田中達也さん(たなか・たつや)
徳島県上勝町「RISE & WIN Brewing」
2020.03.01
いまや全国に数え切れないほどのブルワリーがあるが、徳島県上勝町にあるブルワリーはひと味違う。
どこよりも早く「ゼロ・ウェイスト宣言」をした上勝町の理念の上に立つブルワリーなのである。
地元の柑橘を生かした味が好評を博し、昨年には醸造所を増設した。
「おいしくて飲む。と、背景にゼロ・ウェイストがあることを知る。それが大事」と創設者の田中達也さんは言う。
理念だけでは伝わらない。自分事になって初めて伝わる。
ビールは「ゼロ・ウェイスト」を自分事にする手段だ。
どこよりも早く「ゼロ・ウェイスト宣言」をした上勝町の理念の上に立つブルワリーなのである。
地元の柑橘を生かした味が好評を博し、昨年には醸造所を増設した。
「おいしくて飲む。と、背景にゼロ・ウェイストがあることを知る。それが大事」と創設者の田中達也さんは言う。
理念だけでは伝わらない。自分事になって初めて伝わる。
ビールは「ゼロ・ウェイスト」を自分事にする手段だ。
ビールとゴミの関係
ポートランドでは至る所にマイクロブルワリーがあって、どこも個性的なビールを造っていた。その自由さがいいと思った。でももっと響いたのはグラウラーだった。
「量り売り用のリターナブルボトルです。ポートランドの人たちは、グラウラーを持参してビールを買っていた」と田中さん。
これだと思った。グラウラーを自転車に括り付けてビールを持ち帰る姿に、上勝でクラフトビールを造る意味が見えた。
「量り売り用のリターナブルボトルです。ポートランドの人たちは、グラウラーを持参してビールを買っていた」と田中さん。
これだと思った。グラウラーを自転車に括り付けてビールを持ち帰る姿に、上勝でクラフトビールを造る意味が見えた。
ゴミが出るのは当たり前じゃない。
徳島県上勝町と言えば、全国に先駆けて「ゼロ・ウェイスト宣言」をした自治体である。2003年のことだから、もう15年も前の話だ。ゴミを出さないための取り組みの数々は、聞くほどに感動を誘う。
・上勝町にゴミ収集車はない。町民自らゴミステーションへ運んで来る。
・生ゴミは全量が堆肥化されている。電動生ゴミ処理器の家庭普及率98%。2%は処理器を使わずに畑や庭で堆肥化。
・生ゴミ以外のゴミは45分別(!)。大半をリサイクル業者が買い取り、町の収入となる、等々。
上勝がゴミと向き合う姿勢は一朝一夕ではない。「ゼロ・ウェイスト宣言」の前身とも言える「リサイクルタウン計画」の施行が1993年、各家庭への電動生ゴミ処理器の導入(町が補助金を拠出)が1995年。『持続可能なまちは小さく、美しい 上勝町の挑戦』(笠松和市、佐藤由美共著)という本に、こんな一文がある。
・生ゴミは全量が堆肥化されている。電動生ゴミ処理器の家庭普及率98%。2%は処理器を使わずに畑や庭で堆肥化。
・生ゴミ以外のゴミは45分別(!)。大半をリサイクル業者が買い取り、町の収入となる、等々。
上勝がゴミと向き合う姿勢は一朝一夕ではない。「ゼロ・ウェイスト宣言」の前身とも言える「リサイクルタウン計画」の施行が1993年、各家庭への電動生ゴミ処理器の導入(町が補助金を拠出)が1995年。『持続可能なまちは小さく、美しい 上勝町の挑戦』(笠松和市、佐藤由美共著)という本に、こんな一文がある。
生ゴミは家畜や鯉の餌に。布は何度もほどいて縫い直し、最後は雑巾やおむつとして使う。日用品のほとんどが竹や木などの植物から作られるから、何度も修理して使い、最後は燃やして土に還した。それが少し前までの上勝の(おそらく日本の)姿と著者は説く。ゴミが出るのが当たり前という生活は、石油を大量に使うようになってから。少し前を思い起こせば、ゴミを出さない暮らしが浮かび上がる。上勝にはそんな精神風土が生きているのだろう。
理念を人々の欲求と結び付ける。
田中さんは2011年から上勝と関わり始めた。徳島再生可能エネルギー協議会に所属する知人の紹介で、ゼロ・ウェイスト宣言の立役者、笠松和市前町長と知り合ったのがきっかけだった。
ちなみに田中さんの本拠地は徳島、本業は検査業である。腸内細菌検査や食品細菌検査、栄養成分分析、空中微生物検査など、医療から食品まで幅広く請け負う。衛生管理体制づくりの相談にも乗る、自称「総合衛生コンサルタント」「食のお医者さん」。
「当時、笠松前町長は再生可能エネルギーを検討していました。私は、それよりもゼロ・ウェイスト宣言の全国的な認知に力点を置くべきではないかと提言したんです」
上勝のゼロ・ウェイストとは、ゴミをどう処理するかではなく、ゴミを出さないという考え方だ。
「ゴミになってからではなく、なる前に対処する。リデュース、リユース、リサイクルという3R推進運動の中でも、一番大事なのがリデュースです」
ちなみに田中さんの本拠地は徳島、本業は検査業である。腸内細菌検査や食品細菌検査、栄養成分分析、空中微生物検査など、医療から食品まで幅広く請け負う。衛生管理体制づくりの相談にも乗る、自称「総合衛生コンサルタント」「食のお医者さん」。
「当時、笠松前町長は再生可能エネルギーを検討していました。私は、それよりもゼロ・ウェイスト宣言の全国的な認知に力点を置くべきではないかと提言したんです」
