COVID-19対策―― 世界の飲食店はどう復活へ向かう? オーストラリア編
2020.08.13
COVID-19対策――
世界の飲食店はどう復活へ向かう?オーストラリア編
Aug. 13, 2020
世界の飲食店&飲食業に携わる人々はこの危機にどう対応し、何を学び、何を模索しているのか?“ウィズ・コロナ時代”を歩み始めた、各国在住のジャーナリストがリポートします。
ボタニカルな消毒液、セットメニューで売上確保
蒸溜酒メーカー&飲食店の挑戦
南半球シドニーでも、新型コロナウイルスの打撃は計り知れない。7月1日に屋内飲食店の人数制限が撤廃されるまで、苦戦を強いられてきた店が多い中、小さな蒸溜酒メーカーらは既存の工場を有効活用し、消毒液の製造に活路を見出した。
個性の強いジン造りで有名な「アーチー・ローズ」は、グレープフルーツやカシア、カルダモンなど香気成分を加えた手指消毒液を製造し、3月に4,500本発売したところ即完売。7月現在もサイトで販売している。蒸溜所「ブリックス」では、薬局で売り切れが続いていた分、需要が高いことを受けて、容量200mlの消毒液をラム酒購入時のおまけに提供。どの蒸溜所もアルコール度数70%前後のエタノールを謳っているので、実用性も高い。酒造メーカーにとっては従業員の雇用を維持し、手持ちの材料で需要がある商品を製造でき、助かっているそうだ。
モリソン首相は3月30日、1300億豪ドル(約9兆7500億円)規模の新型コロナウイルス対策を公表し、豪州政府は半年間、賃貸者の立ち退きを強制できないなどの措置を取った。また一部の従業員に対する人件費は9月まである程度補償される予定なので、多くの飲食店はスタッフの雇用を維持し、在庫を減らすためにテイクアウトに力を入れた。高級店でも、簡単な加熱調理で食べられる家庭料理(2人分で30豪州ドル=約2250円など)を提供し、地域の支援を得てしのいだ店も少なくない。
取材したどのシェフも「ロックダウンを受けて、外食の“価値の見直し”を余儀なくされた」と口をそろえる。価格を抑えつつ、食材にこだわり続けながらどこまで価値を追求できるか。予約時にクレジットカード情報を入手して、キャンセルされても予約代は確保したり、飲食時間を2時間に限定して回転をよくしたり、地道に売り上げを確保しながら、飲食店の在り方を模索する日々だ。
最低料金確保のためにセットメニューのみにした、市内近くに40席構える「アーサー」のオーナーシェフ、トリスタン・ロジエ氏は、業界の「働き方」についても考えさせられた
と言う。「長時間任務に耐えてきたシェフたちが、ロックダウンで初めて家族との触れ合いを楽しむことを味わった。今後、シェフのワークライフバランスの向上を見直していきたい」
<世界のコロナ対策:オーストラリアの場合>
▼行動制限要請、地域・全国封鎖の時期
3/20~ 市民と永住者以外の入国拒否
3/23~ 都市封鎖
(以下、解除の流れ)
5/15~ 行動規制緩和
* 再び感染者が増えたことを受け、メルボルン市、ミッチェル地区で7/8から6週間、ロックダウン再開。受験を控えた高校2、3年生以外はオンライン授業に
▼飲食業への要請や命令内容
3/23~ ロックダウンに伴い飲食業、ホテルは全面休業(テイクアウト、デリバリーのみ可)
(以下、解除の流れ)
5/15~ 店内での飲食は10人まで(店の規模によって異なる)
7/1~ 屋内会場(パブ、レストラン、各種式場等)での人数上限を撤廃。ただし4平方メートルにつき1人という制限あり(要着席)
▼飲食業(企業全般)への主な救済策
◎ 家賃支払い猶予
6カ月間は家賃滞納があっても立ち退きを強制できない
◎ 賃金補償
一定の条件を満たした従業員*1人につき、2週間おきに一律1500豪州ドル(約11万2500円)を6カ月間補償(3/30~9/24が対象。5/1より事業者に支給開始。延長の可能性あり)
*JobKeeperパッケージの対象者
• 16歳以上であること
• 豪州市民権、豪州永住権、その他特別なビザを保有していること
• 今年3/1の時点でフルタイム、パートタイム、カジュアル(12カ月以上、定期的に勤務)で雇用されていたこと
ただし3/1~31までの間に失業した従業員に関しても、上記を満たしていれば対象になる
給付対象企業の条件:
事業利益が前年同月と比べて30%以上減少した証明が可能な場合。また年間の事業収入が10億豪州ドル(約750億円)以上の場合、利益が50%以上減少したことを証明できる場合。
◎ Archie Rose
https://archierose.com.au
◎ Brix Distillers
https://brixdistillers.com
◎ Arthur
https://arthurrestaurant.com/
(『料理通信』2020年9・10月合併号/「ワールドトピックス」より)