小澤亮さん (おざわ・りょう)
地域食材&活性化プロデューサー
2021.05.13
三人寄れば、文珠の知恵
元IT系企業でウェブマーケティングのコンサルタント出身の小澤亮さん、元ガストロノミーレストラン「ティルプス」のシェフで現在は独立して食事業を経営する田村浩二さん、そして明治大学大学院農学研究科出身で農業科学者の木村龍典さん。「ドットサイエンス」は、異なるバックグラウンドの3人で2017年にスタートした新しい会社だ。
ITと調理とエビデンス。3つの力を合わせて食領域の社会課題解決に取り組む同社は、地方の優良な生産者と協業して、現代の食生活に良質な食材や加工品をどうフィットさせるかを考え、商品開発から流通、販売促進を行う。その取りまとめ役を担うのが小澤亮さんだ。
二度アイデンティティが壊れた先に
大学時代、小澤さんは建築を学び、建築事務所の開業を夢見ていた。しかし、独立した建築家の多くが日の目をみない現実を大学在学中に痛感した。これを「アイデンティティが壊れた1回目の経験」と話す。そこから新たに人生で実現したいことを考え直した。「ネット社会では広報力がどんな仕事にも必要。でも、自分は自分のPRより他者のPRのプロになりたい」。そこからマーケティング、コピーライティング、心理学の本を日に5冊読む大学生活に。「自分が一番応援したい人達は誰か。クラフトマンといわれる人達の発信役を担いたいと徐々に思うようになりました」
ステップとして選んだのがヤフーという企業だ。「独立を前提にウェブマーケティングの手法を学びました。特に惹かれたのが食分野です。魅力的な商品はノーブランドでも売れている」。より地域の食にコミットするため、12年にヤフーを辞めてマーケティングコンサルタントになった。折しも東日本大震災の直後、生産者の力になりたいと勇んで被災地に向かう。しかし「そこで2度目の挫折です。地域のためと思って提案したことが受け入れられなかったばかりか、コンサルタントのような口先の人間は要らないと言われて」。純粋な人なのだろう。小澤さんは真摯に受け止めて悩み、会社を辞め、より多くの地域の声を聞いた。カメラ教室に通い、WEBサイト制作を学び、生産者の発信のために自分ができることを増やす努力もした。
それでも一人では補えないことが多い。16年の夏、環境省の「森里川海プロジェクト」のキックオフイベントに参加していた小澤さんは、同イベントを受託していた「一般社団法人 ジ・オーガニック」に関わっていた木村さん、その彼から声をかけられてこのプロジェクトに参画した田村さんと出会う。フランスから帰国してレストラン「ティルプス」の総料理長に就任したばかりの田村さんは、日本の食材をもっと知るため、小澤さんの企画する食の生産者巡りへ参加し始める。そこに、当時は植物工場のプラントメーカーの技術責任者をしながら、有機農業にも自分の知識を生かしたいと考えていた木村さんが加わる。3人は自然な流れで起業した。
ステップとして選んだのがヤフーという企業だ。「独立を前提にウェブマーケティングの手法を学びました。特に惹かれたのが食分野です。魅力的な商品はノーブランドでも売れている」。より地域の食にコミットするため、12年にヤフーを辞めてマーケティングコンサルタントになった。折しも東日本大震災の直後、生産者の力になりたいと勇んで被災地に向かう。しかし「そこで2度目の挫折です。地域のためと思って提案したことが受け入れられなかったばかりか、コンサルタントのような口先の人間は要らないと言われて」。純粋な人なのだろう。小澤さんは真摯に受け止めて悩み、会社を辞め、より多くの地域の声を聞いた。カメラ教室に通い、WEBサイト制作を学び、生産者の発信のために自分ができることを増やす努力もした。
それでも一人では補えないことが多い。16年の夏、環境省の「森里川海プロジェクト」のキックオフイベントに参加していた小澤さんは、同イベントを受託していた「一般社団法人 ジ・オーガニック」に関わっていた木村さん、その彼から声をかけられてこのプロジェクトに参画した田村さんと出会う。フランスから帰国してレストラン「ティルプス」の総料理長に就任したばかりの田村さんは、日本の食材をもっと知るため、小澤さんの企画する食の生産者巡りへ参加し始める。そこに、当時は植物工場のプラントメーカーの技術責任者をしながら、有機農業にも自分の知識を生かしたいと考えていた木村さんが加わる。3人は自然な流れで起業した。
いかにライフスタイルに寄せていくか
「ドットサイエンス」の初仕事は、小澤さんがブランディングを頼まれた食用バラ「YOKOTA ROSE」だった。田村さんの意見で、圧倒的な香り高さに優位性があるとの感触を得た。そして木村さんが香り成分や栄養価分析を島根大学と共同で行うことにした。調べてみると「YOKOTA ROSE」の香り成分は平均的食用バラの3840倍あることがわかった。「食のストーリーは情緒的なものだけでなくエビデンスで裏付けられることが大切」と小澤さんは言う。この結果を受けて、食用バラの機会の広げ方を考えた。「花弁だけでは間口が狭い。皆の好きなアイスクリームにするのがいい」。香りを得意とする田村さんがレシピを作った。
バラに続いて取り組んだのは海の資源だ。捨てられてしまう昆布の着床部を使った魚介のソーセージを考案した。魚食は課題満載の食分野だ。その後「アタラシイヒモノ」と名付けた干物にも取り組む。日本の伝統的な干物職人と田村さんのコラボレーションで、今の食卓に寄り添う干物のアップデートを目指した。ハーブとスパイスを使った味づくりや一工程でメインディッシュになる食べ方提案など、新しい視点が満載だ。
小澤さんが2度の挫折の後に辿り合った、専門の異なる食の同志は、心強い存在となりつつある。
「心理的安全性のあるよいチームです。つまり全員が気兼ねなく、安心して自分のタスクに邁進できる。僕らはそれぞれの仕事もあるし、仕事のスピード感の違いもある。チームになるには時間はかかったけれど、3人で手を携えるメリットは大きい」
やはり、三人寄れば文殊の知恵か。ドットサイエンスは、現代的な食領域の知恵となるべく成長中だ。
小澤さんが2度の挫折の後に辿り合った、専門の異なる食の同志は、心強い存在となりつつある。
「心理的安全性のあるよいチームです。つまり全員が気兼ねなく、安心して自分のタスクに邁進できる。僕らはそれぞれの仕事もあるし、仕事のスピード感の違いもある。チームになるには時間はかかったけれど、3人で手を携えるメリットは大きい」
やはり、三人寄れば文殊の知恵か。ドットサイエンスは、現代的な食領域の知恵となるべく成長中だ。