小方真弓さん(おがた・まゆみ)カカオハンター
第1話「カカオプランナーになる!」(全5話)
2023.02.13
世界には
「チョコレート」を知らずに「カカオ」を栽培している人
「カカオ」を知らずに「チョコレート」を口にしている人
が沢山います。
“カカオからチョコレートまで”
離れた2つの世界を
「美味しさ」と「笑顔」で繋ぐことが
私たちの大きな夢です。
小方さんのWEBサイトを開くと、目に飛び込んでくる言葉です。
これが、「チョコレート」と「カカオ」の間を行き来する中で見出した彼女のミッションなのです。
連載:カカオハンター 小方真弓
※本記事は過去に掲載した記事の再公開です。
「カカオを知りたい」
小方真弓さんは、1997年、クーベルチュール(製菓用チョコレート)メーカーに就職し、企画・研究部門でクーベルチュールを開発する日々を送っていました。
「仕事そのものは好きでした。でも、もっとチョコレートの本質に触れたい、カカオについて知りたいとの思いが強くなって」
2003年、独立。個人事務所「CAFÉ CACAO」を設立します。
この時、小方さんは名刺の肩書きに「カカオプランナー」と入れました。
カカオからプランニングする、カカオを商品化へと導く役割を担っていこうとの思いからでした。欧州6カ国のチョコレート市場の視察や、栽培国でのカカオ調査など、精力的に活動を開始します。
私たち料理通信が初めて彼女を取材したのが、ちょうどこの頃。
自費で、自力で
彼女の存在は画期的でした。
1.「カカオプランナー」という肩書きを作ってしまったこと
2.自費で欧州6カ国のチョコレート市場のレポートを作成
3.自費でカカオ栽培国の視察を重ねていたこと
メーカーで蓄えた製造技術の経験と知識の上に、チョコレート先進国の市場把握とカカオ栽培国の現状把握を、自力で積み上げていることが一目瞭然でした。
女性がたった一人で、赤道直下の、決して安全とは言えない国々へするりと足を踏み入れてしまっている……。そんな生易しいことではないでしょうが、そう見えるくらい、しなやかにやってのけていたのです。
2つの領域を股にかける
つまり、カカオ領域とチョコレート領域は異なる文化圏と言えます。
たとえば、パティシエやショコラティエは、チョコレート圏の人々。
事実、彼らにとっての材料とは、クーベルチュールであって、カカオではありません。
そういう意味では、クーベルチュールが、チョコレート圏とカカオ圏の接点と言える。
小方さんが勤務していたのは、クーベルチュールメーカーでした。
小方さんは、カカオ圏とチョコレート圏、両方にまたがる形で仕事をしていたわけです。
そのことが彼女の仕事の方向性を決めた。そこを彼女は武器にしたのです。
小方さん自身は「本能のおもむくままだった」と言うかもしれません。しかし、その選択が、彼女を唯一無二の存在にしたことは間違いのない事実です。
チョコレートの魅力にとりつかれる人はたくさんいます。
仕事にしたいと思う人もきっとたくさんいるでしょう。
実際、パティシエの勉強の他に、ショコラティエの勉強もする若手が増えました。
でも、その多くは、チョコレート圏での話。
小方さんは、カカオ圏とチョコレート圏、両方を行き来し、両方を結ぶことに、自分の役割を見出しました。分断されて語られてきた2つの領域を1つにすることに、ミッションを見出したのです。
ミッションが支えてくれる
ミッションを持つ。
仕事をしていく上で、とても大切なことのように思います。
ミッションは、社会のためであると同時に、自分のためでもあるからです。
ミッションがあると、今自分がやろうとしていることは、自分一人の問題ではないと思える。
ミッションが自分を支えてくれるのです。
道を開こうとする時、困難は付き物です。
しかし、自分一人の問題ではないとしたら、いちいちくじけている暇はありません。
困難を乗り越えるパワーを、ミッションが与えてくれることになるのですね。
私たちがカカオについて記事を作ろうとする時、小方さんはいつも与え得る限りの知識を披露してくれました。
一人でも多くの人にカカオ圏に入ってきてほしい。カカオ圏のことを知った上でチョコレートを理解してほしい。そんなカカオ圏とチョコレート圏を結ぼうとする気持ちが、彼女にそうさせたのでしょう。
私たちは、小方さんに「彼女の仕事は彼女一人のものではない」、そんな側面を感じていたように思います。
小方真弓(おがた・まゆみ)
チョコレート原料メーカーにて勤務後、個人事務所「CAFE CACAO」を設立し、カカオハンターとして活動。現在はコロンビアに移住し、カカオ豆の輸出入、チョコレート工場建設、Bean to Bar市場用機械の共同開発等を行いながら、カカオ市場の価値向上に取り組む。