培する土の健康が大事なんです」
人の健康は、土の健康の上に築かれる。そして、土の健康とはすなわち大地の健康にほかなりません。

農場長の伊藤雅史さんは、クルックフィールズの前身「耕す 木更津農場」の立ち上げメンバー。2010年からこの場所で有機農業に取り組んできました。

オーガニックファーム、ハウス、エディブルガーデン、ビオトープ、野生の森などを移動しながら、ワークショップは進行します。

「人間が生きていくには空気と水が不可欠なように、野菜も空気と水が不可欠。野菜が根を張る土に空気と水がちゃんと蓄えられていなければいけません」と言いながら、伊藤さんが取り出したのは3種類の土。

①レタスやスイスチャードを栽培しているハウスの土
②タマネギを露地栽培している畑の土
③千葉県内の一等地とされる畑の土

①はほどよく湿った赤土、②は砂のようなサラサラの土、③はやわらかくて湿り気のある黒土です。
「作物によって適した土があります。クルックフィールズ内でも場所によって土質が異なるので、それぞれの土壌にマッチする野菜を栽培しています」

3種の土を触り比べて、野菜と土の関係を知る。クルックフィールズの畑はすべて有機JAS認証を取得しており、化学肥料や化学合成農薬を使用しません。土が野菜を育てる農業だから、土づくりは何より大事。

野菜と土の関係を学んだところで、参加者全員で土づくりにチャレンジ。
実は、土づくりワークの前に、みんなで土の採集を行なっていました。ランチメニュー「鹿肉の泥包み焼き」用の泥を畑から採集したのです。畑の土で泥包み焼きができるの? もし、できるのだとしたら、逆にそんな土で野菜を栽培できるの? みな、半信半疑で土を採集したのでした。
「そうなんです、泥包み焼きには粘土質の土が適しています。一方、粘土質の土で野菜栽培はむずかしい。野菜にとって大切な空気と水を抱え込みにくいから。つまり、さっき採集した土のままでは栽培には適さない。そこで、土づくりの必要が出てくるわけです。さぁ、籾殻、粉々に砕いた笹、堆肥を混ぜ込んでください。籾殻は土中にすき間を作って水を通してくれます。笹や堆肥は微生物や菌のエサになって、微生物の活動を活発にします」
こうして、良い土ができると、野菜も良く育つ。
「私たちの健康のためには、料理レシピの前に、土のレシピが大切だってこと、覚えておいてください」

ランチの泥包み焼きに使う泥を畑から採集。足を取られるくらい重くぬかるんだ粘土質の土壌。泥包み焼きには向いていても、こんな土で野菜の栽培ができるのか?

泥包み焼き用の土と同じ土を用意。「このままでは栽培には向かないですね。野菜作りに適した土になるように、籾殻、粉々にした笹、堆肥を混ぜてください。混ぜる量は自分たちで考えて」と伊藤さん。

「土に必要な条件は大きく3つ。1.物理性:水が通り抜けるすき間があること。2.生物性:微生物や菌が生息しやすいこと。3.化学性:ケイ素、鉄、カルシウム、カリウムなどの成分」。伊藤さんの土づくりレクチャーは本格的です。

午前中、土の採集に続けて、ランチに使う野菜の収穫も実施。レタスを一人一株ずつ畑の畝から抜いていきます。その横で伊藤さんが言ったひと言に、参加者ははっとしました。
「レタスの根っこ、見たことないでしょ? 意外に長いんですよ。地表に出ている部分の背丈と同じくらいの長さがある」
普段、私たちが接しているレタスは、スパッと切られた上の部分だけ。根の存在を意識することはありません。

考えてみれば、可食部だけ切り取られて流通するのはレタスに限った話ではありません。すべからくパーツで届く。それが現代社会のありようです。だから、野菜も肉も魚も食材はみな生きものなのに、生命体として感じられない。レタスの根と葉が分断されているように、生産と消費が分断されて、生きものじゃなくてただのモノとして手元に届いている。レタスの根っこを見ながら、その事実に気付かされます。
それは同時に、生きる知恵が失われることでもあります。里山で自ら食材を調達していた昔の暮らしは生きものと対峙する暮らしでもありました。自然を生かし自然に生かされる知恵と技の上に成り立つ営みです。やがて暮らしの中に機器や工業製品が入り込んで、知恵や技は失われていった・・・。

生命の手ざわりが感じられる場をつくり出したい。生きていくための知恵を伝える場ができないだろうか。「生きる力を養う学校~いのちのてざわりワークショップ~」には、クルックフィールズと料理通信のそんな思いが込められています。

