日本の小麦にこだわって麺を作り続ける 自家製粉の麺
[神奈川]未来に届けたい日本の食材 #30
2023.07.03
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
かつて神奈川県中井町は麦畑が広がる田園地帯で、川沿いには22軒の製粉所がありました。現在は「かねこ製麺」一軒となりましたが、トレーサビリティの可能な質のよい国産小麦にこだわり、今も製粉から麺や餃子の皮など加工までを手がけています。社長の金子貴司さんを訪ねます。
まず、製粉機で粉を挽くところから見ていただきましょう。こちらの小型機で毎日挽いています。小型機は丸ごと粉砕するのが特徴。超低速で無理な力が加わらないため、小麦そのものの旨味が逃げない。ここから、人気の全粒粉の餃子の皮をはじめ、滑らかさも風味も栄養も持ち合わせた麺製品が生まれています。
麺も皮も原料は小麦粉と塩と水。小麦粉と塩水を合わせて練り、伸ばしてから、麺は麺線機に、皮は型抜きをする。乾麺は完全自然乾燥です。製品によって加水は様々ですが、小麦は契約農家が作る「農林61号」を中心に使用。国産にこだわるのは、日本人にとってそれが一番自然な形だからです。地場の文化はうどんですから、農林61号のような中力粉が主になります。昔ながらの素朴な味わいと風味があってコクがある。コシがあるけどふわっとやさしい。飽きが来ない味です。
小麦は保存上、よく乾燥させることが大事で水分13%が目標。冷蔵してから常温に戻すと、足が早くなってしまうため、倉庫内では24時間換気扇を回して空気を対流させています。こうすることで虫も出ません。塩は、麺にはオーストラリアの塩田で作られる天塩を、餃子の皮には、高知の海洋深層水を濃縮した天海の塩を、水は丹沢の伏流水である中井町の水道水を電解濾過して使用しています。
そもそも全粒粉を手掛けるようになったのは3代目の父が体を壊したことから。それまでは、どうしたら白くキメ細やかな粉が挽けるかばかりに気を取られていましたが、体調不良の原因が精白したものばかりを食べている弊害でもあると知り、全粒粉開発に目覚めたわけです。ちょうど、『複合汚染』や『沈黙の春』などで、食物の安全性などが問われていた頃。入社したばかりの私は、全粒粉の良さを少しでも広めたくて、時代に合った食べやすい製品の開発にやっきになりました。餃子の皮もその一つです。
ところで、小麦は食糧管理法によって、これまで内麦が滞ることはありませんでした。ただ、同品種を同じ畑で長く作り続けていると病虫害に弱くなるため、現在、国の方針で品種を切り替え始めています。そのため、今後、農林61号がどうなるのか微妙なところ。いずれにせよ、日本の原材料を使った粉食を広く家庭に届けることが私の大きな使命。時代のニーズに合った製品を生み出し、日本の粉食文化を継承していきたい。そのために、今後は六次産業を若い力と一緒に推し進めていきたいと思っています。
◎神名(かむな)の郷(さと)かねこ製麺
神奈川県足柄上郡中井町田中994
☎0465-81-0425
https://www.kanekoseimen.co.jp/
(雑誌『料理通信』2017年7月号掲載)
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