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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

東京・調布 「山田屋本店」

秋沢毬衣 Marie Akizawa

Jul 12, 2021

text by Sawako Kimijima / photographs by AKANE

「日本人の米の消費量が減って、米業界は厳しいと言われるけれど、私はそう思っていません」と言い切るのは、創業115年を誇る東京・調布の米穀商にして銀座三越にも売り場を持つ「山田屋本店」6代目、秋沢毬衣さんだ。人口減少が進む今、量を売る時代でないことは自明の理。米離れの要因が食生活の変化にあるのだとすれば、どう変わっているのかをキャッチすることで対応策は見えてくる。秋沢さんは、生活者のニーズを捉え、生産者とのコミュニケーションを密に取りながら、米の未来を見据えている。


米の未来を明るく照らす。

「お弁当向きのお米って、どれですか?」「筍ごはんを作るのだけれど、どのお米がいいかしら?」「カレーに合うお米をください」。それが最近のお米の買い方だと秋沢毬衣さんは言う。
「1日3食のうち1度もごはんを食べない日がある人は少なくありません。決まった銘柄をストックするのではなく、他の食材と同じように料理に合わせて米を選ぶ時代。必要な時に購入したり、1~2kgずつ数種を買い揃える人が増えています」
事実、山田屋本店の店頭に10kg袋は存在しない。5kg袋が最大量だ。

昭和37年をピークに日本人の米の消費量は一貫して減り続けてきた。1962年に118.3kgだった一人当たりの年間消費量は2018年には53.5kgに。約半世紀でほぼ半分になった。食料消費(供給熱量ベース)の内訳を見ると、昭和35年には副食的食料より主食的食料の比率が高かったのが、昭和50~55年頃にほぼ半々になり、以降、主食の比率のほうが少ない。

「“量り売り”“個食包装”“パックごはん”が現代人の米の購入スタイル」と秋沢さんは言う。
「玄米蔵」と名付けられたスペースには農家から直接仕入れた米がずらりと並び、産地、生産者、品種や銘柄、栽培法などが表示されている。好きな米を好きな量だけ、好みの精米度合いで買える仕組みは、コーヒーの量り売りを彷彿とさせる。

「そうなんです。コーヒーを楽しむようにお米を楽しんでほしい。そのお手伝いをするのが、これからの米屋の役割だと思う」
どんなに消費量が減少しようと、日本人にとって米が主食である位置付けが変わることはないだろう。しかし、主食でありつつ嗜好品でもあろうとしている、とは言えそうだ。


店頭には玄米25種、白米12種が揃い、玄米、七分搗(づ)き、四分搗きなど、精米度合いを選べる。カルナローリ米やジャスミンライスも扱う。

“量り売り”のベースとなる農家からの直接仕入れは祖父が切り拓いた。まだ食糧管理法(1995年廃止)が幅をきかせていた時代から「量より質の時代が来る」と看破し、おいしい米を求めて全国の農家を訪ね歩いたという。そしてどこよりも早く“個食包装”を始めたのは父の淳雄さん。「バラエティの時代が来る」「米はハレの食べ物になる」と見据えて、2006年、2合包装をスタート。また、毬衣さんは昨年、米屋ならではの“パックごはん”の開発を手掛けた。「パックごはんの消費量はこの10年で約2倍に増えているんですよ」。ならばと、山田屋本店が取り引きする優れた生産者の米を使って8種を揃えた。「従来型のパックごはんは大釜で炊いてから個包装にして再加熱するのに対し、これは米の段階で個包装にして炊き上げる。つまり火入れが一度なので、それぞれの米本来の味が生きています」


「COOL JAPONICA クールジャポニカ」と名付けられた2合包装。スタートした当初は緑茶用のアルミパックに手詰めしていたという。


父親の代から懇意にしてきた宮城県面川農場のだて正夢、JA秋田おばこのおばこの匠(あきたこまち)、鳥取県江府町の奥大山江府米(きぬむすめ)など、選りすぐり米によるパックごはん。


米農家とは一生の付き合い。

幼少の頃から家族旅行の行先は米農家だった。「米どころを回った帰りに温泉に入る、なんて旅ばかり(笑)」
祖父が全国の農家を訪ね始めた時、そんな米屋はまだめずらしくて、「闇米屋が来た」などと騒がれたりもしたらしい。果敢に仕入先を開拓していった祖父の代からの縁は固く、「農家さんを訪ねると『毬衣ちゃんがまだこんなちっちゃい頃から知ってるんだよ』って言われます。そのおかげで全国に自分の田舎がある感覚」。
大学に入ってからは田植えや稲刈りの手伝いに出向くなどして生産者との関係を深めてきた。

祖父や父の代から仕入れてきた農家の一方で、毬衣さんが新しく取り引きを始める農家があると、「一生の付き合いになるからね」と周囲から念押しが入る。
生産者が1年間かけて丹精した成果、1年分の働きを預かる商売が米屋だ。出来の良い年も悪い年も扱い続ける信頼関係、作り手と売り手の一体感がなければ成り立たない。それこそコロナ禍だろうが台風だろうが、共に乗り越えていく気概がなければ、手塩にかけた米を託そうとは思ってくれないだろう。毬衣さんたちは代々自力で道を切り拓いてきたからこそ一生の付き合いを大事にする。


