日本 [新潟]
食の文化遺産巡り~食の新潟・夏編~
2019.09.06
「食の新潟」を体感する旅に向かったのは「D&DEPARTMENT」の相馬夕輝さん。全国各地のロングライフデザインを食の分野から発信する「dたべる研究所」(東京・奥沢)や「d47食堂」(渋谷)などのディレクターを務める。
日本各地に息づく食の文化遺産を巡る旅。今回は変化に富んだ地形から生まれる新潟の食の多様性を「D&DEPARTMENT」ディレクターの相馬夕輝(あいまゆうき)さんと旅します。
農家を主役に、地元の食文化を育む
7月、D&DEPARTMENTディレクターの相馬夕輝さんと訪れたのは、日本随一の米どころとして知られる新潟県。そのイメージに違わず、移動中の車窓には、青々とした水田がどこまでも続くのどかな景色が広がる。
「でも実は米だけに止まらず、驚くほど食材の宝庫なんです」と語るのは、岩室温泉エリアにある「灯りの食邸 KOKAJIYA」の熊倉誠之助さん。名産の西洋ナシや枝豆以外にも隠れた逸品がいろいろあるらしい。それをもたらしているのは、新潟ならではの山、川、平野から成る変化に富んだ地形と四季の豊かさ、そして、細長くて広い県内各地で育まれた多様な食文化だ。
「それぞれの作物に有意性があって、たとえば、もとまちきゅうりが育てられているのは、豪雪と言われる新潟でも積雪が少なく、雪下ろしの必要もないハウス栽培に適した地域。ワイナリーが集まる角田山の麓は、県内でも雨が少ない地域で、ブドウの栽培に向いている。ちなみに、この地域で広く多種多様なおいしいナスができるのは、地下水脈が浅くて豊富だからなんです」と、6次産業化プランナーで野菜ソムリエの山岸拓真さんは話す。
その山岸さんと、NPO法人「いわむろや」の小倉壮平さんが運営する「やさいのへや」では、月2回、農家が自ら栽培した野菜を定食仕立てでお客さんにふるまう会を開催している。この日は越後白なすがテーマだった。
「畑を訪ねると旬のおいしさといい、農家さんの生き生きした表情といい、遊園地のように楽しいことがいっぱい。農家さんが直接語ることで、僕たちもまだ知らない話が聞けて、毎回新鮮です」と、小倉さん。小倉さんは新潟の食の豊かさに魅せられた移住組。新潟の恵みを、県外はもとより、地元の人に新たな形で伝える貴重な場に、相馬さんも「若い人が自然体で農家のお母さんたちと一緒に取り組んでいていいですね」と共感していた。
夏から秋にかけ、品種の移り変わりを楽しむ
実は、「やさいのへや」で越後白なすを紹介していた八百板惠子さんは、米農家。このように新潟では農家の多くが稲作をベースに、自家用や直売所での販売用として、自宅の庭先や小さな畑で野菜を露地栽培している。消費地への出荷が目的ではないので、収量や規格を気にすることもなし。どの農家も好きな品種を自由に、楽しみながら栽培している。
こうして作られる野菜には、神楽南蛮(唐辛子)やりゅうのひげ(食用菊)といった伝承野菜も。なかでも種類豊富なナスは圧巻だ。浅漬けが定番の「十全なす」に、白くて焼くととろりと甘い「越後白なす」、「えんぴつなす」、「一日市なす」、「やきなす」……。県外ではなかなかお目にかかれないようなナスが、新潟では日々のものとして作られ、食卓に上る。聞けば新潟は、ナスの栽培面積と消費量は全国トップクラスなのだが、出荷量では上位に入らない。こうした新潟のナスのおいしさと事情を知れば、「なるほど」と納得してしまう。
6月から10月中旬まで収穫が続く枝豆
一方、米に代える形で大々的に栽培が始まり、新潟の特産品となったのは枝豆だ。栽培面積も消費量も全国1位で、県内で栽培されている品種は約40種! 旧黒埼(くろさき)町(現新潟市西区)の保苅農園を訪れてみると、収穫シーズンの真っ只中だった。
「育てている枝豆の約半分は、この地区の旧町名がつけられた黒埼茶豆です。8月中頃からは特に、味が濃くて甘味もしっかり」と、姉の近藤明子さん。2年前に地元に戻った弟の保苅孝志さんと共に、農園を受け継ぎ営んでいる。「土にも気候にも恵まれていて、代々続く農園ですし、待っていてくださるお客様もいますし、やめるわけにはいきません」と、孝志さん。選別で除外された〝はね豆〟は、地元の職人の手で和菓子やジェラートに。丹精こめて作られた枝豆は黒埼、そして新潟の誇りだ。
若い世代が、食の伝統を受け継ぐ
そして、弥彦(やひこ)村の酒屋「弥生商店」が令和とともにオープンさせた、「弥彦ブリューイング」では、地元で生産された特別栽培米コシヒカリ「伊彌彦(いやひこ)米」を副原料として、クラフトビールを醸造している。醸造責任者の羽生久美子さんは、「地元の産物を使ったビールを造りたい」と話し、季節のビールの第一弾として、枝豆のはね豆を使った「エダマメェール」に挑戦。弟であり社長の羽生雅克さんとともに、弥彦で愛されるビール造りを目指している。
「今回の旅では地元に根を下ろして食の伝統を受け継ぐ、若い人たちにたくさん出会えたのが印象的でした」と、相馬さん。干し大根を使った「ピリ辛からし巻」と、越後白なすの料理を紹介してくれた「岩﨑食品」の岩﨑召子さんの傍らにも、孫の修さんがいた。修さんが「じいちゃんとばあちゃんから引き継いだ土地を守っていきたい」と言えば、「孫たちと一緒にまた勉強しながら、もうちょっと頑張って大好きな農業を続けたい」と、召子さん。その言葉が、いつまでも耳にこだましていた。
SHOP DATA
◎ 灯りの食邸 KOKAJIYA
新潟県新潟市西蒲区岩室温泉666
☎ 0256-78-8781
11:30~13:30LO 18:00 ~20:00LO
火曜、水曜休
http://kokajiya.com
◎ やさいのへや
☎ 0256-82-1066(運営:いわむろや)
予約制 第2、4 火曜のみ開催
https://yasainoheya.jimdo.com
◎ Yahiko Brewing(弥生商店)
新潟県西蒲原郡弥彦村弥彦934
☎ 0256-94-2156
11:00~19:00 金曜、土曜、日曜のみ営業
【問い合わせ先】
新潟県農林水産部 食品・流通課
☎ 025-280-5305