茨城食材を愉しむ オンライン料理教室 『料理通信』のキッチンより
2021.03.18
photographs by Hemi Cho. Kouichi Takizawa
これまで日本各地の食材の作り手、使い手(料理人)の姿を追ってきた『料理通信』。昨年、2020年から新たに始動しているのが“オンライン料理教室”です。
2020年11月、“素材をおいしく調理する”という技術を生かし、飲食店や社員食堂のプロデュース、海の資源を守る活動などマルチに活躍する森枝幹シェフと、茨城県の生産地を巡る旅に出ました。
森枝幹シェフと巡る東京から1時間圏内・茨城の魅力発見ツアー
―前編 結城市・坂東市・鹿島―
https://r-tsushin.com/journal/japan/ibaraki_shokusaiteiankai_1.html
―後編 霞ヶ浦・大洗・常陸太田・大子・日立-
https://r-tsushin.com/journal/japan/ibaraki_shokusaiteiankai_2.html
現地の風土を肌で感じたシェフが、新たなインスピレーションでレシピを考案。家庭でできるレベルでありながら、日々の献立に新風を吹き込むレシピをレッスンしました。
開催は20201年2月14日(日)14時~。スタッフは約10名。「値段が高いかな」「食材はフルセットで届ける?」「参加者の調理はシェフと同時進行で?」など、詳細を打ち合わせます。
参加者にはシェフとコミュニケーションをとってもらうために20名に限定。Zoomのミーテイング機能を使ってスタッフがコメントを常に確認し、適宜スタジオのシェフに伝えます。気軽に会話を楽しんでもらうために、配信中は視聴のみ、調理は後で各自実践いただくようアナウンスしました。
本教室の最大のミッションは「茨城の食材を知って、楽しんでもらう」こと。使用する茨城県の食材はあらかじめ参加者の自宅にお送りします。
<茨城食材セット>
・豚肉「常陸の輝き」――さっぱりとした旨味の脂身が最大の魅力。筋肉間脂肪4%。
・霞ヶ浦のシラウオとワカサギ――短い時間の曳き網と直後の氷締めで鮮度を維持して届けられるクリアな味。
・鹿島灘ハマグリ――大洗、鹿島、波崎の港が輪番制で徹底した資源管理の下で漁をする。大ぶりでふっくらやわらかな身質。
さらに取手市「シモタファーム」のレモングラス、鉾田市のパクチーも同封し、計6つの食材を届けました。
作る料理は3品。
・低温調理の豚肉とワカサギペースト
・干し豚肉 ―カリカリ肉とタイ風ソースで―
・ハマグリとシラウオ、白菜のタイ風蒸し煮 ―海の香り―
本番では茨城食材の紹介VTRを視聴後、まずは低温調理の豚肉から調理開始です。
Lesson1 特別な器具を使わない、低温調理の方法
「この料理のポイントは“たっぷりの湯で温度をキープ”すること」と森枝シェフ。
「最近は低温調理器も増えましたが、器具を使わず、鍋1つでシンプルに作る方法です。低温調理は、肉の脂身を特においしくする調理法なので、筋肉間脂肪の多い“常陸の輝き”にぴったりなんです」
2.5Lの湯を沸かし、砂糖、塩を加えて火を止め、豚肉をブロックのまま投入。蓋をして1時間放置します。
「豚肉は60℃くらいから火が入ります。表面からゆっくり熱が伝わって、1時間後くらいにちょうど芯部分にまで火が入るようにすると、タンパク質が変性したばかりのふっくら水分をたたえたピンク色の肉に仕上がります」
シンプルな調理ですが、鍋の蓋の通気口はペーパーで塞ぐ、温かい場所におく、など保温性をいかに高めるかが大事。「保温性の高い鋳物鍋なら、少ない湯でも大丈夫」
湯に加える塩、砂糖の調味料の分量は%で提示します。「1%の塩加減がどれくらいか、自分にとって強いか弱いか、キャッチする感度を上げてください。最初は面倒でもこの感覚をつかむまではきっちり量ること」とシェフ。「ソースをつけず、豚肉だけで食べる場合は、1.4~1.5%と少し多めの塩にしましょう」。
「アレンジはできますか?」という質問には、「豚肉は鶏肉に代えられます。湯に家庭で出た野菜くずやタマネギの皮やセロリ、ネギの根っこ、ニンニクの皮など香りを加えてもちょっと肉に香りが移っていいですね」。
Lesson2 マンションのベランダでも、干し肉は作れる!
