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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

関口博樹さん (せきぐち・ひろき)

青森南部羊生産者

Aug 26, 2021

階上町の食用育羊文化を絶やすまい!

日本人は、いつからこんなに“羊っ食い”になったのだろう。昨今のスーパーの肉売り場をのぞくたび、そう思わずにいられない。棚に並ぶ新鮮なチルドラム、その部位違いのバリエーションの豊富なこと。もちろん、無類の羊肉好きとしては、欣喜雀躍の変化ではあるのだが。

これほどのブーム下にあって、いや、急激に進みすぎたブームゆえか、羊肉の供給は、内外格差において著しくバランスを欠いた状態に置かれている。見かけるのは、もっぱら南半球を中心とする海外からの輸入肉。国産の羊肉は輸入量の1%未満、しかも市場にはまず出回らないのが実情だ。

そんなマイノリティの畜産にあえて取り組み、地域活性に生かそうと立ち上がった猛者がいる。青森県東南端の小さな町、階上町(はしかみちょう)で活動する関口博樹さんが、その人だ。


text by Noriko Horikoshi / photographs by Masahiro Goda


“絶滅危惧種”の羊を育てる


「最初は自家消費用に2、3頭も育てればいいべ、くらいの軽い気持ちでした」

さすが流暢な(?)南部弁・・・かと思いきや、実は東京都出身の関口さん。10年前にIターンで八戸に移り住むまでは、料理人人生まっしぐら。ローマでの修業経験ももつ、イタリアンの生え抜きシェフだった。

八戸では地元食材への興味が高じ、やがては蕎麦職人に転身。店のあった産地直売所で、会員の堰合(せきあい)勝美さんが卸す食用の羊を知った。青森では珍しい原種のサフォーク羊。むっちりと弾力のある肉質で、風味が濃く、すばらしくおいしい。聞けば、階上町には半世紀にわたる育羊の歴史があるらしい。海が近いが空気は乾燥していて、冬は寒風が吹きすさぶ土地柄。冷涼な環境を好む羊には理想的な気候風土であり、かつては10数軒の羊農家が存在したという。 それが、今では堰合さん1人を残すのみ。しかも70代の高齢で、もう後継ぎもいないから、辞めるつもりだと聞いた。

「もったいないなと思いました。イタリアンをやってた頃から羊は好きで、得意な食材でもあったから。でも、おいしいのに、という理由だけじゃなく、消えかかっている階上町産食用羊の文化を、ここで絶滅させてはならない、復活させなくてはと思う使命感のほうが強かった」

が、やる人がいない。それなら自分が後を継ごう。畜産はおろか農業経験もゼロなのに、不思議なほど、ためらいがなかった。すぐに堰合さんに弟子入りを志願する。餌やり、毛刈り、畜舎の清掃。何事も実地でなければ知り得ないことがある。

「羊って大人しい動物だと思うでしょ? でも実は凶暴なんですよ」と関口さん。「特に、秋口の発情期は要注意。背後から不意に猛然とドつかれたり、薬を飲ませようとしたら暴れられて、2メートルくらい吹っ飛んだり。命がけです、冗談抜きに」

漁業、農業とのリンクも視野に


バトルにも慣れてきた半年後、7頭の羊を譲り受け、羊飼いデビューの日を迎えた。元スキー場の遊休地を借り受け、草刈りや柵張りも自力で。初めてのハイライトは出産シーズンの2月から4月。生まれた仔羊のオスは種親用に1頭を残し、メスは繁殖用に大事に育てる。このサイクルを繰り返しながら、気長に頭数を増やしていかなければならない。個体が小さく、飼いやすいイメージのある羊だが、実は極めて飼育が難しい家畜でもあるという。

「病気に弱く、群れて暮らす習性から、弱みを隠そうとする本能があって。人間が異変に気付いた時点で手遅れが多いんです。生後8時間以内に初乳を飲まないと死んでしまうので、乳づけも必要。1回目の出産の時は、心配で家に連れ帰っていました」

新米畜産家の奮闘ぶりを目にして、当初は遠巻きに見ていた近隣農家の人々も、こぞって救いの手を差し伸べてくれるように。

「代わる代わるのぞきに来ては、うちんとこのトラクターを使え、フォークもやる、餌の牧草も余ってるから持っていけ、と(笑)。周りが助けてくれて、気がつくと何とかなってる。田舎のよさって、こういうことだなと改めて感じ入りました」

関口さんには、さらに強力な援軍がついていた。“羊食”に特化したコミュニティづくりと情報発信を担うユニークなNPO団体「羊齧(ひつじかじり)協会」が、復活の取り組みに共鳴し、「南部羊プロジェクト」を発足して応援に立ち上がってくれたのだ。就農から4年が過ぎ、羊の飼育数は約2倍の15頭に。2019年1月には、都内でラムとホゲット(1歳以上2歳未満の仔羊)のお披露目会が開かれ、初出荷を待ち侘びていた“ラムラー”たちと大いに盛り上がった。

「次は地元の漁師や農家の人たちと組んで、アンコウ、ニンニク、羊で面白いことをやろうかと。料理人のバックグラウンドを生かせる仕掛けにも、チャレンジしていきたいですね」と関口さん。階上町の“羊をめぐる冒険”は、これからが本番だ。
牧場や厩舎での一人時間が長い牧畜業では、スマホが生産者と消費者とをつなぐ最強の媒体。牧羊風景や仔羊の誕生などの情報も、インスタグラムで逐一報告。羊齧協会も、リアルタイムの情報発信で応援する。


階上町で代々育ててきたサフォーク羊は、イングランド原産のノーフォークとサウスダウンの交配種。日本の食用羊の8割を占めるポピュラーな品種だが、階上町産は原種のみを飼育している点で県内でも希少な存在。


牧場の草がない冬の間は、餌やりの重要性が増す。配合飼料と干し草をベースに、脂肪がつきやすくなる穀物を餌に混ぜることも。 “これがベスト”の正解はなく、常に試行錯誤の連続だ。


設備ゼロ、機材なし、道具なしの“ないない尽くし”で開墾から始めたはずが、気づけば借りもののトラクターだけで4台に。関口さんのもうひとつの生産物である、ネギの栽培や収穫にもフル活用。





◎ 階上フロンティア
青森県八戸市売市字鴨ヶ池32-4
☎090-7553-9726

雑誌『料理通信』2019年4月号 掲載)

























































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