田中達也さん(たなか・たつや)
徳島県上勝町「RISE & WIN Brewing」
2020.03.01

どこよりも早く「ゼロ・ウェイスト宣言」をした上勝町の理念の上に立つブルワリーなのである。
地元の柑橘を生かした味が好評を博し、昨年には醸造所を増設した。
「おいしくて飲む。と、背景にゼロ・ウェイストがあることを知る。それが大事」と創設者の田中達也さんは言う。
理念だけでは伝わらない。自分事になって初めて伝わる。
ビールは「ゼロ・ウェイスト」を自分事にする手段だ。
ビールとゴミの関係
「量り売り用のリターナブルボトルです。ポートランドの人たちは、グラウラーを持参してビールを買っていた」と田中さん。
これだと思った。グラウラーを自転車に括り付けてビールを持ち帰る姿に、上勝でクラフトビールを造る意味が見えた。

・生ゴミは全量が堆肥化されている。電動生ゴミ処理器の家庭普及率98%。2%は処理器を使わずに畑や庭で堆肥化。
・生ゴミ以外のゴミは45分別(!)。大半をリサイクル業者が買い取り、町の収入となる、等々。
上勝がゴミと向き合う姿勢は一朝一夕ではない。「ゼロ・ウェイスト宣言」の前身とも言える「リサイクルタウン計画」の施行が1993年、各家庭への電動生ゴミ処理器の導入(町が補助金を拠出)が1995年。『持続可能なまちは小さく、美しい 上勝町の挑戦』(笠松和市、佐藤由美共著)という本に、こんな一文がある。
ちなみに田中さんの本拠地は徳島、本業は検査業である。腸内細菌検査や食品細菌検査、栄養成分分析、空中微生物検査など、医療から食品まで幅広く請け負う。衛生管理体制づくりの相談にも乗る、自称「総合衛生コンサルタント」「食のお医者さん」。
「当時、笠松前町長は再生可能エネルギーを検討していました。私は、それよりもゼロ・ウェイスト宣言の全国的な認知に力点を置くべきではないかと提言したんです」
上勝のゼロ・ウェイストとは、ゴミをどう処理するかではなく、ゴミを出さないという考え方だ。
「ゴミになってからではなく、なる前に対処する。リデュース、リユース、リサイクルという3R推進運動の中でも、一番大事なのがリデュースです」


「そこで何が起こるか? ゴミにならない物を選ぶようになるんです。分別が面倒くさい物は買わなくなる。たとえば、詰め替え用シャンプー。以前はよく注ぎ口と本体が異なる素材で作られていましたよね。捨てる際に全部外して分けて回収箱に入れなければならない。面倒くさい。すると、そういう商品を買うのは控えるようになる」
厳しい分別は自ずと生活者をゴミ削減へと導くわけである。そんな生活が根付いていることを、もっと広く知らしめるべきじゃないかと田中さんは考えた。
「ゼロ・ウェイスト宣言こそ唯一無二の町の資産。アートと言えば直島、環境と言えば上勝、そんなイメージを醸成することだってできるはずと思った」

頭を抱えていた時期に出会ったのがクラフトビールだった。そして、冒頭の展開へとつながるのである。
「トランジットジェネラルオフィスの中村貞裕さん、建築家の中村拓志さんなど、何度か上勝へ案内してきた知り合いのクリエイターたちにこの話をしたところ、大賛成してくれて」
2015年、上勝百貨店を吸収する形でブルワリーが誕生。ゴミステーションにあった建具や家具を再利用した建物、空き瓶のシャンデリア、廃棄対象になる上勝特産の柚香の皮を使ったクラフトビール、もちろん、リターナルボトルも用意した。


「ロンドンまで直談判しに行ったんです。『お金はないんだけど』と伝えたら、『いいですよ、やりましょう』と」
「高校がないから、子供が高校に進学するタイミングで引っ越してしまうんです」
町の85%を森林が占める。農業もままならない土地だ。かつては林業で潤い、遊郭があるほど栄えていたが、新建材や輸入材に取って代わられた今は、はっぱビジネスに活路を見出してきた。
「上勝百貨店は地元消費だったら限界があったけれど、ビールは上勝以外でも売れる。上勝のゼロ・ウェイストを広くおいしく知ってもらいながら、町を潤したい」
今秋には、田中さんたち発案の新しいゴミステーションが着工される。国内外からの視察が増えたこともあり、研修施設やゼロ・ウェイストでの起業支援施設といった役割も備えて、日本を代表するゼロ・ウェイスト拠点となるはずだ。
SHOP DATA
◎ RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store
徳島県勝浦郡上勝町大字正木字平間 237-2
☎ 0885-45-0688
平日 11:00~17:00(17:00以降予約制)
土日祝 10:00~18:00(18:00以降予約制)
月曜、火曜休
http://www.kamikatz.jp/
◎ RISE & WIN Brewing Co. KAMIKATZ TAPROOM
東京都港区東麻布1-4-2 THE WORKERS & CO 1F
☎ 03-6441-3800
12:00~14:30LO
18:00~23:00(FOOD 22:00LO/DRINK 22:30LO)
日曜休
http://www.kamikatz.jp/ja/taproom.html
田中達也 (たなか・たつや)
1969年生まれ。徳島県出身。食品安全のための衛生検査所、スペック・バイオラボラトリー代表。地域の課題をテーマとした事業に関わったことがきっかけで、徳島・上勝町の活動に携わる。2015年、町が取り組む環境活動「ゼロ・ウェイスト」の理念に基づき、「RISE&WIN Brewing Co. BBQ&General Store」を立ち上げる。2016年、東京・東麻布に「RISE&WIN Brewing Co. KAMIKATZ TAPROOM」をオープン。2017年、ポートランドからビール醸造設備を導入し、第2醸造所とバレル庫、イーストラボを備えた複合施設「STONEWALL HILL CRAFT&SCENCE」を開設。