2品目は、干し豚肉の調理です。この料理のポイントは「日常的に、お日様の力を借りよう」
「タイの市場では、冷蔵技術が日本ほど徹底されていません。その分、自然の調理技術、『発酵』や『乾燥』のテクニックが、暮らしに根強く残っています。その技術を、日本でももっと気軽に取り入れてほしい」とシェフ。
ただ、この天日干し。なかなか都会生活者にはハードルが高い・・・。「天気のいい日なら、ベランダで1時間干すだけでぐっと味が凝縮されます。今日はいい天気でしょう?今から小1時間干せば、夕食には間に合いますよ」
リスクの少ない“ちょこっと干し”。「真夏でもよいのですか」という質問に対して、「タイは年中真夏(笑)。もちろん、湿度が高いと乾燥に時間がかかりますが、気温が高いとそれだけ乾燥も早く進みます。真夏でも問題ありません。ただ調理器具の衛生状態や肉の鮮度によって状態は違ってきますので、必ず清潔な道具を。匂いも確認して、万が一異変を感じたら、くれぐれも食べないように」
この塩の量ならこの味、この匂いはOK、これはギリギリ、レシピや賞味期限表示といった数値情報に頼る現代人が置き去りにしがちな感覚です。「あとはくれぐれも、鳥や猫に食べられないように、環境に応じて網をかぶせるなど防御してくださいね」と、ここで「今ちょうどベランダで干し肉作ってるけど、うちの猫が狙ってヒヤヒヤです~」という参加者からコメントが。
豚肉を1cm幅に切り、キッチンペーパーを敷いたザルに並べます。ここで干す前と干した後の豚肉の状態を比較。「赤身の色が濃くなって脂身も若干黄色がかっています。もっと干せばさらに味は凝縮されますが、このくらいなら十分」
160℃の油で揚げて、肉のふちがカリカリしてきたら、引き上げます。「干すと安い肉でもぐっと旨味が増しますよ。ただし、古い肉はダメ。タイの人があんなに肉を干すのは、と畜後間もないからです」とシェフ。
「干し肉というとハードルが高そうに聞こえますが、実は鶏肉のから揚げも、下味をつけたらラップをかけずに冷蔵庫に数分おいて、身の表面を軽く乾燥させると、カリッと揚がります。料理人でこれをやっている人、多いです」。また、この干し肉はチンジャオロースーに使うのもおすすめだとか。シェフの話を聞くと、やってみたい料理のアイデアがむくむく膨らみます。
Lesson3 “ザ・タイ”の味を作る、黄金の組み合わせ
次は鹿島灘ハマグリと霞ヶ浦のシラウオと白菜を使った、タイ風の蒸し料理です。この料理のポイントは「エキゾチックなタイの香りで蒸し上げる」ところ。
「これがあれば、タイの味!という食材の組み合わせを紹介しましょう。ニンニク、パクチーの根、白コショウ。これ、タイの3種の神器。スープも炒め物も、この3つを使えばザ・タイの味になります。今日はこの香りを軸に、ショウガやレモングラスなどの香りを足して、さらに現地らしいタイ気分を盛り上げましょう」。
鍋に切ったハーブと食材を重ね入れ、酒を加えて蒸し上げます。ハーブ類は香りの引き出し方が大事。「レモングラスは葉をハーブティーに、白っぽく根に近い茎を料理に使います。食味に適するのは軟らかく水分が多い茎なので、茎を刻んで仕上げに加えます」。硬い葉を使う場合は、手でくしゅくしゅっとしならせて香りを引き出してから、火にかける前に加えて、あとで取り除きます。
