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JOURNAL / JAPAN

農業を変える。「微生物ネットワーク農法」の野菜

[神奈川]未来に届けたい日本の食材 #46

2024.11.15

text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

連載:未来に届けたい日本の食材

上にも横にも勢いよく、ぐんぐん伸びる野菜たち。肥料も農薬も使わず、土の中の微生物を活用し、野菜と微生物が共存共栄する「微生物ネットワーク農法」に取り組む「ぽんぽこファーム」の中村隆一さんを訪ねました。


「ぽんぽこファーム」中村隆一さん。

森や山は微生物ネットワークで成り立っている。これは森林学では研究され尽くしていること。これを農業に応用し、畑の中に森以上の微生物ネットワークを作れたら、野菜も森林と同様に自然に育つのではないか。これが私の考える微生物ネットワーク農法の原理です。農家は微生物の「お世話係」になればいいというわけです。

1998年に脱サラして就農。念願だった自然農法に取り組みましたが、どうもしっくり来ない。迷う中で微生物ネットワーク農法へのヒントになる炭素循環農法を知り、当初自分の考えにぴったりの理論だと思ったのです。しかし、その段階で日本では成功事例がなく、私も12、13年前まで失敗の連続でした。その後成功例を基にして発展させて、微生物ネットワーク農法を提唱することになりました。

畝の間に敷き詰めてあるチップ、これが微生物のエサになる。私は、植木屋さんが剪定した枝や葉のチップを使っていますが、もみガラや草など、その地域で不要になった窒素分の少ない有機物でいいのです。微生物は、有機物に含まれる炭素をエネルギーとして増殖します。地面を掘ると、チップから白い糸みたいなのが出てるでしょ。これが第一分解者の糸状菌です。この糸状菌が分解したものを、別の働きを持つ微生物に渡し、さらにその次と、微生物同士がつながっていく。

最終的に、野菜の根から中へ菌糸を送りこむ役割の微生物がいて、野菜と微生物のネットワークがつながり、環が完成します。この環を通じて、野菜は必要な養分を微生物と直接やりとりすることができるようになり、微生物も植物が光合成で作った糖分をエネルギーとして使うことができる。互いが必要な時に必要なものを交換し、循環しながら活かしあう。だから畑には常に野菜が植わっているほうがいいんです。

森林は土の中の微生物のネットワークで豊かな緑を維持している。これと同じ仕組みで野菜ができるのではないか、と農法を模索してきた中村さんが17年前に出会ったのが炭素循環農法。その後8年前より微生物ネットワークの理論を発展させて、微生物ネットワーク農法を提唱している。年間を通して、80品目ほどの野菜を栽培している。

森林の環境は常に「微生物+植物」がセットになるため、収穫が終わるとすぐに次の野菜を植える。

微生物ネットワーク農法は、畝と畝の間に剪定チップを敷き、第一分解者の微生物である「糸状菌」が出るのを待つ。1年目は剪定チップが少なく、野菜の育ちが悪かったので、翌年量を増やしたところ、生育状況が良くなった。

トマト、いい味でしょ。今年は1段目から、酸味、甘味、旨味のバランスがいいんです。去年は、12月半ばまで、20段ぐらいとって打ち止めにしました。

野菜につく虫は、野菜が吸い上げた肥料分がエサになる。うちの野菜は肥料を与えないから、虫があまりつかない。また、肥料栽培だと、下の葉から黄色くなるのですが、ナスもトマトもいつまでも下の葉っぱまで元気です。

畑に微生物のネットワークを作れば、農薬で虫も殺さない、除草剤で草も枯らさない、人にも安心。世界平和のような農法が実現できる。時代が求めている農法だと思います。

ハウスにはナスやプチトマト、ズッキーニ、カボチャが混植されている。むせかえるような蒸し暑さはなく、猫がわざわざ昼寝をしに来るほど快適。

微生物ネットワーク農法を実践している中村さんにとって農業は「微生物のお世話係」で「野菜は作るものではなく、できてしまうもの」というのが実感だ。


◎ぽんぽこファーム
神奈川県中郡二宮町
mail:info@ponpokofarm.com
https://ponpokofarm.com/

(雑誌『料理通信』2015年9月号掲載)

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