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RECIPE

絹のようななめらかさを追求 イタリア人パティシエ 「LESS」 ガブリエレ・リヴァさんのパネットーネ

進化するパネットーネ

2024.12.23

text by Manami Ikeda / photographs by Atsushi Kondo

イタリア生まれのパネットーネが世界に広がり、日本でも著しい進化を見せています。
世界各国で暮らし、それぞれの土地に合うパネットーネを作ってきたガブリエレさん。日本に暮らして、どんな進化が加わったのでしょうか。

目次






僕は幼い頃から、父の営むパスティッチェリアを手伝い、料理の専門学校にも通いました。でも、もっと色々な文化に触れたかった僕は、家業を継がなかったのです。父は店を閉め、僕は店が大事にしてきたパネットーネの母種とともに世界へと飛び出しました。フランス、スペイン、ロンドン、NY、ラスベガス・・・、そしてこの1年半(※取材当時)は東京です。


パネットーネ専用の粉で、母種を育てる

どこへ行くにも一緒だった母種は、父の店でパネットーネだけを作っていた職人が育ててきたもので、おそらく70年は生きています。後半の20年は僕がかけ継ぎをして。

母種の作り方というのは、リンゴやレーズン、ヨーグルトなどを元にして酵母を発生させ、粉と水を継ぎ足して、少なくとも3カ月、だいたい6カ月かけて良い菌だけを育てるものです。自分で作ってもいいのですが、イタリアではそれを親から子へ、あるいは友達から友達へと分け合って受け継ぐという伝統があります。多分にそれはセンチメンタルなもので、絆を大切にするという気持ちの表れなのでしょう。

パネットーネにはパネットーネ専用に育てた母種を使うのが原則です。僕の母種は、パネットーネ専用の粉を使ってかけ継ぎをしてきたものです。イタリアのこの粉は、グルテンの量、つまり“力”がパネットーネ向けに調整されています。だからこの母種を使って他の発酵菓子やパンを作るとどうしてもパネットーネ的な仕上がりになってしまう。僕はこの母種をパネットーネとコロンバ(復活祭の発酵菓子)にしか使いません。

また、イタリアでも、土地によってあるいは人によって母種の維持の方法が違います。ピエモンテでは母種を水に浸けてしばらく後、冷蔵庫で保存しますが、ロンバルディアでは厚手の木綿布に包み細いロープで縛って、しばらく嫌気性発酵をさせてから冷蔵庫で保存します。僕はどちらも試しましたが、ピエモンテ式はどこか風味が物足りず、ロンバルディア式の方が特有の香りがしっかりと出ると結論しました。

パネットーネ専用にグルテン含有量が調整された「ムリーノ・ダッラジョヴァンナ」社の粉を中心に数種類配合して、かけ継ぎをしている。

ただ、どれが正しいという話ではなく、作り手の考え方、感じ方によって手段が異なるのです。

パネットーネを作り始めた頃と今では、生地はものすごく変化しています。もちろん、より良い生地を目指して実験を繰り返してきたからですが、そこにもう一つ要素として、「僕がどこにいるか」が関わっています。土地が変われば人の好みも変わる。自分が好ましいと思うものをベースに、「誰に向けて作るのか」がポイントになってくるのです。どこにいても同じものを作るという考え方は僕にはありません。


日本で考え出した 現在理想のパネットーネ

僕にとって理想的なパネットーネとは、まず切った時にパネットーネらしい香りが立ちのぼること。そして、生地は絹のようになめらかで、蜂の巣状の気泡が縦に長く見えること。最近はSNS などで、気泡が極端に大きく、妙に長い方が“映える”と人気ですが、僕は、適度にやや縦長の気泡で、キメが揃っているものがいいと思っています。

イタリア語で「s e t o s o(絹のような)」とガブリエレが表現する生地。ごくなめらかで、ほどけるような食感は、パネットーネが“パン”であった時代から確実に進化している。

日本向けに調整した最大のポイントは大きさです。イタリアでは1㎏ が標準的な大きさですが、日本では大きすぎる。小さなものを好む日本向けだからと、例えば100g にすると、それはもうパネットーネではありません。小さくすると味わいと食感が変わってしまうのです。ダウンサイジングしながらも、1㎏ のパネットーネと同じ味わいと食感を追求して、たどり着いたのが350g です。さらに、これを1/4 にカットしてパッケージングしたものも用意しています。

程よい湿度を保ちながらもカビの発生を防ぎ、できるだけ切りたての味わいを損なわないように工夫したものです。このカットパネットーネで試してもらい、気に入ったら次はホールで。あるいは、ここに並んでいる3種類を一つずつ、全部を食べ比べしたいというニーズにも答えられます。

イタリアでなければ本物のパネットーネはできないというわけではありません。大切なのは、パネットーネとはどういうものなのかを理解すること。そして、自分の目指す味がはっきりわかっていればゴールに到達できると考えています。

季節感をパネットーネに。春には桜、夏にはココナッツとジンジャー、といったようにパネットーネに季節感を出している。
350gのホールを1/4にカットした個包装。朝食にちょうどいい量で、見た目のバランスも美しい。1kgのパネットーネでは実現できないサイズ。

【ガブリエレ・リヴァさんのパネットーネの作り方】

【材料】


砂糖
卵黄
アカシアハチミツ
北海道産バター
日本産柑橘のペースト(自家製)
柑橘(オレンジ、レモン、柚子など)の皮の砂糖漬け
バニラビーンズ

【作り方】
【1】 母種に粉と水を加えてこね、休ませる作業を3時間半~4時間ごとに3回行う。
【2】 第1生地のこねは30~35分。その後の一次発酵は28℃で12~15時間。外気温によって発酵時間は調整する。
【3】 第2生地のこねは45~50分。その後1時間休ませる。
【4】 切り分け、縁を生地の下に入れるように丸め、さらに30分から1時間休ませる。
【5】 再び丸め、紙型に入れる。22~24℃、最高でも26℃で12~15時間最終発酵。イタリアでは6~7時間が一般的だが、低温長時間発酵させるとより良い発酵、乳酸発酵となる。
【6】 175℃で焼成。
【7】 上下逆さにして、6時間冷ます。


東京・三田「LESS by Gabriele Riva & Kanako Sakakura」の店舗情報


◎LESS by Gabriele Riva & Kanako Sakakura
東京都目黒区三田1-12-24 MT3ビル 1F
☎03-6303-2688
11:00~19:00
水曜休、火曜不定休

※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

(雑誌『料理通信』2020年6月号掲載/ウェブサイト用に画像は一部変更しています)

 

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