上勝のゼロ・ウェイストとは、ゴミをどう処理するかではなく、ゴミを出さないという考え方だ。
「ゴミになってからではなく、なる前に対処する。リデュース、リユース、リサイクルという3R推進運動の中でも、一番大事なのがリデュースです」
上勝町では45分別して回収している。町民は自分でステーションまで持参して、45分類に則って回収箱へ入れていく。
「そこで何が起こるか? ゴミにならない物を選ぶようになるんです。分別が面倒くさい物は買わなくなる。たとえば、詰め替え用シャンプー。以前はよく注ぎ口と本体が異なる素材で作られていましたよね。捨てる際に全部外して分けて回収箱に入れなければならない。面倒くさい。すると、そういう商品を買うのは控えるようになる」
厳しい分別は自ずと生活者をゴミ削減へと導くわけである。そんな生活が根付いていることを、もっと広く知らしめるべきじゃないかと田中さんは考えた。
「ゼロ・ウェイスト宣言こそ唯一無二の町の資産。アートと言えば直島、環境と言えば上勝、そんなイメージを醸成することだってできるはずと思った」
「そこで何が起こるか? ゴミにならない物を選ぶようになるんです。分別が面倒くさい物は買わなくなる。たとえば、詰め替え用シャンプー。以前はよく注ぎ口と本体が異なる素材で作られていましたよね。捨てる際に全部外して分けて回収箱に入れなければならない。面倒くさい。すると、そういう商品を買うのは控えるようになる」
厳しい分別は自ずと生活者をゴミ削減へと導くわけである。そんな生活が根付いていることを、もっと広く知らしめるべきじゃないかと田中さんは考えた。
「ゼロ・ウェイスト宣言こそ唯一無二の町の資産。アートと言えば直島、環境と言えば上勝、そんなイメージを醸成することだってできるはずと思った」
ならば何かやって見せてくれと言われて、2013年に開いたのがゴミを出さない量り売りの店「上勝百貨店」。干し椎茸もパスタも調味料もシャンプーもすべて量り売り。それを新聞紙で作った袋に入れて渡すのだが、「これがあまり売れなくて(笑)」。
頭を抱えていた時期に出会ったのがクラフトビールだった。そして、冒頭の展開へとつながるのである。
「トランジットジェネラルオフィスの中村貞裕さん、建築家の中村拓志さんなど、何度か上勝へ案内してきた知り合いのクリエイターたちにこの話をしたところ、大賛成してくれて」
2015年、上勝百貨店を吸収する形でブルワリーが誕生。ゴミステーションにあった建具や家具を再利用した建物、空き瓶のシャンデリア、廃棄対象になる上勝特産の柚香の皮を使ったクラフトビール、もちろん、リターナルボトルも用意した。
頭を抱えていた時期に出会ったのがクラフトビールだった。そして、冒頭の展開へとつながるのである。
「トランジットジェネラルオフィスの中村貞裕さん、建築家の中村拓志さんなど、何度か上勝へ案内してきた知り合いのクリエイターたちにこの話をしたところ、大賛成してくれて」
2015年、上勝百貨店を吸収する形でブルワリーが誕生。ゴミステーションにあった建具や家具を再利用した建物、空き瓶のシャンデリア、廃棄対象になる上勝特産の柚香の皮を使ったクラフトビール、もちろん、リターナルボトルも用意した。
NY出身のビール職人が醸造するビールは人気を呼び、昨年、第2醸造場も開設。製材所だった空間をリノベーションしたのは、数々の再生プロジェクトで高い評価を得て権威あるターナー賞を受賞した若き建築家集団アセンブル!
「ロンドンまで直談判しに行ったんです。『お金はないんだけど』と伝えたら、『いいですよ、やりましょう』と」
「ロンドンまで直談判しに行ったんです。『お金はないんだけど』と伝えたら、『いいですよ、やりましょう』と」
世界のゼロ・ウェイスト拠点へ。
関わり始めた頃2000人だった上勝町の人口は今、1500人に減った。
「高校がないから、子供が高校に進学するタイミングで引っ越してしまうんです」
町の85%を森林が占める。農業もままならない土地だ。かつては林業で潤い、遊郭があるほど栄えていたが、新建材や輸入材に取って代わられた今は、はっぱビジネスに活路を見出してきた。
「上勝百貨店は地元消費だったら限界があったけれど、ビールは上勝以外でも売れる。上勝のゼロ・ウェイストを広くおいしく知ってもらいながら、町を潤したい」
今秋には、田中さんたち発案の新しいゴミステーションが着工される。国内外からの視察が増えたこともあり、研修施設やゼロ・ウェイストでの起業支援施設といった役割も備えて、日本を代表するゼロ・ウェイスト拠点となるはずだ。
「高校がないから、子供が高校に進学するタイミングで引っ越してしまうんです」
町の85%を森林が占める。農業もままならない土地だ。かつては林業で潤い、遊郭があるほど栄えていたが、新建材や輸入材に取って代わられた今は、はっぱビジネスに活路を見出してきた。
「上勝百貨店は地元消費だったら限界があったけれど、ビールは上勝以外でも売れる。上勝のゼロ・ウェイストを広くおいしく知ってもらいながら、町を潤したい」
今秋には、田中さんたち発案の新しいゴミステーションが着工される。国内外からの視察が増えたこともあり、研修施設やゼロ・ウェイストでの起業支援施設といった役割も備えて、日本を代表するゼロ・ウェイスト拠点となるはずだ。