ホスピタリティ研修で難民の自立をサポート 支援団体が運営するウクライナ料理店
Australia [Sydney]
2023.12.14
text by Akiko Ganivet
(写真)トレーニングを積んだ難民たちが提供するウクライナ料理の数々。「チキン・キーウ」(写真手前、36豪州ドル)は、酸味のあるミントとディルのミニサラダを添えて。クリスピーオニオンとローストカリフラワー(26豪州ドル)や、焦がしキャベツとひまわりの種(32豪州ドル)など、ヴィーガンメニューも充実。
2023年10月、シドニー市内近くにオープンしたウクライナ料理店「キーウ・ソーシャル(Kyïv Social)」。2022年2月、ロシアのウクライナ侵攻以降、長引く戦争から逃れてきた難民を採用しホスピタリティ研修生としてサポートする、支援団体「プレート・イット・フォワード(PLATE IT FORWARD)」の5つ目のプロジェクトだ。同団体はスリランカやアフガニスタンの難民、または何らかの理由で社会の主流から取り残された人たちを採用し、3年間でその数は140人にのぼる。
「ウェルカム!」
プロフェッショナルなスマイルで迎えてくれるのはホストのイリナさん。ウクライナの西部で医者として活躍していた。「キーウ・ソーシャルを通して、シドニーの住民にウクライナのことをもっと知ってほしい。もっとオーストラリアのことも学びたい」と意気込む。
キーウ・ソーシャルで採用するのは、イリナさんのように母国で医療やITなどの専門職に就いていた人たちで、ヘッドシェフ以外はホスピタリティ未経験者。新しいことを学ぶ意欲とチームワーク精神があれば、誰でもトレーニングできるという。地元銀行のサポートも手厚く、研修期間中にオーストラリアで生きていく上で基本的な金融の知識も学べる。
メニューは家庭料理をベースに、スタッフ総出で考案した。定番の挽き肉とご飯のロールキャベツ「ホルプツィ」は、ひと口サイズにして洒落た一皿に変身。ヴィーガンのセットメニュー(75豪州ドル)で人気の「グリーン・ボルシチ」は、屋内で育てたソレル(オゼイユ)やディルで鮮やかな緑を演出。ジューシーな「おばあちゃんのダンプリング」は、マッシュルームとソレルがたっぷり詰まっている。オーストラリア原産でブッシュ・フードと言われるユーカリの木の一種、ストロベリーガムが香るローストアップルも絶品だ。
キーウ・ソーシャルの利益は、スタッフの研修とキャリアアップに使われる他、いまだ戦闘下にあるウクライナ、キーウの住民に還元される。セットメニュー(79豪州ドル)のオーダーで、シドニーの貧困者1人分、加えてキーウの住民1人分の食事相当が寄付される換算となる。昨今ネガティブなニュースが多い中、すさんだ心もじんわり温まるホスピタリティプロジェクトだ。
◎Kyïv Social
202 Broadway, Chippendale NSW 2008
☎61-422859320.
ランチ 土曜12:00~15:00、日曜12:00~17:00
ディナー 水曜・木曜17:30~22:00(金曜・土曜~23:00)
月曜、火曜休
https://www.kyivsocial.com.au/
*1豪州ドル=97.3円(2023年12月時点)
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