燗酒と。ひんやり口溶ける「穴子の煮こごり」
スローレシピ
2024.06.20
photographs by Tsunenori Yamashita
連載:スローレシピ
材料をイチから用意し、時間をかけて、料理すること自体をゆっくりと楽しむ。それが“スローなレシピ”。時短とは真逆の価値観の先に、とびきりの味が待っています。今回は魚で作る和のひんやりシャルキュトリー「煮こごり」です。口の中でほろりと溶ける、理想的な食感をお楽しみください。
目次
教えてくれた人:東京・門前仲町「酒亭 沿露目」大野尚人さん
常温で溶けるやわらかさに
燗酒を飲み、温まった口内にひんやり冷たい煮こごりを含む。酒の残り香と煮こごりがほろりと溶け合い、魚の滋味深い味わいがふわりと広がる・・・。このおいしさに目覚めた時、しみじみ「大人になったなぁ」と感じたという「沿露目」の大野尚人さん。
この体験を今の若者にも感じてほしい、と「穴子の煮こごり」はスペシャリテとして毎日メニューに並ぶ。「古くは味が薄く、ゼラチン質が多いサメやエイを使って強めの味付けをしたそうですが、味のいい魚で作れば薄味でも格段においしい」と大野さん。シャルキュトリーのように、素材の味を引き立て、手間をかけても食べたい一品に。
そんな煮こごりのコツは?と聞くと「臭みをとること」と第一声。「穴子はぬめりが臭みの元、熱湯をかけて氷水で冷やし、浮き上がってきた白い部分をしっかり取り除きます」。調味は濃口でなく、淡口醤油を使う。「僕は冷奴も淡口醤油。軽い香りと穏やかな味わいで素材の味が生きます」
また、ゼラチンの量は最小限に抑える。理想の口溶けのためには、「常温で溶ける柔らかさ」がベスト。食感を邪魔しないよう穴子は細かく、他の具も加えない。「周りをわかめで囲うと、溶け始めた煮こごりとわかめが絡み、最後までおいしく食べられます」
伝統的な魚加工品、煮こごりはフランス料理にも負けない和のシャルキュトリー。こんなに身近にあったのです。
「穴子の煮こごり」材料と作り方
[材料](14×11×5cmの容器分)
穴子(さばいたもの)・・・ 1/2尾
A
だし汁※ ・・・400ml
淡口醤油、みりん・・・各50ml
ショウガ(せん切り) ・・・6g
板ゼラチン(水で戻す) ・・・10g
※鍋に水400ml と15×5cm に切った昆布を入れて、一晩浸けて置く。鍋を火にかけ、沸騰したら弱~中火にして微沸騰を保ち、1時間煮出す。昆布を取り出し、20gの鰹節を入れて強火にする。浮き上がったアクをすくいとり、キッチンペーパーを敷いたザルで漉す。
【材料のポイント】
1.穴子はさばいたものでOK
穴子はスーパーや魚屋で入手。店の人にお願いして中骨は取って開いてもらうと、手間がかからずに簡単に調理できる。
2.最低限の量のゼラチンで固める
ふわりとした口溶けのために、ゼラチンの量は最小限に。煮詰めないので、個々の魚から出るゼラチン量の違いは考えなくて良い。
[作り方]
[1]小骨を取る
穴子に小骨が残っている場合、中骨部分に沿ってV字になるように切れ込みを入れ、小骨を取り除く。
[2]湯引きする(1)
1の皮目に熱湯をかける。
[3]湯引きする(2)
2を氷水で冷やす。
[4]ぬめりを取る
白く浮いた部分をスプーンでこそげるように取り除き、水で洗ってぬめりを取る。
[5]切る
中骨があった部分に沿って縦半分に切り、半身を1cm幅の短冊状に切る。穴子は約300gを使う。
[6]煮る
鍋にAを入れて強火にかけ、沸騰したら穴子を加え、アクを取り除く。中火に落とし微沸騰を保ちながら10分煮る。板ゼラチンを加え、溶けたら火から下ろす。
[7]粗熱を取る
6をボウルに移し、氷水にあてて、かき混ぜながら粗熱を取る。
[8]冷やして固める
型に流し入れ、ラップをして冷蔵庫に入れ、冷やし固める。
煮こごりを口に含むと、最初はひんやり、舌の上でほろりと溶けるとふんわりショウガとだしが香り、穴子の旨味が口中に広がる。
■金目鯛でも・・・
■合わせる酒は・・・
東京・門前仲町「酒亭 沿露目」の店舗情報
◎酒亭 沿露目
東京都江東区富岡1-12-6 1F
☎03-5875-8382
16:00~22:00
不定休
東京メトロ門前仲町駅より徒歩1分
Instagram:@zorome_monnaka
※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。
(雑誌『料理通信』2016年7月号掲載)
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