ハマグリは海水(約3%)濃度の塩水に一晩浸けて砂抜きしておきます。「浅いバットにハマグリの口くらいの高さまで塩水に浸し、アルミホイルで覆って暗くして冷蔵庫に入れます。ハマグリが気持ちよく呼吸して、プハーッと砂をよく吐きますよ」
「ハマグリはちょっと火を入れすぎると噛み切れないくらい硬く締まることがあるけど、この鹿島灘ハマグリは多少火を入れすぎてもふっくら軟らかい。驚きました」とシェフ。
「白菜がない場合、他の葉物でも代用できますか?」との質問には、「水分の多い食材が向くので、春キャベツでもいいですよ。小松菜やホウレン草は苦味が出ます。今の時期なら、菜の花を加えるのもおすすめです」
材料を順番に入れたら、蓋をして20分弱火にかけます。仕上げにレモングラスの茎、ナンプラー、シラウオを加えて、ひと煮立ち。
「霞ヶ浦のシラウオは、漁師さんの努力で鮮度がよいまま水揚げされているから、クリアな味が魅力です。ぐずぐずに火を通しすぎないように気を付けて。料理の仕上げに加え、さっと火を通すのが正解です」。最後に軽く蒸したら、完成。
実はこの料理、煮汁の味も主役級なのだそう。「汁を残して、雑炊にすると最高。一滴も残さず楽しんでほしい」と森枝シェフ。茨城食材のポテンシャルが発揮された、なんとも充実した味です。
Lesson4 魚のペーストで、肉を味わう
最後の調理は、豚肉の低温調理に沿えるワカサギペーストです。この料理のポイントは「魚のソースで肉を味わう」ところ。
「イタリアでは、仔牛や豚肉にかけるソースに、ツナとアンチョビー、マヨネーズなどで作る『トンナートソース』というのがあります。肉に魚の旨味を足して食べる料理です。そのソースの発想で、ワカサギをペーストにしてみました。霞ヶ浦のワカサギはシラウオ同様、鮮度維持が徹底されているので、臭みがない。内臓や頭などのビターな味わいを贅沢に味わいましょう」
ワカサギは、塩を揉みこみ、出た水分をキッチンペーパーで拭き取ります。鍋に潰したニンニク、油とワカサギを並べて、弱火でゆっくり加熱してコンフィにします。身がほろっと崩れ出したら火を止めます。ミキサーに粗熱を取ったワカサギの身を入れて、コンフィの油を少量ずつ加えながら撹拌します。最後はザルで漉し、ワカサギの目や骨を除き、スライスした低温調理の豚肉にかけます。
試食後は、参加者の質疑応答の時間。「おしゃれな器の選び方は?」「余ったパクチーの活用法を教えて」「新しい料理のアイデアの生み出し方は?」。今日の料理のことだけでなく、日頃の料理との向き合い方について、シェフに質問が寄せられます。
参加者の中には限られた時間の中、同時進行で料理を作っていた猛者もいて、「レシピの理解が深まった」との感想もいただきました。また「地元、茨城のワカサギ、久々に出会った。昔よく釣ったな~」なんて茨城出身の参加者からの声も。終始質問やコメントが飛び交う、にぎやかで活気のある時間となりました。
今回の3品は茨城県の食材の真価が発揮された “ごちそう”レシピ。けれども茨城食材はまだまだあります。したっけ(ですから)茨城県の食材が目についたら「おっ」とまず手に取ってみてください。都心から近いというのは、それだけ鮮度がよく、選ばれる理由でもあるのです。
『料理通信』オンライン料理教室は、今後も様々なコンテンツをお届けする予定です。どうぞご期待ください。
◎茨城県農産物販売推進東京本部
☎03-5492-5411