初めて見るレタスの根っこに興味津々、根に焦点を合わせて写真を撮る。「根も食べられますか?」の質問も。


別のハウスではスイスチャードを収穫。スイスチャードには赤茎と黄茎があって、緑に繁った葉の下が鮮やかです。

タマネギ畑では、根が膨らみ始めて「葉タマネギ」になった状態を収穫。「この時期は、葉と根、両方を食べられて2倍おいしい」と伊藤さん。「結球が進むと葉は茶色く枯れてタマネギになります」

クルックフィールズの強みは、農場長の伊藤さんのほかにも、自然と向き合うプロフェッショナルが揃っていることでしょう。
「いのちのてざわりワークショップ」の企画・運営をリードする吉田和哉さんは、大学で生物学を学び、大学院でアライグマの研究をしていたという“生きもの博士”。普段は場内管理と体験学習を担当しています。もう一人、このワークショップの企画・運営を手がける佐藤剛さんは、「パタゴニア」をはじめとするアウトドア領域での仕事の経験を積み重ねる中で自然と共生する術を蓄えてきた人。パーマカルチャーの知識も豊富です。そして、場内に住み(!)、日々変わりゆくクルックフィールズの自然の姿を料理に活かすシェフの山名新貴さん。山名さんと呼吸を合わせて料理にマッチしたドリンクを繰り出してくる小高光さん。精鋭メンバーに導かれて、ワークショップは展開していきます。

全体の進行役は吉田和哉さん。季節と共に刻々と変化する場内の生きものたちの状態を見ながら、プログラムの調整を重ねて、実施へと導きます。

佐藤剛さんは、人間目線じゃなくて動植物の目線で物を見る人。「雨を嫌がるのは人間だけ」など、私たちの“自分都合”な感覚をぐいぐいと突いてきます。

料理通信編集長の曽根もワークに参加。クルックフィールズのメンバーが自然のプロなら、料理通信メンバーは自然の素人。レクチャーを新鮮に受け止めています。


“循環”がリアルに表現されるランチタイム

毎日のように、食品ロス、脱プラスチック、地球温暖化、CO2削減、再生可能エネルギー、耕作放棄地、獣害、森林破壊、海洋資源問題が話題になります。それらを突き詰めていくと必ずたどり着くのが「循環」であり、「生物多様性」です。でも、どちらもテーマとしては壮大で抽象的。説明を聞いても解説を読んでも、「わかったような、わからないような」というのが正直なところではないでしょうか。

小麦や野菜が実り、ハーブが育ち、水牛や羊、山羊、鶏が飼われている。太陽光パネルがエネルギーを生み出し、ミルクスタンドやシャルキュトリー、ベーカリーがあって、場内と地域の産物が調理・加工されている。ゴミはコンポストに、廃水はバイオジオフィルターで浄化されてビオトープへ。牛糞や鶏糞は堆肥になる・・・。ここでは循環が目に見える形で行われていますが、とりわけリアルに感じられるのが食事でしょう。ランチタイムはワークショップのひとつの山場と言えます。

泥包み焼きに挑戦。午前中に採集した泥を捏ねて薄く伸ばし、バナナを無農薬栽培する「木更津ファーム」からもらい受けたバナナの間引き葉にくるんだ鹿肉をタイムやローリエと共に包み込む。

すき間なく包んだら、間伐材から熾した薪火に投入して40~50分加熱、という原始的な調理法。土づくりワークショップと連動したメニューで、畑の土をこんなふうに活用できることに参加者はびっくり。

山名新貴シェフ(左)とドリンク担当の小高光さん。鹿肉のほかにも、みんなが収穫した葉タマネギを焼いたり、パンを炙ったり。ちなみにパンは場内で採れた小麦や千葉県産の小麦をブレンドした全粒粉のカンパーニュ。

この日のドリンクは動物性素材不使用の「大地のバナナスムージー」。ゴマ、豆乳、米糠、ふすまに木更津ファームの無農薬バナナを皮ごと加えてミキサーでスムージーに。

筍とカラスミの山椒マリネ、水牛リコッタチーズの夏みかん和え、のびると菜花とわらびのアンチョビーマリネ、水菜とスイスチャードのセサミ和え、イノシシの粗挽きソーセージを使ったポトフなどが並んだ。

ロゼ色の見事な火入れ。鹿肉がしっとりやわらかく焼き上がっている。自分たちで収穫したレタスの葉で様々な副菜と共に包んで食べる。「サンギョプサルの感覚でカジュアルに楽しんで」と山名シェフ。

