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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

中国酒で、やれることはまだまだある

中国地酒 輸出入販売 田中力哉さん(たなか・りきや)

Jan 31, 2022

text by Takako Sato / photographs by Kiyu Kobayashi
まだ見ぬ中国の地酒伝道師

中国酒=紹興酒。日本ではそんなイメージがあるかもしれないが、中国は広い。紹興酒は紹興市の酒であって、それ以外にも知られざる美酒、銘酒はたくさんある。日本酒が気候風土と造り手によって様々な個性を持つように、中国の酒の世界もまた、広く、深い世界が広がっている。そんな中国大陸に単身で赴き、日本ではまだ見ぬ地酒の輸入ルートを開拓し続けてきたのが田中力哉さんだ。自らの舌で吟味した中国酒を輸入・販売するとともに、都内に3店舗構える中国郷土料理と地酒の店「黒猫夜(くろねこよる)」でその魅力を伝え続ける、中国酒の伝導師でもある。

記者を名乗って酒蔵にアポ取り

田中さんが中国酒に開眼したのは90年のこと。景気が低迷する日本とは好対照に、隣の大国では景気上昇の真っただ中。台湾への語学留学を経て、「中国にロマンを求めて出かけていったんですよ」と当時を振り返る。もともとは貿易業を志していたが、伊藤忠商事の子会社で、深圳に拠点を構える乙仲(おつなか/海運貨物取扱業者)に現地採用されたのが輸出入に関わるきっかけに。中国滞在中に「各地にいろいろな地酒があることを知り、面白いなと思うようになりました。知れば飲んでみたいし、コレクションもしたい。それからハマッてしまって・・・」、自ら仕入れをすることに。

しかし、当時はインターネットのように、手軽に情報が得られる手段は皆無。そこで、1カ月ほど中国主要都市を巡り、各地の酒を片っ端から調べていった。「いきなり酒蔵には行けないので、まず向かうのはスーパーマーケット。酒のボトルや箱の裏に、住所が書いてあるじゃないですか。それを見て、1軒1軒電話していったんです。最初は怪しまれるので、『記者です』と名乗り、会って話を聞き、知識をつけていきました」

さらにプロ向けの展示会にも参加することで、視野はさらに広がった。

「展示会は国を挙げてやっているので、規模がすごいんですよ。ホテルを丸ごと貸し切っているので、出展ブースのみならず、個室で商談もできます。四川省で開催された中国最大の展示会で、酒専門のジャーナリストと知り合ったことも大きかったですね。彼が『日本からわざわざ買い付けに来たぞ!』と、まだ買う力もない僕を、いろんな酒蔵へ紹介してくれたんです」


おすすめの醸造酒は、黒もち米で造る陝西省洋県の「朱鷺黒米酒」、紅麹で発酵させた福建省の「沈缸酒」、青島が誇る燻製酒「即墨老酒」。最近の売れ筋、内モンゴルのミルクワイン「百吉納」も見逃せない。

穀物の数だけ醸す原料がある

こうして飲んでは仕入れ、当たっては砕けて、中国酒への理解を深めていった田中さん。中国の地酒には、大きく分けて白酒(パイチュウ)に代表される蒸溜酒と、黄酒(ファンチュウ)に代表される醸造酒があるが、直輸入するのは後者と決めている。「ワインや日本酒と同じ食中酒なので、日本でもきっと飲む人がいる」と思うからだ。また、国土の広い中国ゆえ、酒の原料穀物もバラエティに富んでいる。

「紹興酒の場合、もち米と鑒湖(かんこ)の水を使い、麦麹と規定酵母で発酵させるといった定義がありますが、その他の地域は材料も製法も自由なんです。もち米を原料に麦麹で醸すのがスタンダードですが、その代わりに紅麹を使うこともあれば、薬膳素材を合わせることもあり、その掛け合わせで風味は大きく異なります」

ちなみに中国食品にいいイメージを持たない人もいるかもしれないが、酒の輸出に関しては「国のメンツがかかっている」ため、厳しい基準がある。「おいしいと思っても、国家基準に満たない酒蔵からは仕入れることができませんし、輸出権という権利を持つ蔵に限られる。総じて、輸入できるところはそれなりの設備や規模の所が多いです」。また、最近は中国でも流通網やマーケティングが普及して、地方の個性だけでなく、トレンドも生まれるように。「最近好まれる傾向は、日本酒とも似ていて、軽くて辛めのテイストです。中国のなかでも南方は、甘く濃厚な風味が特徴ですが、全般的にフルーティーなものが好まれるようになってきています」


中国酒と郷土料理缶をペアリング

目下の課題は、より多くの人に中国酒への理解を深めてもらうこと。現在直輸入している約20種類の醸造酒について、卸し先となる約70店舗に、オリジナルの中国酒官能チャートを提供しているのもその一環。自店の「黒猫夜」では、中国地酒をテーマにしたイベント「団欒(だんらん)」を定期的に開催したり、自社サイト「酒中旨仙(しゅちゅううません)」で燗向けの黄酒の提案をするなど、さまざまな角度から情報を発信している。

さらに今年(2018年)は家庭でも楽しんでもらえるよう、新設した「酒中旨仙世田谷ラボ」で、中国郷土料理の缶詰を作り、おすすめの中国酒とのペアリングセットを売り出す計画もあるという。中国酒で、やれることはまだまだある。

「中国に行くとともかく汚れる。というか、汚れるところしか行きません」。ゆえに、鞄もスニーカーも汚れてもいいものが基本。ブランドにこだわりはないが、両手が空くリュックは必須。これで何代目かになる。

中国の仕入れ交渉に宴席はつきもの。昼から酒を酌み交わし、潰されてホテルに送られ、酔い冷めぬまま夜の宴会へ突入・・・というのが基本コース。記憶をなくしても、胃腸肝臓のケアだけは欠かせない。

20代の時、中国で購入したひょうたんは旅の相棒。「これを持って酒造に行くと『それは何だ?』と必ず興味をもってもらえ、会話のきっかけができるんです」。イメージはジャッキー・チェンの名作『酔拳』だ。


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