窯伸びと食べ応えのバランス。「フィオッキ」堀川亮シェフのパネットーネ
進化するパネットーネ
2025.01.24
text by Manami Ikeda / photographs by Atsushi Kondo
イタリア生まれのパネットーネが世界に広がり、日本でも著しい進化を見せています。
店で作り始めてから3年(当時)。試行錯誤しながら独学で学んできた「フィオッキ」堀川亮シェフに、母種作りから7日間かけて焼き上げるパネットーネの作り方を教わります。
目次
作り始めて3年になります。何度も失敗するうちに、パネットーネとはこういうものだと少しずつわかってきました。最初は、加水率が高く、ふわっ、しっとり、伸びがすごいという方向を目指していました。でもやっぱりクラシックな、身の詰まった方もおいしいなと。今はその中間、ある程度窯伸びして、けれど食べ応えもあるものを理想としています。
母種はヨーグルト酵母を起こして作っています。仮にイタリアの母種を分けてもらったとしても、今の自分の環境では状態を安定させるのは難しい。他の素材からの酵母も試しましたが、ヨーグルトの方が比較的短期間で、しかも力のある酵母が起こせることがわかりました。
こねて水和を十分に
ポイントの一つが、加水と油分の塩梅です。バターが入らなければ加水率を上げてもいいグルテンが出てきますが、たっぷりバターを加えるパネットーネでは、最初にしっかりとこねて水和させ、生地を十分につなぐことが大切です。ガッチリとしたグルテンができ、伸びやかな生地になれば、バターを十分に〝食べ〞た、いいグルテンの部屋が作れます。まだ発展途中ですが、成否はいかにうまくこね上げるかにかかっていると思っています。
【堀川亮シェフのパネットーネの作り方】
母種の元「ヨーグルト酵母」
粉は、全粒粉だけの方がミネラルやビタミンが多く酵母と相性がいいが、パネットーネにはグルテンが重要なので、全粒粉と強力粉を半々に。ヨーグルト酵母は発酵力が強いので、密閉できる丈夫なガラス瓶を使う。
〈ヨーグルト酵母を作る〉
【材料】
〈1日目〉
小麦粉(全粒粉と強力粉1:1)・・・100g
ヨーグルト・・・100g
水・・・100g
蜂蜜・・・10g
〈5日目〉
強力粉
水
【作り方】
▼ 1 日目
煮沸消毒した密閉できるガラス瓶に、材料を入れ、ゴムベラで全体が馴染むまで混ぜる。蓋をして29℃くらいの場所に24時間おく。
▼ 2日~ 3 日目
1日に3回ほど蓋を開けてかき混ぜる。約40時間経過すると細かい泡が立ち始め、そこから6時間経つと大きな泡になる。そうなったら30℃の環境に4時間置く。
▼ 4日目
冷蔵庫へ移し24時間寝かせる。
▼ 5日目
ミキシングボウルにヨーグルト酵母を全量移し強力粉、水少々を加えて混ぜる。倍に膨らんだら再び強力粉と水少々を足して混ぜる。倍に膨らんだらビニール袋に入れて、冷蔵庫へ。
▼6日目
〈母種を仕上げる〉
【材料と作り方】
ヨーグルト酵母、強力粉、水(30℃)、
ヨーグルト酵母に強力粉、水を合わせて混ぜる。ラップをして30℃で3~4時間おく。これを3回繰り返す。
▼6日目
<第1の生地を作る>
【材料】
母種 パネットーネ専用粉(Gran Lievitati)スキムミルク シロップ 卵黄 塩 バター
母種、レジーナ、パネットーネ専用粉、スキムミルク、シロップ、卵黄の半量をミキシングボウルに入れ、低速で回す。馴染んだら残りの卵黄を加えて回す。リーフ形のアタッチメントを使用。
全体が混ざったら、パン用のアタッチメントに変えて、こねる。伸びるが、まだちぎれるなら、もう少し回す。硬すぎるようなら水を少量加える。
十分にグルテンが出て伸び、ちぎれにくくなったら、塩を加え、回す。
最後にバターを加えて回す。容器に移し、ラップをかけ、29℃で約10時間発酵させる。発酵中の生地温度は25~26℃に保つ。
▼ 7 日目
〈第2 の生地を作る〉
【材料】
第1の生地 パネットーネ専用粉 シロップ ハチミツ A(卵黄 グラニュー糖)
卵黄 塩 バター ドライフルーツ *Aを白っぽくなるまで泡立てる。
<下準備> 第1の生地は発酵すると容器いっぱい(約3倍)に膨らむ。第一の生地以外の材料はしっかり冷やしておく。
【1】ミキシングボウルで第1の生地とパネットーネ専用粉をこねる。時々、アームについた生地を落としながら、全体を均一にこね上げる。生地温度は常に21~22℃に保つ。
【2】写真のような状態になったら、シロップとハチミツを加え、こねる。
【3】Aを2回に分けて加える。1回目に加えた分がしっかり生地につながったら残りを加え、こねる。
【4】生地がしっかりとゴムのようなしなやかな状態になったら、卵黄を何回かに分けて加え、こねる。
【5】さらにしなやかな、しっかりと繋がった感じの生地になったら塩を加え、こねる。
【6】20℃程度に柔らかくしたバターを2回に分けて加え、こねる。時々、底にたまるバターをスケッパーやゴムベラで起こす。全体が均一に混ざるまでこねるが、こねすぎに注意。
【7】ドライフルーツを加え、全体に均一に混ざるまでこねる。
【8】バターを塗ったバットに移す。こね上がりは、生地を持ち上げると透けるくらいに薄く伸び、ちぎれない状態。
【9】ビニール袋に入れて28℃で1時間発酵させる。
〈パンチ~成形~発酵〉
【10】 パンチをして分割し、20分休ませる(切り口のグルテンが強くなるため)。再びパンチをして1時間置く。
【11】生地が弛んでいながらも張りのある状態になったら、軽く台の上で丸め型に入れる。ビニール袋に入れ、25℃で約10時間入れる。
〈焼成~吊るし〉
【12】焼く5分前に取り出して、クープを入れやすくするため表面を軽く乾かす
【13】十字のクープを入れ、天にバター( 分量外)を置く。切り口からグルテンの部屋が確認できる。
【14】コンベクションオーブン(弱風)で140℃、50分焼く。
【15】焼き上がったらすぐに、底面に2本の金串を刺す。
【16】逆さにして6時間ほど冷ます。当日よりも3日目くらいからしっとり感が出て甘さも出てくる。
東京・祖師谷大蔵「フィオッキ」の店舗情報
◎フィオッキ
東京都世田谷区祖師谷3-4-9
☎ 03-3789-3355
火曜、水曜休
fiocchi-web.com
小田急線祖師ヶ谷大蔵駅より徒歩3分
※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。
(雑誌『料理通信』2020年6月号掲載/ウェブサイト用に画像は一部変更しています)
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