高橋 慶さん(たかはし・けい)
「環境テクシス」 エコフィード製造・販売・コンサルティング/養豚
2020.01.01
香川の「オリーブ牛」、島根の「えごま鴨」など、食材名を冠したブランド肉を目にするようになった。これらは食品残渣を飼料として育てることで、資源を循環させながら、肉質に特徴を持たせる、つまり、エコフィード(リサイクル飼料)による飼育事例だ。高橋慶さんは、今注目のエコフィードのプロフェッショナル。
「食品ロス削減推進法」が公布されて、フードロス対策が社会共通のミッションとなる中、高橋さんの担う役割は大きい。
「食品ロス削減推進法」が公布されて、フードロス対策が社会共通のミッションとなる中、高橋さんの担う役割は大きい。
エコフィードが映し出す食の風景
豚を飼い始めたのは、自分が作る飼料を豚が喜んで食べることとその肉質の良さを証明するためと言っていい。
高橋慶さんが作る飼料とはエコフィード。食品の製造過程で発生する副産物(酒粕や醤油粕、菓子やパンの切れ端、果物や野菜のカットくずなど)、余剰食品・賞味期限切れ食品(売れ残りのパン、麺、弁当、惣菜など)、調理残渣(調理に伴い発生するくず)を加工処理して作られるリサイクル飼料である。
ちなみにエコフィード(ecofeed)とは、エコロジカルやエコノミカルを意味するエコ(eco)と飼料を意味するフィード(feed)を併せた造語。高橋さんはその領域をリードする数少ない専門家だ。
「食品ロス削減推進法」が5月31日に公布された。フードロスに社会全体で取り組もうとする気運を背景として、エコフィードへの関心も高まりを見せる。高橋さんのもとには仕事の依頼や相談に加えて、セミナーや原稿執筆の依頼が引きも切らない。
高橋慶さんが作る飼料とはエコフィード。食品の製造過程で発生する副産物(酒粕や醤油粕、菓子やパンの切れ端、果物や野菜のカットくずなど)、余剰食品・賞味期限切れ食品(売れ残りのパン、麺、弁当、惣菜など)、調理残渣(調理に伴い発生するくず)を加工処理して作られるリサイクル飼料である。
ちなみにエコフィード(ecofeed)とは、エコロジカルやエコノミカルを意味するエコ(eco)と飼料を意味するフィード(feed)を併せた造語。高橋さんはその領域をリードする数少ない専門家だ。
「食品ロス削減推進法」が5月31日に公布された。フードロスに社会全体で取り組もうとする気運を背景として、エコフィードへの関心も高まりを見せる。高橋さんのもとには仕事の依頼や相談に加えて、セミナーや原稿執筆の依頼が引きも切らない。
科学的にアプローチする
考えてみれば、人間の食べ残しを家畜に与える給餌法はかつてもあった。業界には"残飯養豚"という言葉もある。では、それとエコフィードはどう違うのか?
「科学的にアプローチしながら餌を作る点において異なりますね」
豚や牛の生態・体質に適した栄養組成、食い付きや消化吸収に配慮するなど、食品残渣を材料としながらも餌として配合飼料を凌ぐクオリティに仕上げるという。
「豚に必要なのは炭水化物とタンパク質、そして、ビタミン、ミネラルです。油脂、特にリノール酸に富んだ大豆油や菜種油などサラダ油を多く含む原料を使用すると、豚肉中の脂肪融点が下がって商品価値が落ちる側面もある。動物性の脂肪、たとえば魚の油脂に含まれるDHAは酸化しやすく、酸化すれば生臭くなり、これが豚肉の脂肪に移行しやすい。つまり、油脂は極力避けたほうがいい。また、野菜クズなど繊維質のものをたくさん食べさせると、膨満感から餌の摂取量が減ってしまう」
餌を胃内の微生物に分解・発酵させて吸収する牛などと比べると、単胃動物の豚の場合、飼料が肉質に与える影響は大きい。
「豚の肉質を決めるのは、品種が2~3割、餌が6~7割、飼い方が1割」と高橋さん。
とするならば、輸入トウモロコシ主体の配合飼料で育てたら、どこで誰が飼ってもさほどの差が出ないということになる。
「エコフィードのほうが肉質に特徴を出せます。油脂分の多いトウモロコシ主体の配合飼料よりも豚の体質に合った餌を作れるし、豚が好む味に仕上げてしっかり太らせることもできる。国内の循環資源で、です」
