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「おいしい」だけでは足りない。SNS時代のレストラン戦略と料理人の仕事論『一流飲食店のすごい戦略』

2025.06.20

「料理人」は、日本の若者にとって憧れの職業になり得ているのだろうか。
食材を彩るアーティストであり、技を磨き続ける職人、食という文化の担い手。「おいしい」を生み出す知恵と技術をもつスペシャリストを取り巻く環境は、今や人材が不足し、労働環境の悪さや給与水準の低さが問われ、人気が低迷して久しい。

岐路に立つレストランが生き残る道は「付加価値」を上げるスキルを持つこと、と提唱するのが本書。著者は、クリエイティブディレクターであり、レストランプロデューサー、元広告代理店社員。根っからのフーディで、某有名IT社長の食のブレーンを担当しているという見冨右衛門(ミトミえもん)氏。これまで訪れた多くの飲食店の研究を踏まえて、店の生き残り策を事例を交えて提案する。

成功例として挙げられたトップクラスの店舗の戦略分析は「果たしてそれは意図的?」と思うコンセプトも中にはある。だが、おいしい、だけで差がつく時代でもない。
SNSで勢力をもつインフルエンサーに対する態度(「発見されるまで待つ」のではなく、積極的に「利用する」というスタンス)や、自由に書かせるのではなく、店側の意図に沿うコメントをしてもらえるよう「プレゼンテーション」するなど、ネット時代を生き抜く飲食店側の心構えは一考に値する。

SNSといえど、いつの世も「おいしい」情報は人の口伝いであることには変わりない。巷の誰もが意見を発信できる時代では、むしろ目の前のお客をいかに満足させるか、いかに店の意図する形で発信させるかに大きなチャンスが潜む。

レストランという箱のハードからソフトまで、付加価値の上げ方は千差万別。店の立地、客席数、空間、食材の選定や料理のビジュアルだけでなく、飲食店のクラウドファンディングやサブスクリプションの活用・・・、その多様性は、むしろ料理人という個の表現が「何者であるか」を突き詰めた先に辿り着く場所と、近しいものがあるように感じる。

掲載された店舗に対する著者の分析は、経営に悩む店主にとって、改めて自店に固有の価値を見出す手立てになるかもしれない。著者流の日本の飲食店への応援歌といえる一冊。

『一流飲食店のすごい戦略 1万1000軒以上食べ歩いた僕が見つけた、また行きたくなるお店の秘密』/見冨右衛門著/¥1,848/クロスメディア・パブリッシング刊


※掲載店一部抜粋
東京・日本橋「蛎殻町 すぎた」
東京・神楽坂「虎白」
東京・浅草「四川料理 巴蜀」

北海道・余市「余市SAGRA」
東京・白金「Yama」
東京・三越前「acá」
静岡・葵区「成生」 他

◎クロスメディア・マーケティング

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