蒸すだけで本格中華の味わい「塩鱈の紹興酒マリネ」
ブルーフード・レシピ:出浦陽一郎
2025.02.06
text by Hiroko Sasaki/ photographs by Masahiro Goda, Hide Urabe
連載:ブルーフード・レシピ
海に囲まれ、豊かな漁場を有する日本には魚食文化が根付いています。魚を食べるなかで培われ、受け継がれてきた知恵や知識を継承し、上手に食べることは、多様性豊かな海の保全につながります。日本周辺でとれる水産物(ブルーフード*)の魅力を再発見するレシピを人気店のシェフに教わります。今回は、忙しい人や頻繁に魚を買いに行けない人におすすめな「塩鱈の紹興酒マリネ」。仕込んでおけば手軽に本格的な味わいが楽しめます。
*ブルーフードとは、淡水・海洋環境に由来する植物、動物、藻類など水生生物性食品のこと。食料危機や気候変動などの課題に対応し、健康的で持続可能な食料システム構築への貢献が期待されている。
**日本の海面漁業の漁獲量ランキング(漁獲量/前年比)【農林水産省:令和5年漁業・養殖業生産統計】
全体(282万3,400t/-4.3%):1位マイワシ(68万900t/+6.1%)、2位ホタテガイ(33万600t/-2.8%)、3位サバ類(26万1,100t/-18.3%)、4位カツオ(15万2,600t/-20.0%)、5位スケトウダラ(12万2,900t/-23.4%)、6位カタクチイワシ(11万4,000t/-7.3%)、7位マアジ(9万2,000t/-7.0%)、8位ブリ類(8万1,000t/-12.9%)、9位サケ類(6万t/-31.8%)、10位マダラ(5万4,000t/-6.9%)
目次
教えてくれた人:出浦陽一郎さん
百貨店勤務を経て、熟成肉専門店の田園調布「中勢以(なかせい)」、茗荷谷「中勢以内店」、コレド室町「サカナの中勢以」を立ち上げ、熟成肉普及のきっかけを作る。現在は、1年のうち3カ月程をヨーロッパやオーストラリア、台湾など海外の都市で暮らし、街の人々とのコミュニケーションや食文化に触れることを楽しんでいる。
忙しい人にこそ、マリネのすすめ
日本の熟成肉ブームをつくったさきがけのひとつに「中勢以」の名をあげる人は多いだろう。その「中勢以」をプロデュースして、熟成肉普及に向けた道筋を付けたのが出浦(いでうら)陽一郎さんだ。
「そもそも、肉の熟成で、僕が最も興味を引かれたのは『おいしく食べられる期間を延ばせる』という点でした。さらに、素材が『ぐんとおいしくなる』。つまり、赤身肉がサシに対抗できる価値を生み出せることも魅力でした。食材はすべて貴重ですからね」
今ある食材を大切に使い、廃棄をなるだけ減らすフードロスの観点からも、熟成は未来に向けて必ず必要となる技術、と思ったのだそうだ。
そんな出浦さんが最近、新たに可能性を見出しているのが「マリネ」だ。マリネのメリットはたくさんある。まず何より、肉の熟成と同じように①おいしく食べる時間を延ばしてくれること、また②“普通の素材”を“おいしい素材”にしてくれること。さらに③マリナード(漬け汁)によって様々な味が味わえるし、④漬け込む間の味の変化を楽しむこともできる。そして、⑤当日の調理時間と手間をぐっと短くできるのは忙しい毎日にぴったりな上、⑥仕込んでおけばぱっと展開できる料理が多い、というふうに。
漬け込む容器は真空パックで密閉できれば雑菌が繁殖しにくいけれど、なければジッパー付きの保存袋でもいい。その場合、可能な限り空気を抜きながら封をしよう。
何日間漬け込むかも作る人の好み次第。後述のレシピ中に記載した日数を参考に、短ければ風味は軽やかで身はジューシーに仕上がるし、少し長めに漬け込めば味がしっかり入って、食感は硬めで弾力的になる。
忙しい毎日、仕事のスケジュールが急に変わって予定通り食べられなくても、「今日じゃなくて明日食べればいい」と思えるのは心が軽い。安心して冷蔵庫に保存しておけて、しかも帰ってすぐに調理できるおいしい食材があれば、きっと日々の大きな支えになってくれる。
「塩鱈の紹興酒マリネ」材料と作り方
[材料](2人分)
塩鱈(塩のきつくないもの)・・・2切
<マリネ液>
紹興酒・・・40㎖
スターアニス・・・1~2個
赤唐辛子・・・1/2本
[作り方]
[1]皮を剥ぐ
塩鱈の表面の水気をよく拭き取る。生臭さを取り除くため、皮を剥ぐ。
[2]マリネ液に漬ける
真空パック用の袋に、マリネ液の材料と共に入れて、真空にして冷蔵庫へ。好みで塩味を足す。
塩鱈はそのまま調理するとどうしても和風になりがち。それを中華風に食べたい時にお薦め。
「塩鱈のマリネ」の展開例:鱈と白菜の中華蒸し
紹興酒とスターアニスに漬けた塩鱈は中華の香りをしっかりまとって、かなり本格的な味わいになる。真空パックごと蒸せば、手軽で洗い物も少なくて済む。
[材料](2人分)
塩鱈の紹興酒マリネ・・・2切れ
白菜・・・1/8株
香菜・・・2~3本
白ゴマ・・・適量
[作り方]
[1]白菜は切らずに洗う
[2]蒸し器に、塩鱈の紹興酒マリネを真空パックのまま入れて、3~5分間蒸す。蒸し上がり少し前に白菜も入れて、軽く火が通ればOK。
[3]白菜を3~4cm幅に切って、皿に盛る。
[4]真空パックからタラを出して、2~3等分に切って、白菜の上に盛り付ける。
[5]マリネ液は漉してから、鍋で加熱し、濃さを調節する。
[6]マリネ液を上からかけて、香菜と白ゴマをふりかける。
(雑誌『料理通信』2018年3月号掲載/本文はウェブサイト用に一部調整しています)
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