夢は、チョコレートのセレクトショップを開くこと
チョコレートインポーター 児玉寿瑞奈
2023.06.26

「好き」という純粋な気持ちのまま、仕事を続けられる人は一体どれだけいるのだろう。純粋な熱意は、時に実績やマーケティングを凌駕する。児玉寿瑞奈さんの仕事スタイルは、チョコレートに対する圧倒的な熱意、そのものだ。
チョコレート博愛派
児玉さんの職業はチョコレートのセレクトショップ店主。ただし、インターネットサイト上の店。パリの「レミ・アンリ」、スイスの「イディリオ・オリジン」、ポルトガルの「ショコラタリア・エクアドル」と言う小規模チョコレート店の商品を輸入するほか「ボナイユート」や「ドモーリ」などのチョコレートを選び、ウェブショップ「c7h8n4o2」で販売している。
サロン・デュ・ショコラをはじめ、催事にも多く声がかかり、ポップアップストアも展開していて、チョコレートは早々に売り切れてしまうことも。開業1年目ながら、今年(2016年)のサロン・デュ・ショコラでは数日で2000枚以上を売り切った。
「選択基準は、すごくざっくり言うと『いま私が食べたいもの』です(笑)。知名度やビーントゥバーなどの基準を設けて選んでいるわけではない」と児玉さん。そんな視点で選ばれたチョコレートたちは1個1個丁寧に解説されてサイトに並ぶ。インターネット上なのに、まるで話しかけられているような温かさが感じられる。
「私には嫌いなチョコレートってなくて、博愛主義」と笑う。知識で食べるよりもおいしいと感じる直感を大切にしている。目指すのは、チョコレートを日常に浸透させること。「バレンタインの時だけの商品ではなく、もっと日常で楽しんでもらいたい」
好きだから選ぶ、というスタンス
「これまで死ぬんじゃないかってくらいの量のチョコレートを食べてきた」という。子供の頃から家にはいつも不二家の「LOOK」と、有楽製菓の巨大板チョコがあった。10代はバンドのサークルにどっぷりとはまりながら、アルバイト代を貯めてはチョコレートを買っていたという。
児玉さんが大学生活を送った2000年前半はショコラの一大ムーブメントが起きていた時代。児玉さんも05年頃からパリの有名店を巡った。そんな中で出合ったのがチョコレートのセレクトショップという形態だ。「ありそうでなかった形だと。『ヴィア・ショコラ』というお店では、4、5人のショコラティエのボンボンが無造作に置いてあって、それが素敵なんです。包装もせず袋にラフに入れて渡すというスタイルにも共感しました。もう1軒の『アカボ』という店は名物マダムのチョコレートのセレクトショップです。彼女の好きなものが所狭しと並んでいて、ああ、私もこんなお店がやりたいなって」
とはいえ、すんなり起業できたわけではない。きっかけがつかめずに模索する中で、2011年、自由が丘のショコラトリー「バルベーロ」で販売のアルバイトを始めたことが現在の仕事に生かされることになる。
チョコレート業界での仲間が広がり、手伝いの機会も増えたことから個人事業主の申請をしたのが2015年1月。この時は店を開くのはまだまだ先と思っていた。
ところが3月、ポルトガルの街でぶらりと入った「ショコラタリア・エクアドル」で運命が動く。店主と話が弾み、児玉さんはぽろりと、いずれはチョコレートのセレクトショップを開きたいと話したのだった。「そしたら、やってみなさいよ、って言うんです。でも私、大量に輸入できるわけではないし、やったことがないし、と言うと、協力してあげるわよ、って」
いずれ日本に輸入したいと思っていたチョコレート店のリストは頭にあった。覚悟を決めて帰国した児玉さんは、なんと5月には冒頭の3店からチョコレートを輸入し、6月には販売サイトをオープンした。ところで他の2店はどう口説いたのだろうか? 「既に何度も行って話をしていたお店だったので、パリとスイスにいる友人に協力してもらって、日本での販売許可の話をつけてもらいました」
食品の国際物流については、イタリアからチョコを直輸入していたバルベーロで仕組みが学べたという。現地から日本までの国際輸送を引き受けるフォワーダー(貨物利用運送業者)に依頼し、チョコレートを問題なく輸入することができた。
「私が取引しているのは、小さいチョコレート店です。これだけ売れるという話よりも、そのお店のチョコレートがどんなに好きかということ、『絶対に間違った伝え方はしない』ということは必ず伝えています」
「c7h8n4o2」は、たびたび休止する。催事や海外での買い付けがあると、サイトの対応ができなくなるからだ。そんなところも、なんだか血が通っていて好ましい。
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独立への背中を押してくれた、ポルトガル・ポルトにある「ショコラタリア・エクアドル」。元デザイナーの夫婦がオーナーで、パッケージも素敵。現地では200gで販売しているが、日本用に100gのバーを作ってもらった。季節によって10種類程度を輸入している。
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2015年にカカオ産地・ガーナに行ったときに農園からもらったカカオポッド。催事の時などに持って行くことも。
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スイスの「イディリオ・オリジン」はBean to Bar のチョコレート店。チョコレートの味わいをパッケージの書体を変えて表現している。本国では数多くの種類があるが、児玉さんの感性で特徴のある6種類のバーと、チョコレートペーストを輸入している。

カカオ(テオブロミン)の分子構造をかたどったペンダント。カナダの2人組のクリエイターが作っているのを偶然発見して、サイトで販売している。屋号「c7h8n4o2」はカカオの化学記号。
◎c7h8n4o2
http://c7h8n4o2.shop-pro.jp/
※「c7h8n4o2」は2019年11月に渋谷スクランブルスクエア1階 東急フードショーエッジ内に実店舗をオープンしています。
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