HOME 〉

PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

佐藤英之さん(さとう・ひでゆき)地産品加工スペシャリスト

第3話「田舎の食を、都会のテーブルへ」(全5話)

2016.09.01

個性を生かす

「喜多屋のまずいものシリーズ」。
こんなふうに言われ続けながらも、決してめげなかった粘り強さが、佐藤さんの武器かもしれません。

最初にチャレンジしたのは、紅時雨大根のジュース。甘味と香りづけに、特産のカボスと梨を入れてみました。
大根の辛味は時間の経過とともに抜けましたが、代わりに漬物のような匂いが――。主婦グループに試飲をしてもらったところ、やはりというべきか、25人中23人は不評。
ところが佐藤さんはこう捉えました、「2人おいしいと言うなら、いけるはず! 悪いところを直せばいいんでしょ」と。

早速、臭いを抑える方法を探るべく、県の産業科学技術センターへ。繊維を断つように切って、即70℃以上の湯につけると酵素が死ぬらしい。





Photographs by Masahiro goda,Text by Kyoko Kita





しかし。「大根の良いところを潰して、ピンク色の汁を作ってどうするの?」、職員からの素朴な問いかけに、ハッとしました。そして、いかに大根の個性を生かすかに、頭を180度切り替えます。

実験、実験、実験





辿り着いた答えが、ドレッシング。
「ドレッシングなら、野菜のクセも味になる。油が入ることで強い香りは抑えられるし、酢が入るから保存もきく。発酵や熟成させる必要がないから、完成までに時間もかからない。お客さんにも産地の野菜のおいしさを気軽に楽しんでもらえるのではないかと」

もともとが料理好き。様々なレシピを研究したり、水分量や油分など科学的なことはプロの意見を取り入れながら、日夜、試作という名の実験を繰り返しました。

明確なブランドコンセプト





かくして、喜多屋の商品第1号“KaKe Vegee(カケベジ)”が完成します。紅時雨大根と玉ねぎをたっぷり加えた“食べる”ドレッシング。これをかけるだけで、サラダの具材が2種類増える、そんな感覚です。

“カケベジ”は以降シリーズ化されて、喜多屋ブランドの核に成長していきます。
そしてその3大特長は、ドレッシング以外の商品でも貫かれ、ブランドのコンセプトがいよいよ明確になっていくのです。

【喜多屋ブランドの特長1】地元産の野菜がたっぷり





「竹田の野菜のおいしさを知ってほしい」、佐藤さんの思い入れの分だけ野菜が入っています。
野菜は基本、減農薬栽培。でも本当に大切にしているのは、農法よりも、人。
「会って話をして、この人とずっとつながっていきたいと思う農家さんの野菜を使わせてもらっています」。

【喜多屋ブランドの特長2】植物性素材だけ





たとえば、タルタルソースに卵は必須、と思いがち。でもそこは、濃厚な豆乳と味噌のコクで味を作りました。
佐藤さん自身がベジタリアンというわけではありません。
「以前、商談会で東京の一流ホテルの料理長に『鰹節が入っていなければ海外の人にも提供できるんだけどね』と言われたんです。ベジタリアンという需要があることを改めて気付かされました。
ならば鰹節をやめて、昆布で旨味を出そう。いっそのこと全商品、植物性素材のみでいこう、と」。

【喜多屋ブランドの特長3】無添加





原材料には、アミノ酸も、増粘剤も、酸味料の文字もありません。佐藤家のおすそ分け、と言わんばかりのシンプルな材料。
「知らなかったんです。デキストリンって何?って(笑)」。
佐藤さんのことです、調べれば、聞けば、実験すれば、いかようにも使いこなせるはず。
それでも、「わからないものは使わない」という誠実さ。
アミノ酸ではなく味噌を、増粘剤ではなく寒天を、酸味料ではなく特産のカボスを使う。

「それに、アミノ酸を入れたら大手と同じ味になっちゃいますよね。
同じ土俵で戦うなんてナンセンス。
産地にいる僕がすべきは、完熟の野菜のおいしさを、できるだけそのまま瓶詰することなんです」。

週一から始める“VEGEE”生活





佐藤さんが竹田に移り住んで感じこと。
それは清らかな空気と水に育まれた野菜のおいしさであり、それを生かす料理のおいしさ。

「ベジタリアン、マクロビ、玄米食。今でこそいろんなスタイルや呼び方がありますが、日本の食は、本来こういうものだと思うんです。
竹田の農家のおばあちゃんが作る料理は、今でもそう。
シンプルな基礎調味料で、とれたての野菜のおいしさを生かす料理。
けれど、田舎料理をそのまま都会の食卓に馴染ませようと思っても、なかなか受け入れてもらえない。
それをドレッシングにすることで、気軽に違和感のない形で届けられたらと」。

キャッチフレーズは、「週一から始める“VEGEE(菜食)”生活」。竹田の野菜で、都会の人々の暮らしを健やかなものにできたらと願って。




佐藤英之(さとう・ひでゆき)
1974年、東京生まれ。広告代理店、大学生協での勤務を経て、西表島に移住。ホテル業に就いた後、カヌーのネイチャーガイドの会社を起業する。2005年、大分県竹田で、江戸時代には武家宿、明治以降は郵便電信事業などで町の中心的役割を担ってきた父方の実家「喜多屋」の相続を決意し、移住。農業地域である竹田の魅力を発信するため、地元の食材に付加価値を付けて加工品を製造・販売。竹田の活性化を目指す。

























































料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。