84歳。「ところてんは、鰹だしの利いた冷たいつゆごとザブッと飲み干して」
生涯現役|「高知屋」本井友子
2024.09.26
text by Kasumi Matsuoka / photographs by Taisuke Tsurui
連載:生涯現役シリーズ
世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。
本井友子(もとい・ともこ)
御歳84歳 1940年(昭和15年)3月6日生まれ
高知県中土佐町久礼生まれ。23歳で「高知屋」に嫁ぎ、二代目として、妹と共に長年に渡って店を切り盛りする。漁師の夫が不在がちな中、3人の子育てをしながら、店の暖簾を守ってきた。息子が三代目として家業を担う今は、娘とともに店を切り盛り。娘さんも、「こっちが疲れるぐらい動きます」と苦笑するほど、84歳の今もフル稼働。
(写真)店で出すところてんを盛り付ける、本井友子さん。注文が入るたびに、固まったところてんを麺状にするための「突き棒」を使って、手際よく盛り付ける。突きたては、ところてんの風味が際立ち、おいしく食べられるため、通販でも「突き棒」付きで出荷対応。「突き棒」は職人の手製。
じっとしてようおらん性分。
だって、止まったら面白うないろ?
ほら、うちのところてん、つゆがたっぷりやろ。鰹だしの利いた冷たいつゆごと、ザブザブッと最後の一滴まで飲み干してくれるお客さんが多い。つゆは、鰹節とおじゃこでだしをとって、2種類の醤油で味を整えたもの。創業以来100年続く味で、特に夏場はよう出ます。
ところてんの原料の天草は、高知県室戸市でとれた太平洋産と淡路島周辺でとれた瀬戸内産の2種類。生の天草は、2〜3時間水に浸して、天日で干す作業を4〜5回繰り返し、色や不純物を取り除く。それからコトコト煮つめていって、絞った汁を型に流し込み、常温でじっくり時間をかけて固めます。そうすると、喉ごしが良い、しなやかな食感のところてんになるがよ。
私はね、じっとしてようおらん性分。今は腰が痛くて、立って仕事するのがしんどくなってきたけど、どれだけ腰が痛くても、何かしてないと落ち着かん。こないだ生まれて初めて数日間入院したけんど、休むのが退屈でねえ。ゆっくりしよったらイライラしてくるというか。だから退院したら翌日から仕事に戻った。整骨院の先生も、「本井さんは、何を言うたち聞く耳を持たん」と呆れちゅう。けんど、そうやってよう動きゆうき、20年間風邪も引かずに、丈夫でおれると思うちゅう。
私は23歳で嫁いできて、夫の実家の家業やったこの店を手伝い始めた。夫は漁師で、一度漁に出ると8~9カ月は帰ってこん生活でね。近くに住む妹と一緒に、3人の子育てをしながら長年にわたって店を切り盛りしてきました。夏場の繁忙期は、夜中の1~2時から仕込みを開始。子育て中は、深夜から仕込み作業をして、夜が明けたら配達に行って、そのまま子どもの部活の試合を見に行って、急いで店に戻って営業するみたいな、本当に休む間もない生活やった。忙しかったけど、今振り返っても、それが楽しゅうてね。いっぱい働いて、いっぱい遊んで、よう動いてきました。
今は三代目になる息子が家業を継いで切り盛りしてくれよって、私は娘と一緒に店を手伝いゆう。朝、加工場の手伝いに行ってから、店へ行くのがいつもの動きやね。
朝は4時頃に起きて、同居する娘と一緒に、近くの喫茶店にモーニングを食べに行く。野菜、卵、味噌汁、おにぎり、パン、コーヒーが定番やね。昼は食べたり食べんかったり。夏場は忙しいき、なかなかゆっくり座って食べる暇がないね。夜はお腹も減っちゅうき、ご飯を2膳も3膳も食べる。娘が色々作ってくれて、肉に魚、野菜と何でも好き嫌いなく食べる。健康の秘訣? 強いて言うなら、おじゃこと牛乳、それとよく動くこと(笑)
私はとにかく仕事が好きやし、仕事ができゆううちが楽しい。今も腰さえ痛くなければ、もっともっとやりたいし、あれもこれもしたいという気力はある。行きたいところもたくさんあるしね。だって、止まったら面白うないろ? だから死ぬまで動き続けたいね。
毎日続けているもの「ところてん」
◎高知屋
高知県高岡郡中土佐町久礼6341-9
☎0889-52-4747
10:00~15:00頃 不定休
JR土佐久礼駅より徒歩8分
https://www.kochiya.shop/
(料理通信)
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