HOME 〉

PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

武田昌大さん(たけだ・まさひろ)

トラ男米プロデューサー& シェアビレッジ村長

2021.03.18


それでもまだ、
地元の景色は変わってくれない


一度萎れかけた故郷の街並みを、再び盛り返すにはどうしたらいいだろう。そんな思いから、「ネット米屋」「古民家再生」をフックに、秋田の価値や魅力をユニークな形で発信し、地域活性につなげる活動をしているのが武田昌大さんだ。







photographs by Tsunenori Yamashita

秋田県北秋田市の出身。農家育ちではない。会社勤めの両親の下、地方都市で育った“町っ子”だ。都会に憧れ、「秋田ではできない“最先端”」を求めて東京へ。ゲーム業界で制作業務に就いていた。夢中で過ごして6年が経ち、帰省した際にふと、いわゆる「シャッター街」化した町の景色に驚愕する。「いつかは戻ってきて住むんだろう」くらいに安穏と考えていた地元が、実は危機だった。その現実が刺さった。

僕は秋田が、好きなんだ


転機は、東京で開かれた秋田出身者が集うイベントだ。「初めて参加したら、薄暗いフロアで、200人もの若者が『秋田大好き!』って盛り上がって、一瞬怖気づきました(笑)。でも、自分も秋田が好きだとしみじみ気づいた」。「地方創生」という言葉が浸透する前の時代。「何かしたい」が答えがわからない。

まずは、とその仲間と一緒にファーマーズマーケットで秋田野菜の販売ボランティアに参加したところ、「思いを込めて農家が出荷しても、売るのは生産者も産地も味も知らない自分。お客さんとも一期一会。こんな刹那的なコミュニケーションでは継続的に買ってもらえない」と痛感したのだという。「知らないことをとにかく埋めたい」と、週末ごとに秋田に帰省し、畑を巡り始める。

新米の時期、一町歩の面積、農家の給料、日々の暮らし、やりがいなどなど。超基礎知識からトリビアまで100の質問をノートに書き出して携え、アポなしで突撃した。「『農業に興味があって』と声をかけて、作業を手伝わせてもらいました。素人が紙を見ながら棒読みで質問するから怪しさ満点。でも当たって砕けるうちに、飯食べてけ、酒飲んでけ、泊ってけ、面白いやつ紹介しちゃる~となっていって、3カ月で100人の農家さんに会えました」。その中で見つけた糸口が、米の直接販売だ。

トラ男米とは、トラクターに乗る男前農家集団の米、の意味。「単一品種・単一農家」を謳い、栽培方法の強みが違う若手農家3人のあきたこまちを生産者ごとに詰め分ける。「一生懸命育てても、出荷の際は1つの『あきたこまち』として混ぜられ、出荷されていることを知ったんです。自分だったら自分で売りたいけど、手が足りていない。自分の活かし方はここだと思いました」

「関係性のある中で売りたかったんです」と武田さん。前職で身に付けたスキルを駆使し、SNSを活用した「顔の見える」販売展開を強みにする。栽培法の違いや作り手の魅力を前面に押すのは、100人もの都市生活者から集めた生の声からだ。「スーパーの米売り場で隣り合わせた買い物客から直接聞き出しました。売り場でわかる米の情報は価格、鮮度、品種の3つだけだけど、お米こそ味や作り手の情報が知りたいんだと」

付加価値をのせて都市消費者と地域生産者を直接結び、一次産業の活性化の一助になれば。そんな思いで2011年4月から「トラ男米」 の販売を開始する。2015年には、年間取扱い量は20トンまで増えた。「米屋の平均100トンに比べれば小さいけど、手応えはあった。それでも、地元の風景は変わらない、と感じたんです」
トラ男で扱うのは、「この人いいな!」と思った同世代の若手3人。土づくり=根はりのいい米作りが信条の「タクミ米」、日照抜群の棚田栽培を誇る「ユタカ米」、白神山系の地下湧水で栽培する「タカオ米」の3種。

都市と地域で「田舎」をシェアする


“外貨”が増えただけでは人は増えない。人が秋田に来る場所を作るべきだ。そんな時に出合ったのが五城目町(ごじょうめまち)の茅葺屋根の古民家だった。広い土間、太い梁、漏れ入る影と光。「誰もが郷愁を誘われるような原風景がありました」。維持が続かず、あと3カ月で解体するのだという。多くの人でこの家を維持する仕組みを作りつつ、ただの宿泊ではなく、地元民と訪問者が相互に交流できる場にしたい。

「都市と地域で一つの田舎をシェアする、新しい形を作れればと」。「年貢を納めて村民になろう!」という柱のもと、「年貢=年会費」を納めれば誰でも「村民=会員」になれる。毎月都市部で開催する村民限定の定期飲み会「寄合」や、村を訪れる「里帰」ツアー、年に一度の村祭り「一揆」・・・。「田舎暮らしを知らない若者たちにワクワクしながら楽しんでもらいたい」。現在会員は2500人。この「村をシェアする」仕組みは、全国の古民家を舞台に展開され、規模拡大中だ。
五城目町にある古民家を再生した「シェアビレッジ」は村民登録制で、会費を納めればいつでも宿に泊まれる。1泊10名まで。会員は現在2500人、年間2000人が訪れる。


そうした成果か、昨年からぽつぽつと、地元の街並みが変わってきた。「Iターン、Uターンの若者が営む飲食店やアパレル、工房、事務所などが少しずつ入っているんです」。近々武田さんは、若手たちと、新しい「商店街」づくりを画策中。地元の経済が潤い、人の行き来が盛んになって暮らす人が増える。景色が変わるタームはここからだ。
(写真左)仕事はすべてこのノートパソコン1台で。秋田と東京の2拠点の行き来はもちろん、カフェで、畑で、囲炉裏端で、場所を選ばず仕事に没頭できるのもいい。社員と会えないことも多いから、目下課題は人材育成と増強。
(写真右)東京・日本橋に設けた拠点「おむすびスタンドANDON」。販売するおむすびは、お米マイスター直伝で精米、洗米、炊飯、握り方を学んだ。2階がイベントスペース兼、書店。秋田や地域活性、日本文化がテーマの品揃え。



◎トラ男米
http://www.torao.jp/

◎Share Village
https://sharevillage.co/

◎おむすびスタンドANDON
東京都中央区日本橋本町3-11‐10
☎03-3527-2498
https://andon.shop/
Instagram:@andon.omusubi

◎お粥とお酒ANDONシモキタ
東京都世田谷区代田2−36−12 BONUSTRACK SOHO8
☎03-5787-8559
https://shimokita.andon.shop/
Instagram:@andon_shimokita

(雑誌『料理通信』2020年5月号掲載)

























































料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。