その事実を自ら飼育する豚で実証しようというわけである。着手したのが2年前。
養豚業の立ち上げにあたり、ブランド名をネットで公募した。エコフィード、とりわけ酒粕、ビール酵母、乳酸菌飲料といった発酵食品を食べさせていることや肉の特性を伝えて募集したところ、2500件の応募があった。選ばれた名称が「雪乃醸」(ゆきのじょう) 。
「雪乃醸」を扱う食材卸の株式会社 太陽、坂口洋一さんは「養豚の常識を変える可能性のある取り組み」として着目する。肉に精通する東京・青山「ローブリュー」や銀座「ル・ボーズ」へ納める。
「科学的にアプローチしながら餌を作る点において異なりますね」
豚や牛の生態・体質に適した栄養組成、食い付きや消化吸収に配慮するなど、食品残渣を材料としながらも餌として配合飼料を凌ぐクオリティに仕上げるという。
「豚に必要なのは炭水化物とタンパク質、そして、ビタミン、ミネラルです。油脂、特にリノール酸に富んだ大豆油や菜種油などサラダ油を多く含む原料を使用すると、豚肉中の脂肪融点が下がって商品価値が落ちる側面もある。動物性の脂肪、たとえば魚の油脂に含まれるDHAは酸化しやすく、酸化すれば生臭くなり、これが豚肉の脂肪に移行しやすい。つまり、油脂は極力避けたほうがいい。また、野菜クズなど繊維質のものをたくさん食べさせると、膨満感から餌の摂取量が減ってしまう」
餌を胃内の微生物に分解・発酵させて吸収する牛などと比べると、単胃動物の豚の場合、飼料が肉質に与える影響は大きい。
「豚の肉質を決めるのは、品種が2~3割、餌が6~7割、飼い方が1割」と高橋さん。
とするならば、輸入トウモロコシ主体の配合飼料で育てたら、どこで誰が飼ってもさほどの差が出ないということになる。
「エコフィードのほうが肉質に特徴を出せます。油脂分の多いトウモロコシ主体の配合飼料よりも豚の体質に合った餌を作れるし、豚が好む味に仕上げてしっかり太らせることもできる。国内の循環資源で、です」
その事実を自ら飼育する豚で実証しようというわけである。着手したのが2年前。
養豚業の立ち上げにあたり、ブランド名をネットで公募した。エコフィード、とりわけ酒粕、ビール酵母、乳酸菌飲料といった発酵食品を食べさせていることや肉の特性を伝えて募集したところ、2500件の応募があった。選ばれた名称が「雪乃醸」(ゆきのじょう) 。
「雪乃醸」を扱う食材卸の株式会社 太陽、坂口洋一さんは「養豚の常識を変える可能性のある取り組み」として着目する。肉に精通する東京・青山「ローブリュー」や銀座「ル・ボーズ」へ納める。
廃棄させているのは誰?
高橋さんが全国の畜産農家に供給するエコフィードの原材料として使用するのは、主として食品工場の製造副産物(廃棄物)である。たとえば、バームクーヘンを長い棒に巻き付けるように焼き上げた後、包装する際に切り落とされる両端や焦げた部分。麺類など製品検査時の重量オーバー・重量不足品。カットフルーツ工場で発生するフルーツの皮、豆腐工場のおから、ビール工場の麦芽粕など。
「食品ロス削減推進法」公布と同時期にコンビニ弁当の実質値引きが話題になったが、環境テクシスではスーパーやコンビニの売れ残り商品の受け入れをあまりしていない。季節性があるため食材の種類が一定せず、状態も不安定、飼料に適さないものも含まれているなど、飼料としてのクオリティの障害となるのが主な理由である。
「スーパーやコンビニの弁当には唐揚げ、コロッケ、てんぷらといった揚げ物が多いでしょう。ほら、豚に油物は適さない」
あくまでも残飯養豚とは一線を画す。エコフィードとは人間の食べ残しを餌にすることではないとの姿勢を貫く。
高橋さんは名古屋大学農学部農学科で耕地利用学を学んだ。卒業後、水処理プラントメーカーの研究開発部門で排水浄化の設計を担当。05年に独立して、当初は食品廃棄物から堆肥を作っていた。エコフィードに取り組むようになったのが08年。「食べられる食品が廃棄されるのはもったいない」との素朴な思いがきっかけだった。
彼の目には、食品廃棄物を通して、現代日本の食の風景が映し出される。
