荒井康成さん(あらい・やすなり) 料理道具コンサルタント
第4話「道具の力で、人と文化を繋げる」(全5話)
2016.05.01
料理道具は自分のルーツ
2009年、タジン鍋ブーム到来。エミール・アンリは他社の先陣を切って、右肩上がりに売上げを飛ばし、メディアでの露出も急激に増えました。
我が子の一人立ちを見届けた荒井さん、「うれしくもあり、さびしくもあった」と振り返ります。
社内の体制が変わりつつあり、父親の介護が必要になったこともあり、同年、会社を辞めて独立。活動の軸は、「料理道具に関わるしごと」と決めました。
そこには、道具に対する特別な思いと、「いける!」という密かな確証がありました。
一つには、母親の遺した料理道具の存在がありました。
「遺品整理をしていたら、使い込んだ道具がたくさん出てきたのです。すり鉢やら鍋やら、僕も母に教わって料理を作っていたので、懐かしいものばかり。一つ一つに家族との思い出や、母の臭いが染み
我が子の一人立ちを見届けた荒井さん、「うれしくもあり、さびしくもあった」と振り返ります。
社内の体制が変わりつつあり、父親の介護が必要になったこともあり、同年、会社を辞めて独立。活動の軸は、「料理道具に関わるしごと」と決めました。
そこには、道具に対する特別な思いと、「いける!」という密かな確証がありました。
一つには、母親の遺した料理道具の存在がありました。
「遺品整理をしていたら、使い込んだ道具がたくさん出てきたのです。すり鉢やら鍋やら、僕も母に教わって料理を作っていたので、懐かしいものばかり。一つ一つに家族との思い出や、母の臭いが染み
付いていて、これこそ家族の宝物であり、自分のルーツだと感じました」。
ありそうでなかった仕事
また、エミール・アンリの営業時代、頻繁に自宅で開催していた「料理会」で感じたことも、独立への後押しとなりました。
「料理会」というのは、販売店のスタッフを招き、同業他社の営業仲間が自社の道具を使って料理を披露するというもの。言ってしまえば、料理男子の家飲みですが、その実、貴重な勉強会の場にもなっていました。
「販売店の方たちは、店で200以上のアイテムを扱っていますが、使ったことがあるのはそのうちのごくわずか。メーカーの歴史や、なぜそんな形をしているかもほとんど知りません。料理会に来て、『そうだったの!?』なんて驚かれることもよくありました」。
「料理会」というのは、販売店のスタッフを招き、同業他社の営業仲間が自社の道具を使って料理を披露するというもの。言ってしまえば、料理男子の家飲みですが、その実、貴重な勉強会の場にもなっていました。
「販売店の方たちは、店で200以上のアイテムを扱っていますが、使ったことがあるのはそのうちのごくわずか。メーカーの歴史や、なぜそんな形をしているかもほとんど知りません。料理会に来て、『そうだったの!?』なんて驚かれることもよくありました」。
荒井さんは、ここに光明を見出します。
「料理道具は、料理の上手い下手に関わらず、使う人の可能性を広げてくれるものです。
これだけ優れた道具がたくさんありながら、その価値や魅力が十分に伝わっていないと感じました。
そして、伝える人間が必要ではないか」と。
自社の商品について語れる人(メーカーの各担当者)はいます。
しかし、彼らは消費者と直接触れ合える機会はほとんどありません。
消費者と道具が出会う場所(店)、出会いを繋げる人(販売スタッフ)はいます。
しかし彼らは、お店に置いてあるものしか説明することができません。また、他にもたくさんの業務を抱えているため、一つ一つの商品に関して、深い知識や思い入れを持つのは難しいのが現状です。
幅広く様々な料理道具についての知識を持ち、利害に囚われない公正な立場で、場所や媒体を選ばず、より多くの人に向けて、料理道具の価値と魅力を正しく伝える存在。
料理道具の世界において、ありそうでなかった空席を見つけました。
「料理道具は、料理の上手い下手に関わらず、使う人の可能性を広げてくれるものです。
これだけ優れた道具がたくさんありながら、その価値や魅力が十分に伝わっていないと感じました。
そして、伝える人間が必要ではないか」と。
自社の商品について語れる人(メーカーの各担当者)はいます。
しかし、彼らは消費者と直接触れ合える機会はほとんどありません。
消費者と道具が出会う場所(店)、出会いを繋げる人(販売スタッフ)はいます。
しかし彼らは、お店に置いてあるものしか説明することができません。また、他にもたくさんの業務を抱えているため、一つ一つの商品に関して、深い知識や思い入れを持つのは難しいのが現状です。
幅広く様々な料理道具についての知識を持ち、利害に囚われない公正な立場で、場所や媒体を選ばず、より多くの人に向けて、料理道具の価値と魅力を正しく伝える存在。
料理道具の世界において、ありそうでなかった空席を見つけました。
道具を入口に広がる世界
現在、食のデザインスクール「レコール バンタン」で講師も務めている荒井さん。フードスタイリストやフードコーディネーターなど食のプロを目指す学生たちを相手に、材質の違いや、名前の由来、道具の歴史などを教えると共に、一つの道具を使ったレシピ提案などの課題を与え、道具を生かすノウハウも伝えています。
「国内外の様々な道具をテーマに取り上げることで、道具そのものだけでなく、文化にまで思いを及ばせてほしいと思っています。
僕自身がそうでした。海外の便利な家電や道具にもたくさん出会いましたが、それによって、すり鉢や卸し金などを生み、使い続けてきた日本文化の素晴らしさに気付いたのです」。
震災後には石巻に出向き、世界の料理道具と地元の食材を使った、子供向けのクッキングイベントを開催。
「海外の道具に触れることは、一つの文化交流だと思っています。道具を通じて外国の文化に興味を持ったり、逆に自分の故郷に目を向けてみたり。道具が入口になって見えてくる世界は無限に広がりますし、想像力も膨らみます」。
そんな荒井さんの夢は、料理道具の博物館を作ること。
「世界中の道具が置いてあって、モノだけでなく、世界中の人たちとの文化交流ができる。そんな場所って、ないですよね」。
道具と使う人との有機的な縁結びに留まらず、道具を通じて人と文化を繋いでいく。
〝料理道具コンサルタント〟という職業には、どうやらまだまだ伸びしろがありそうです。
(次の記事へ)
「国内外の様々な道具をテーマに取り上げることで、道具そのものだけでなく、文化にまで思いを及ばせてほしいと思っています。
僕自身がそうでした。海外の便利な家電や道具にもたくさん出会いましたが、それによって、すり鉢や卸し金などを生み、使い続けてきた日本文化の素晴らしさに気付いたのです」。
震災後には石巻に出向き、世界の料理道具と地元の食材を使った、子供向けのクッキングイベントを開催。
「海外の道具に触れることは、一つの文化交流だと思っています。道具を通じて外国の文化に興味を持ったり、逆に自分の故郷に目を向けてみたり。道具が入口になって見えてくる世界は無限に広がりますし、想像力も膨らみます」。
そんな荒井さんの夢は、料理道具の博物館を作ること。
「世界中の道具が置いてあって、モノだけでなく、世界中の人たちとの文化交流ができる。そんな場所って、ないですよね」。
道具と使う人との有機的な縁結びに留まらず、道具を通じて人と文化を繋いでいく。
〝料理道具コンサルタント〟という職業には、どうやらまだまだ伸びしろがありそうです。
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