荻野恭子さんの乳酸発酵漬けレシピ
“塩水漬け”の豚肉とカブのスープ
レスキューレシピ【豚肉編】
2022.08.25
photographs by Hide Urabe
連載:レスキューレシピ
日本の食品ロス量は年間570万トン*と言われています。生鮮食品においても、豊作で余ったり、規格外、傷、スレがあって売り物にならず、行き場のない食品が日々廃棄されているのです。生産者が丹精込めて作った食材を無駄にしないための活用レシピを教わります。今回のテーマは、豚肉の塩水漬け。乳酸発酵により豚肉をやわらかくして旨味を増し、保存期間も伸ばしてくれる、知っておきたいテクニックです。
*農林水産省「日本の食品ロスの状況(令和元年度)」
目次
教えてくれた人:料理研究家 荻野恭子さん
短期保存には、冷凍でなく、塩水漬けを。
「醤(ひしお)」の意味をご存じですか。古くは食材の塩漬け、派生して塩漬けで出てくる液体のことを指します。大豆など穀物で作るのは穀醤、野菜で作るのは草醤、肉は肉醤、魚は魚醤。塩水漬けの乳酸発酵って肉もできるんですか?なんて驚かれるけど、できますよ。日本は歴史的に肉食の時代が浅いから知らない方が多いだけ。その分、魚醤は有名ですね。
肉や魚は塩水漬けにすると、発酵に加えてタンパク質の分解が進み、野菜の乳酸発酵とはまた違う力強い味が格別。長期保存には食材に直接塗る塩漬けが向きますが、短期保存には断然塩水漬けです。食材にまんべんなく塩水が回るから失敗のリスクも低く、保水性もあって加熱しても硬くならない。塩分濃度も約3%と低くできる。
発酵した肉、魚はそのまま焼くだけでおいしいし、発酵した漬け汁はちょっと他では味わえないきれいな味のスープにもなります。まさに“一度で二度おいしい”。
私の塩水漬けはフランスのソミュール液がヒント。最初は砂糖やハーブも入れていたけれど、その後ロシアの発酵食や中国の醤(ジャン)、東南アジアの魚醤など世界の味作りを目で見て感じたのが「塩」の偉大な力! こんなグローバルで万能な調味料って他にない。今は塩水だけで十分だと思います。
肉だけでなく、魚や乾物でも、基本の作り方は同じ。水1カップに塩小さじ1の塩水に漬ける。夏場なら半日~1日程常温に置いた後、冷蔵庫で2~3日、冬場なら1日常温に、冷蔵で2日置きます。
結構、もわっと臭うでしょう! でも発酵ってこういうこと。肉、魚は1週間、乾物ならさらに2、3週間持ちます。今はなんでも冷凍しますが、いくつかはぜひ塩水に漬けて。小さくて手軽な発酵は、きっとハマりますよ。
「基本の塩水漬け」材料と作り方
[材料]
豚肉(塊)・・・300g
水・・・3カップ
塩・・・大さじ1
[作り方]
[1] ボウルに水と塩を入れる。
[2] スプーンで塩が溶け切るまでよくかき混ぜる。
[3] ビニール袋に豚肉を入れ、2を注ぐ。
[4] 適度に空気を入れて、ビニールの口を結ぶ。冬なら2日、夏なら半日~1日程常温に置いた後、冷蔵庫で2~3日置く。
冷蔵庫で3日後。肉、魚なら1週間、野菜や乾物なら約2週間冷蔵保存できる。
塩水漬け豚肉活用レシピ「豚とカブのスープ」材料と作り方
[材料](2人分)
発酵豚肉(一口大に切る)・・・250g
豚肉の発酵汁、水・・・各1.5カップ
カブ(縦に4つ切りにする)・・・1個
カブの葉(3㎝幅に切る)・・・1個分
ローリエ・・・1枚
黒コショウ・・・適量
[作り方]
[1] 鍋に発酵豚肉と豚肉の発酵汁、水、ローリエを入れて中火にかける。
[2] 煮立ったらアクを引き、蓋をして弱火で20分煮る。
[3] カブ、カブの葉を加えて、さらに10分煮る。器に盛り、黒コショウを挽く。
柔らかな旨味、程よいコクとキレ、まるで中国の清湯のようなクリアな味のスープは肉の発酵汁をもっとも堪能できる一品。
◎荻野恭子さんの著書
『「乳酸発酵漬け」の作りおき』(文化出版局)では、「素材+塩水+時間」でできる乳酸発酵漬けの作りおきレシピを多数紹介。最新刊『おうちでできる世界のおそうざい』 (河出書房新社)は、タイのヤムウンセン、トルコのケバブ、インドのビリヤニ、イスラエルのシャクシカ・・・世界のおそうざい92品のレシピ集。海外旅行がままならない今、日本でも手に入りやすい材料、作りやすいレシピで、料理をしながら旅する気分が味わえる1冊。
(雑誌『料理通信』2019年5月号掲載)
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