野菜工場、サラダ工場、漬物工場などからの野菜くずの引き取り依頼が増えた。いまや野菜は加工された後に店や家庭へ入っていく道筋がはっきり見える。天候不順で野菜の高値が続くと引き取り依頼がいっそう増える。加工野菜は価格が変動せず、不順な時ほど需要が伸びるためだ。
スーパーのカットフルーツ工場などその場でエコフィード化を図る事業者も増えた。それらの指導や、彼らが手掛けたエコフィードを買い取って流通させるのも高橋さんの仕事だ。時代を映す一例がクラフトビールのビール粕。大手メーカーのビール粕は以前からエコフィードの原料だったが、最近はマイクロブリュワリーに指導に行く機会が多くなった。
届いてくる廃棄食品の脂肪過多、塩分過多、カロリー過多も気になるところだ。
「よく添加物が槍玉にあがりますが、添加物は安全性が科学的に証明されたものしか使用が許されない。対して、塩分過多や脂肪過多が健康の阻害要因であることは周知の事実です。添加物を云々する前にこちらをなんとかしたほうがいい(笑)」
そして何より疑問に思うのは、厳しすぎる消費者と忖度し過ぎるメーカーの姿勢。
目の前の廃棄食品を見るにつけ、「なぜ、これが?」という品も少なくない。
「カップ麺のカップ内の麺の形状が悪いと廃棄になるんですよ」
味にも見た目にも欠損がないのに、万が一のクレームを回避して廃棄の道を選ぶ。そんな光景を日々目の当たりにしながら、高橋さんは思う、食品になった後のロス削減も大事だけれど、食品になる前のロスにも気付いてほしい、と。
「食品ロス削減推進法」公布と同時期にコンビニ弁当の実質値引きが話題になったが、環境テクシスではスーパーやコンビニの売れ残り商品の受け入れをあまりしていない。季節性があるため食材の種類が一定せず、状態も不安定、飼料に適さないものも含まれているなど、飼料としてのクオリティの障害となるのが主な理由である。
「スーパーやコンビニの弁当には唐揚げ、コロッケ、てんぷらといった揚げ物が多いでしょう。ほら、豚に油物は適さない」
あくまでも残飯養豚とは一線を画す。エコフィードとは人間の食べ残しを餌にすることではないとの姿勢を貫く。
高橋さんは名古屋大学農学部農学科で耕地利用学を学んだ。卒業後、水処理プラントメーカーの研究開発部門で排水浄化の設計を担当。05年に独立して、当初は食品廃棄物から堆肥を作っていた。エコフィードに取り組むようになったのが08年。「食べられる食品が廃棄されるのはもったいない」との素朴な思いがきっかけだった。
彼の目には、食品廃棄物を通して、現代日本の食の風景が映し出される。
野菜工場、サラダ工場、漬物工場などからの野菜くずの引き取り依頼が増えた。いまや野菜は加工された後に店や家庭へ入っていく道筋がはっきり見える。天候不順で野菜の高値が続くと引き取り依頼がいっそう増える。加工野菜は価格が変動せず、不順な時ほど需要が伸びるためだ。
スーパーのカットフルーツ工場などその場でエコフィード化を図る事業者も増えた。それらの指導や、彼らが手掛けたエコフィードを買い取って流通させるのも高橋さんの仕事だ。時代を映す一例がクラフトビールのビール粕。大手メーカーのビール粕は以前からエコフィードの原料だったが、最近はマイクロブリュワリーに指導に行く機会が多くなった。
届いてくる廃棄食品の脂肪過多、塩分過多、カロリー過多も気になるところだ。
「よく添加物が槍玉にあがりますが、添加物は安全性が科学的に証明されたものしか使用が許されない。対して、塩分過多や脂肪過多が健康の阻害要因であることは周知の事実です。添加物を云々する前にこちらをなんとかしたほうがいい(笑)」
そして何より疑問に思うのは、厳しすぎる消費者と忖度し過ぎるメーカーの姿勢。
目の前の廃棄食品を見るにつけ、「なぜ、これが?」という品も少なくない。
「カップ麺のカップ内の麺の形状が悪いと廃棄になるんですよ」
味にも見た目にも欠損がないのに、万が一のクレームを回避して廃棄の道を選ぶ。そんな光景を日々目の当たりにしながら、高橋さんは思う、食品になった後のロス削減も大事だけれど、食品になる前のロスにも気付いてほしい、と。