ガストロノミーを目指す若手シェフ必見
サンペレグリノ ヤングシェフ アカデミー大会2024/2025
2024.12.18
世界50カ国を15の地域に分け、30歳以下の料理人がシグネチャーディッシュを競う「サンペレグリノ ヤングシェフ アカデミー大会(以降、SPYCA)」。第6回となる今年のアジア地区予選大会が10月末に香港で開催された。タイ、シンガポール、インドネシア、モルディブ、韓国、香港、日本の10名のヤングシェフが出場。日本からはフリーランス料理人として活動する一之瀬愛衣が試食審査に挑んだ。
パーソナリティが問われる時代のコンペティション
「今の時代にシェフであることは、たくさんのことを要求されます。技術を磨いて料理をおいしく作れるだけでは十分ではない。人々はレストランへ、食事だけでなくそれを作った料理人がどんな人物かを知りたいと思ってやってきます。シェフたちはより自分のルーツを掘り下げるようになりました。 “パーソナリティ” ――自分は何を考え信じるかを知ることが、料理を作る上で欠かせなくなっています」
そう話すのは、アジア地区予選大会の審査員の一人、シンガポール「ローラ」のジョアン・シイだ。シイは昨年、「アジアのベスト50レストラン」で最優秀女性シェフ賞を受賞している。
他の審査員も香港「WING」ヴィッキー・チェンをはじめ、アジアのガストロノミーシーンを牽引するシェフ7名が試食審査にあたる。SPYCAが「ゴールデンルール」と呼ぶ3つの評価基準は、①技術(Technical skills)、②創造性(Creativity)、③信念(Personal belief)。
「特に3つ目が重要と考えています。日々、自分と向き合う機会はなかなかないヤングシェフたちが、シグネチャーディッシュを通して、自分は何者であるかを表現することが求められる」とシイ。目の前の食材をどうおいしく調理するかに加え、何を伝えたいのかを自分に問う作業を積み重ねる。コンペティションのプロセスが、シェフに必要なマインドセットを促す点に意味があるという。
実際、今回のヤングシェフたちはどう自分を掘り下げていったのだろう。
ヤングシェフたちが自分を掘り下げることが、結果としてアジアの食の豊かさを表現していた。2025年に開かれる決勝大会では、世界15地域の食文化が浮かび上がることになる。その様子は、北欧、南米、アフリカと美食のフロンティアが移動する今のガストロノミーシーンに通じるものとなるだろう。
「今、アジアの料理に世界の熱い視線が注がれています。世界各国からシェフたちが、アジアで料理を作りたいとやってくる。『世界のベスト50レストラン』でも、この数年のうちにアジアのレストランが1位を獲る可能性は十分あるでしょう。アジアを代表する料理人のタイトルをもつことは、世界に向けて大きな意味がある」と、自身の体験と照らし合わせてシイは語ってくれた。
優勝よりも成長するために応募する
ガストロノミーを目指す若手料理人にとって、チャンスでしかないコンペティション。しかし、大会の公用語は英語という壁に応募をためらう日本人は多いという。そんな中、壁にぶつかりにやってきた一之瀬の言葉は力強い。
「出来ないなりにチャレンジしてみて、気づけることがたくさんあった」
――世界に出ると、環境やサステナビリティは誰もが話せる共通トピックであること。
――環境にいいか、よくないかを考えて食材を選ぶためには、より多くの情報に触れる必要がある。
――大会に出ることで世界のシェフたちの考えを聞ける。
――彼らとコミュニケーションをとるため、もっと英語力を身に着けたい。
「チャンスって人生でずっとあるわけではない。準備できていなくてもまずは一歩踏み込んで、だめならだめで次どうしたら良くなるか考える。それを繰り返すことでチャンスをいただける機会が増えていく」
コンペティションは、優勝ではなく成長するために応募するもの。“挑戦を恐れない姿勢”は、これからの料理人に欠かせない資質となるだろう。既にその資質を十分備えた一之瀬の活躍に期待したい。(敬称略)
一之瀬愛衣(いちのせ・あい)
1996年滋賀県出身。2015年、辻調グループエコール辻大阪入学。卒業後、「ランベリー京都」ほかレストランウェディングやケータリングに携わり、2017年銀座「エスキス」、2018年京都「LURRA°」、2021年独立。現在はフリーランスとして活動。
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