91歳。「笹餅を1日140個、1年で約5万個、一人で作ってるの」
生涯現役|桑田ミサオ
2022.10.03
text by Kasumi Matsuoka / photographs by Masashi Mitsui
連載:生涯現役シリーズ
世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。
桑田ミサオ(くわた・みさお)
御歳91歳 1927年(昭和2年)2月14日生まれ
「笹餅屋」
青森県生まれ。学校を出て、19歳で結婚。36歳から60歳の定年まで、保育園の用務員として勤務。定年後、農協の無人直売所で笹餅を売り始める。75歳の時、「笹餅屋」の屋号で起業。79歳で、津軽鉄道の「ストーブ列車」で車内販売を始め、“ミサオおばあちゃんの笹餅”として注目を集める。2011年、農林水産大臣賞受賞。91歳の今も足腰が丈夫で、移動はほとんど自転車。
(写真)笹餅を作るミサオさん。家族に気兼ねなく作業できるよう、2002年に餅を作る加工所を造り、現在はそこで寝泊まり。集落から離れており、水道も通っていないため、井戸を掘って湧き水を使っている。
小鳥のさえずりを聞くと、元気さなれる
笹餅はね、人情豊かな津軽らしい、“までぇ(手間暇を惜しまない)”餅っこだね。餅の中でも、特に手間がかかるから、津軽では一番のおもてなしのお菓子。この笹餅を1日140個、1年で約5万個、一人で作ってるの。
餅を作る材料は、砂糖を除いて全部地元のもの。保存料や添加物は何も使ってねえ。もち米は製粉機に2度かけて細かく挽いて、ふるいにかけ、あんや砂糖と丁寧に混ぜて、またふるう。蒸すのは2度。2度目だけ、笹で包むの。殺菌のためにごく短時間蒸すのが、笹の葉を色よく仕上げるコツだの。
笹は、近くの山で、6月から9月までの3カ月間で1年分をとって冷凍ストック。この時期のものは、香りがすごく良いの。3カ月間は、雨が降らない限り、毎日山さ入って笹を取るから忙しいよ。めぇ(おいしい)餡に欠かせないのが、この辺りで作る小豆。小豆は自分でも作るし、70歳の姪も手伝ってける。この辺りでは、自分の家で餅っこを作るために、無農薬で“までぇ”小豆を育てている人が多いの。
本格的に餅作りを始めたのは、定年さなってから。近くの農協に直売所ができて、そこに置き始めたのがきっかけ。すると、めえって(おいしいと)評判になって、地元のスーパーも扱いたいと言ってくれた。スーパーから声がかかったから、75歳で起業しました。
今も週に2回、地元のスーパーで販売してるよ。1日150袋、1袋2個入り150円、1人10袋まで。ありがたいことに、昼にはすっかり売り切れる。「なかなか買えない」って声を聞げば、嬉しい反面、申し訳ないなって思う。
それとは別に、注文を受けることもある。何から何まで一人で作るので、何日までになんぼという注文に応えるのは大変。だから、こっちの都合さ合わせでくれるなら、できるだけやってらの。「100個、冷凍で送って」という東京のお客さんもいるよ。初めて注文くださる方で、いきなりたくさん頼まれる場合は、「とりあえず少量食べてみて、お口にあったら注文してください」と言うけども、だいたい追加注文してけるの。
朝は7時半に起きて、朝食を食べて仕込みを開始。朝8時から午後の2時頃まで、立ちっぱなしで餅を作る。2時過ぎにお昼を食べて、また続きを作り、夜8時頃に夕食を軽く食べてから、夜10時近くまで働ぐよ。スーパーに卸している火曜と土曜の前日は、夜中まで大忙しだべ。
私ね、料理をするための買い物は、ほとんどしないの。畑や山で採れたものが、冷蔵庫にたくさん入ってるからね。昨日はワラビの辛子和えに、アザミのおひたしを作ったよ。息子が山で仕留めてきた鹿肉なんかも食べる。結構いけるよ。昔から山が大好きで、今となってはどこさ何が生えでいるか、だいたいわがってる。辛いことがあっても、山で小鳥のさえずりを聞くと、元気さなれる。
人生、80歳からがおもしぇ(楽しい)ね。笹餅も、一年に何万個作っても、飽ぎね。それに、80歳を過ぎたら、周囲も恵みの心で接してくれる。それに甘えないで、もっとたくさんの人に喜んでもらえるよう、おいしい餅っこを作り続けたいね。
毎日続けているもの「笹餅」
◎スーパーストア金木タウンセンター店
青森県五所川原市金木町沢部460
☎0173-54-1147
火曜、土曜のみ販売
※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。
(雑誌『料理通信』2018年8月号掲載)
※年齢等は取材時・掲載時点のものです。
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