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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

10月1日は、全世界で「日本酒で乾杯を!」

SAKE アンバサダー 清永真理子

2024.03.07

1年に一回、全世界で「日本酒で乾杯を!」 SAKE アンバサダー 清永真理子
text by Kaori Shibata / photographs by Daisuke Nakajima
おじさんの飲み物じゃ、
かわいそう


日本酒が、国内外で話題だ。海外の有名レストランでのオンリスト、パリやミラノでは外国人の日本酒ファンによる日本酒イベントが開催され、国内では若き蔵元杜氏に注目が集まる。


こんな日本酒の活況を誰が想像したろうか。清永真理子さんは、日本酒が現在のように注目される以前から、地道に日本酒好きのネットワークを創ってきた。会社勤めと併行しながら長く活動を続けた末、2015年6月に起業。日本酒に関わるようになってから、一貫しているのは「こんなに美味しいのだから、もっと広まっていい」という彼女の飲み手としての実感だ。

大学卒業後、リクルートに入社して3年後、U・Iターン人材募集雑誌の営業担当として、北海道に赴任した。地方では、地元に溶け込むために、酒を介してコミュニケーションを図ることも多い。「一緒に飲まないと、人として信用してもらえない」。日本酒は実は苦手だった。が、北海道で最初に注がれた酒は、「日本酒って、こんなにおいしかったのかと驚きました」。飲んだのは、岩手の「浜千鳥」。取引先の北海道の行政関係者に他県からの出向者も多く、日本酒談義で盛り上がり、唎酒師資格も取るまでに。

だが東京に戻り、清永さんが日本酒を飲む相手は、相変わらずおじさん達。「決して男性がだめということではないのですが、男性と飲むと、日本酒が主役でなくなることが多いんです」。男性にとっての酒は、仕事の延長線上にあったり、はたまた忘我の道具であったり、そこには楽しさが欠けていた。

「もっと楽しく日本酒を飲める仲間がほしい。これでは日本酒がかわいそう」と、女性だけで日本酒を飲む会ができないかと考えるように。唎酒師の関係で、日本酒の蔵元とのつながりが増えた清永さんは、三つの蔵の協力のもと、99年7月「FourSeasons~四季折々の日本酒を女性たちが楽しむ会~」を発足。年に4回の会は盛況となり、口コミだけにも関わらず、発信力のある闊達な女性たちが集まるようになった。協力してくれる蔵元や会場の選択肢も増え、「日本酒の伝え手として、女性は力になる」と蔵元と共に実感した。

2010年、日本酒の普及に尽力した人材として、「酒サムライ」を叙任。プライベートでは結婚、出産を経験し、ライフスタイルが大きな変化を迎えた直後だった。叙任後は、徐々に活動の場が広がった。自身のコミュニティ向けに、同じ銘柄で春・秋の味わいの違いを楽しむ限定酒をリリースしたり、ネットで酒の専門家としてコラムを書く仕事も増えた。日本酒の活動がボランティアからビジネスへとシフトし始めた頃、夫のシンガポール駐在が決まり、23年間務めた会社を退社。これが、海外で日本酒を伝えるという新たな挑戦の始まりとなった。

1年に一回、全世界で「日本酒で乾杯を!」 SAKE アンバサダー 清永真理子

マイ猪口。日本酒を通じて繋がった大切な友人がプロデュースする「美命」の器と酒袋。常に持ち歩いている。

日常の中に日本酒伝道師を

日本で創った女性コミュニティは、17年間で参加者は延べ3500人となり、コアなメンバーが幹事役となって、会を回す力をつけていた。清永さんは、会の運営を外からサポートしつつ、シンガポールで「外国人に日本酒のおいしさを伝える」を活動の中心に。富裕層の多いシンガポールでは、10万円以上の限定酒が売れる市場も存在する。

しかし売れるのは知名度の高いブランドばかり。酒税の高いシンガポールで、消費者に選んでもらうのは至難の業だ。「まずは、呑んでもらうこと」そう考え仕掛けたのが、10/1「日本酒の日」に、一斉に日本酒で乾杯するイベントだ。その年の酒造りが始まる業界の記念日。「乾杯は世界中どこにでもある行為。広がりやすいと」。

2014年、彼女の呼びかけでシンガポールの飲食店32店、824名が日本酒の乾杯を体験。これが話題となり手応えを得た。翌年帰国すると、清永さんは日本酒のPRとマーケティング業務を行う会社を起業し、シンガポールとの仕事を継続した。乾杯イベントの成功のおかげで、レストラン業界に彼女の名前は知られ、サービススタッフ向けに日本酒レクチャーの依頼や、日本酒リスト作りなどの仕事が来るように。

2回目の「日本酒の日」乾杯イベントは、50店舗1374名が参加。日本の会場とスカイプで結び、同時乾杯を行い更に盛り上がりをみせた。目下最大の目標は「ボジョレー解禁日並に世界・日本中に広がること」。そこから生まれる日本酒体験が、日本酒への興味・関心の一歩となる。

彼女が描く理想は、職業的専門家というよりも、日本酒がもつ楽しさを伝えられる人だ。そのためには日本酒+α、例えば料理、着物など「組み合わせの妙」が鍵だと考えている。日本酒は日本の食、地域、伝統文化を体現している。その楽しさを体験したり、学んだりすることで、日常の中に日本酒の伝道師を増やしたい。それは、かつての彼女がそうだったからこそ、確信できる未来だ。今は、そのプラットホーム作りだ。

1年に一回、全世界で「日本酒で乾杯を!」 SAKE アンバサダー 清永真理子

司牡丹酒造・竹村社長から贈られた、オリジナルの直筆ラベル。本名:青木真理子にかけて、「あいにあふれ おおらかで きらきらかがやく まえむきの リーダー ここにあり」とあり、心の支え。

1年に一回、全世界で「日本酒で乾杯を!」 SAKE アンバサダー 清永真理子

息子の生まれ年に購入した、富山・桝田酒造「満寿泉」大吟醸のイヤーボトル。息子が成長した暁には、10月1日の日本酒の日に、この酒で乾杯するのが夢。

1年に一回、全世界で「日本酒で乾杯を!」 SAKE アンバサダー 清永真理子

2016 年10月1日、シンガポールで行なわれた、第2回『カンパイ!』イベントの開催の様子。50店舗、1374名が参加。盛況のうちに幕を閉じた。


WABI
☎070-2666-5974
http://wabi-international.com/

(雑誌『料理通信』2016 年3月号掲載)

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