山名シェフが料理解説。ホワイトボードにはメニューと共に食材の素性が記されている。場内産・地元産の食材ばかり。泥包み焼きの鹿肉もソーセージのイノシシも木更津の猟師が獲ったジビエ。


ハチの家を作って、森の木の赤ちゃんをレスキュー

午後のプログラムは「生物多様性ワーク」。
「生物多様性という言葉、よく聞きますよね? 最近特に重要視されているわけですが、では、なぜ、大事なんだと思いますか?」と吉田さんが問いかけ、そして、続けました。「多様性が損なわれたら、僕たちは生きていけなくなる。人類の暮らしを根本から支えているのが生物多様性なんですね」

生きものはみな互いに関係し合って存在が保たれている。ひとつ欠けただけでもバランスが崩れ、地球上のすべての生物の生存に影響が出る。当然、人の暮らしも危うくなります。
クルックフィールズの場内に視点を移すと、森があって、池があって、畑があって、いろんな生きものが生きている。いろいろ生きているから、循環も起こる。

そんな生きものの住処のひとつがバグホテル。クルックフィールズのあちこちに立っています。生物多様性ワークは、佐藤剛さんの指導でバグホテル作りから始まりました。
「ハチって、ハチの巣を作って集団生活を送っているイメージがありますが、実はほとんどのハチが単独生活なんですよ。このバグホテルにはフタオビドロバチとオオハキリバチ、2種類のハチが入居しています」
剛さんによれば、ハチがいなければ野菜の6割は育たなくなると言います。バラ科のベリー類や、ナス、キュウリ、トマト、カボチャなどの果菜類も受粉をハチに頼っているそうです。

穴の中に虫が卵を産み、餌を入れて、泥で穴をふさぐ。やがて、卵が返り、巣立っていく。「このバグホテルは入居率が高い。ほら、穴が埋まっているでしょ。人気物件です(笑)」。大きい穴は入居率が悪いそうです。

廃材のコナラの幹に電動ドリルで穴を開けていく。開ける場所に法則はなく、「作る人のセンスが出ますね」と剛さんは言います。

バグホテルは穴が開いた面を北向きに立てます。「越冬する虫は木の北側に住処を作る。暖かい場所では体温が上がってエネルギーを奪われるから。気温が変化しにくい場所のほうがいいんですね」

みんなで作ったバグホテルを思い思いの場所に設置しながら、森へと移動して、レクチャー役を吉田さんにバトンタッチ。今度は、吉田さんが森の生物多様性を語ります。
「日本の多くの森は人との関わりの中で形づくられています。一度、人間が手を入れた森は、責任をもって人間が面倒を見続けなきゃいけないんですよ」
高齢化や人口減少によって世話し続けられなくなって起こる森林荒廃の話、よく聞きますね。
「人が森を支え、森が人を支える。持ちつ持たれつの関係です。その関係が以前にもまして重要になっている」と吉田さん。地球温暖化の原因であるCO2を森が吸収してくれるからです。

森までの道中の水辺でオタマジャクシとカエルを観察。「カエルの鳴き声はオスからメスへのラブコール。だから、鳴くのは繁殖期だけ」

「森を五感で感じてほしい」と吉田さんに導かれて森の中へ。クロモジの葉を手で揉んで香りを嗅いだり、森にもいろんな楽しみ方があります。

ピンクリボンを結んだ棒の根元にはタラノキの赤ちゃんが芽吹いています。草刈りの際に刈り取ってしまうのを避けるための目印。森を健全な状態に守るには、多様性を損なわないような注意も必要。

コナラ、クスノキ、エノキ、アカメガシワなど、いろんな木の赤ちゃんを参加者全員でレスキュー。「草に埋もれないくらいまで育ててから森に返しましょう」

「今日、ここで体験したことは、実はみなさんの身の回りでも起きていることなんですよ」と剛さんは言います。
「クルックフィールズだけが特別な場所なんじゃない。みなさんの日常でも起きている。家の庭で、街路樹で、近くの公園で、同じような出来事を見ることができます。意識がそこに向いて、目が慣れてくると、見えてくる。すると、循環も感じられるでしょうし、生物多様性も感じられるでしょう。そうなると、暮らしの中の行動も変わっていくはずです」



「生きる力を養う学校」6月11日(日)いよいよ開講!
第1回テーマは「卵と小麦」。身近な食材の背景を知ることで「食べ物」を「生き物」として捉え直します。
日時:2023年6月11日(日)10:00~15:30
場所:KURKKU FIELDS(千葉・木更津)

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