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RECIPE

【食のプロの台所】季節の移ろいを感じる居場所

「antiques BAGATTO」塩見奈々江

2025.09.11

text by Noriko Horikoshi / photographs by Tsunenori Yamashita

連載:食のプロの台所

台所は暮らしの中心を占める大切な場所。使い手の数だけ、台所のありようがあり、その人の知恵と工夫が詰まっています。築150年の古民家を少しずつ改修して完成したのは、古きイタリアの農家を思わせる空間。塩見奈々江さんのご自宅を訪ねました。


塩見奈々江
「antiques BAGATTO」オーナー。ヨーロッパ各地で買い付けたアンティークを販売。栃木・足利の古民家と東京の二拠点で活動している。BAGATTOの出店情報はInstagramにて。
@antiques_bagatto

(TOP写真)
火回りには栃木県の石材である大谷石、水回りにはナポリ産のタイル。家具は欧米のアンティーク、日本の古道具が混在。国も時代もテイストも違う素材が同居し、調和する。「日常使いの家具や器に心惹かれます」と塩見さん。

異なる国、時代、テイストを超えて

昔見た映画を思い出した。ベルガモの農村の日常を描いた『木靴の樹』。ステンレスの厨房機器がなければ、古きイタリアの農家にワープした錯覚に陥りそうだ。周囲は一面の水田風景。カエルの大合唱が鳴りわたる、栃木県は足利の里山にいるというのに。

2015年、アンティーク家具のリペアを手掛けるご主人と移り住み、築150年の古民家を2人でコツコツと改修してきた。台所は天井と床を抜き、玄関から一続きの土間つながりに。中央には、「たぶん、トスカーナの農家で使われていた」素朴な木のテーブル。朝、昼、晩の食事を作って、ごはんを食べて、仕事もして。ほとんどの時間をここで過ごす。

「料理の匂いがある場所が好きだし、落ち着きます。長く暮らしたイタリアの台所は、どこもこんなふう。体に馴染む感覚を、無意識のうちに求めるのかもしれません」

初めて経験する日本の田舎暮らしは、思ったよりも忙しい。庭の畑を耕し、ニワトリを育て、ハチミツを自家製すべく養蜂にも挑戦中。姿の見えない動物の気配にドキリとする日もあるものの、「ここでは季節の移り変わりが肌で感じられるから楽しい」と塩見さん。そう話しながら旬のヤングコーンの皮を剥く姿が、フェルメールの絵画を思わせる美しさ。やっぱり、ここは日本?と自問したくなってしまうのだ。

梁や壁に吊るされた鍋類の中には、1900年代の銅製アンティークパンも。
食器棚の水屋箪笥は、栃木市内に店舗をもつお気に入りの古道具屋「スケールスアパートメント」で購入。

(雑誌『料理通信』2018年8月号掲載)

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