田植えや稲刈りに駆け付ける。生産者の人となりや仕事ぶりを伝えることも米屋の役目。最近はコンクールの審査員も務める。

母、美佳さんは全国でも2人しかいないという上級米飯食味評価士(日本精米工業会)の資格を持つ。毬衣さんはその母から毎日、朝ごはんの米の生産者当てクイズを出題されて育った。自身も五つ星お米マイスターや米食味鑑定士の資格を持つ。仕入れた米の持ち味を厳密に見極めた上で、食べ手に最良の使い方を提示しながら手渡せる米屋でありたいと願うがゆえだ。


店の棚には一合炊きの炊飯器がずらりと並ぶ。米が入荷する度に検食を実施する。

「昨日、石垣島から新米を載せた船が出航したんです」と毬衣さん。沖縄では2月末から3月に田植えをして、5月に黄金の穂が実り、6月には出荷される。本州の米が端境期を迎える頃に届く新米は、食欲が減退しがちな暑い季節の食卓に潤いをもたらす。

山田屋本店が取り扱う産地は25県に及ぶが、この10年で西の米や南の米が増えた。
「東日本大震災で流通が一時途絶えた際、慌てて西の米を探してみたら、意識の高い生産者が栽培する米が揃っていると気付いた。元々、森や水、棚田といった環境に恵まれた土地も多い」

日本有数のブナの森で知られる鳥取県江府町では、行政・JA・農家が連携して「奥大山プレミアム特別栽培米研究会」を設立して切磋琢磨している。兵庫県但馬にはコウノトリの繁殖・保護活動と連動して米栽培に取り組む「コウノトリ育む米」がある。佐賀県ではラムサール条約湿地に登録された東よか干潟付近で、地域とJA、行政、大学、IT企業等が持続性のある農業に取り組みながら「シギの恩返し米」を育てている。


毬衣さんは「九州のお米食味コンクール」の審査員を務めている。受賞米を本店と銀座店で販売。


楽しみ方の余地はあり、まだ伝え切れていない。

今、毬衣さんが力を入れるのは、米のブレンドである。
「料理店に対してはこれまでも行なっていました。たとえば、お鮨屋さんは自分の店だけのすし飯が欲しいから、その店の握りに合うようにブレンドした米を納めます。中華の料理人さんからは中華のおかずとの相性が良くてチャーハンにも向く米を求められてブレンドする」

つい先頃は服部栄養専門学校の先生が訪ねてきて「佃煮に合う米が欲しい」と言われた。青天の霹靂、つや姫、両方のブレンド、3種をテイスティングしたところ、圧倒的にブレンド米の評価が高かったという。 「コーヒーを楽しむようにお米を楽しんでほしい」という観点からも、毬衣さんはブレンドを広めたい。「自分好みのお米を実現するお手伝いも米屋の仕事。ブレンドはお勧めです」


京中(京都中勢以)のレトルト「熟成牛丼」に合わせて、毬衣さんがパックごはんを開発。牛丼の味わいに合わせて山形県産つや姫と丹波ささやま産コシヒカリをブレンド。

3年前から、銀座三越を舞台として、平成元年生まれの毬衣さんが平成生まれのお米を紹介するイベント「OKOME COLLECTION」の企画・運営をしている(昨年はコロナ禍でオンライン開催)。初開催の2018年には9県13品種の生産者が一堂に会したが、銀座という場所柄、外国人客も多く訪れた。彼らから発せられたのは「なぜ、こんなに品種があるのか?」「どんなふうに使い分けているのか?」「まるでワインのようだね」という言葉だった。
毬衣さんにはロンドン留学経験があり、当時から感じていたのが「海外にはまだまだ日本の米文化の奥深さが伝わっていない」との思い。「日本食ブームと言いながら、海外での担い手はアジア系の人々だったり、古米が平気で売られていたり。日本の米には海外で活躍する伸びしろがある」

銀座のイベントで通訳に立ってくれた人物の紹介で、今、ドイツの食料品店に米を輸出する計画が進行中だ。サンプルを数種送ったところ、彼らが選んだのは毬衣さんイチオシの米。品質を厳選し、バックグラウンドを的確に伝えれば、自分たちの価値観は海外でも理解されると確信した。だから、毬衣さんは言い切る、「日本の米の未来は暗くない」。




秋沢毬衣(あきざわ・まりえ)
1989年、東京都調布市生まれ。1905(明治38)年創業の米屋の6代目。日本女子大学家政学部食物学科卒業後、岐阜の醸造会社に就職。退社後、欧州留学を経て、2015年山田屋本店に入社。営業企画担当として、調布の本店と銀座三越地下3階の「銀座米屋彦太郎」を行き来しながら、全国の米農家を積極的に訪ねている。2018年からは、平成生まれの品種と生産者が一堂に会するイベント「OKOME COLLECTION」を銀座三越にて開催。五つ星お米マイスター(日本米穀商連合会)、米食味鑑定士(日本精米工業会)の資格を持つ。

◎株式会社山田屋本店 お米館調布本店
東京都調布市布田2-1-1
☎042-482-4585
10:00~18:00
日曜、祝日、水曜休
https://hikotaro.jp/




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