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JOURNAL / 世界の食トレンド

チップの前払いに疑問続出。飲食店で急増するセルフオーダー&事前決済の課題

Australia [Sydney]

2023.08.17

チップの前払いに疑問続出。飲食店で急増する決済システムの課題

text & photographs by Akiko Ganivet

ここ数年、飲食店で急増しているのが、客が自身のスマートフォンでQRコードを読み取って注文し、飲食前に会計を済ませるセルフオーダー方式。日本でも見かける決済システムだが、シドニーで今、客が戸惑っているのが会計時に表示されるチップを促す案内。支払額の5%、10%の金額が表示され、「チップなし」も選択できるのだが、先払いなのにサービスの前にチップを強要されているようで複雑な心境になる。

パンデミック以前は、高級レストランを除いて、チップを正式に渡す習慣があまりなかったオーストラリア。カフェのレジ横でよく見かけるチップジャーは客次第で、おつりがあったら少額入れる人もいる。それは、最低賃金が時給約23.23豪州ドル(約2230円)と、アメリカのようにチップに頼らなくても飲食店で働けるシステムが成り立っているからだ。

だがロックダウン中、苦しんでいる飲食業界の人たちに感謝の気持ちを表そうと、テイクアウトやデリバリーの際にチップを追加する客が増えた。

そんな客の善意を見込んで、多くの店がQRコードの決済システムにチップのオプションを加えたのだが、2023年半ばの現在、物価高やインフレで財布の紐がどうにも緩まない客にチップを促すのはどうか――と、飲食店側からも新システムに対する疑問の声が出てきた。


(写真)チップ額が提示されたスマートフォンの決済画面。レディット(インターネット掲示板サイト)では、チップの先払いに憤る数百件のクレームコメントが交わされている。

(写真)チップ額が提示されたスマートフォンの決済画面。レディット(インターネット掲示板サイト)では、チップの先払いに憤る数百件のクレームコメントが交わされている。

客側も、注文は非接触だが、料理が出されるタイミングや質問に対する受け答えはサービスの一環なので、「チップの額は、食事の後に考慮したい」というのが大半の意見だ。

豪州ホスピタリティ団体の労働組合は「チップが習慣化すると最低賃金が低下する」恐れがあると強調。消費者団体「コンシューマー・チャンピオン」代表のアダム・グレザーさんは、「オーストラリアの飲食店がアメリカのモデルを目指すこと自体が根本的に問題」だと語る。サービスを受ける前にチップを払うなんでありえない、とチップの前払い制に苦言を呈している。

(写真トップ)QRコードによるセルフオーダーシステムは、カスタマーデータの蓄積や注文時の聞き間違えの防止など、店にとっての利点はチップ収入以外にもたくさんあるのだが、チップの先払いに躊躇する客は多い。



◎Hospitality Workers Union
豪州ホスピタリティ団体労働組合のサイト
https://unitedworkers.org.au/hospitality-workers-union/

*1豪州ドル=96円(2023年7月時点)

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