インドの多様な母の味をデリバリーで。家庭料理をオーダーできるスマホアプリ
India [Chennai/Bengaluru]
2025.03.27

text by Akemi Yoshii
南インドで北インドの料理を、しかも伝統的な家庭バージョンを味わえるのも「ブークル」の魅力。ホームシェフの1人、ジャガディーシュワリさんの「ダールマッカニー」。
店舗を持たないホームシェフやクラウドキッチンがコロナ禍中に急増したインドでは、その後も様々なフードデリバリーサービスが誕生している。そのなかで、一風変わったサービスが、人々の胃袋だけでなく心も掴んでいる。モバイルアプリの「ブークル(Bhookle)」だ。
「弁当箱に入ったお母さん (Amma in a Dabba)」がキャッチコピーのブークルは、レストランでは味わえない本格的な家庭料理を届ける。2023年6月に南インドのタミル・ナードゥ州チェンナイ市で創業し、 2025年1月にはお隣カルナータカ州ベンガルール市でもサービスを始めた。扱っているのはランチとディナーで、基本的に前日の夜までに予約し、翌日配達するしくみだ。

創業者のアルヴィンド・ラヴィチャンドランさんが、ブークルをはじめたきっかけは、亡くなったお母さんがよく作っていた料理を食べたいと思って店を探してみるも、見つけることができなかった経験にある。
「私たちは料理でなく、“母の味の思い出”を届けているのです。インドにはたくさんのサブコミュニティ(宗教や言語や階層による社会集団)があり、同じ料理でも40kmごとに味わいも変わっていきます。さらには無数のマイクロキュイジーヌ(ごく限られた地域やコミュニティだけで食べる料理)もあり、それらは通常家庭でしか食べることができません」

ブークルのホームページで目を引いたのは、外食産業が食の選択肢を狭めているという言葉だ。「どの店にも同じような15品がメニューに並んでいます。一方、ブークルのホームシェフは何千もの料理を作り、その多くの料理名はおそらく聞いたことすらないはずです」
その言葉どおり、現在、ブークルでは6000種類の料理を扱っている。料理の種類だけでなくバリエーションも豊富で、南インドでは滅多に食べる機会のない、シンド料理(パキスタンのシンド州の料理)を作るシェフもいる。また、ピッツァやパスタ、メキシコ料理やタイ料理を作るシェフもいる。
ブークルの料理は量もたっぷりめなのが好評だが、その理由について、「お母さんならば、たくさん作って家族にお腹いっぱい食べさせるはずだから」とアルヴィンドさんは説明する。過剰なスパイス、保存料やうまみ調味料、作り置きも、もちろんなしだ。また、ホームシェフは全員FSSAI(インド食品安全基準庁)の認定証も取得している。

米国で学び、アマゾンやマイクロソフトのエンジニアとして働いてきたアルヴィンドさんは、アプリを4カ月ほどで完成させたが、市場の開拓には時間がかかった。また、シェフとは信頼関係を築くところから始めるので、当初はシェフ1人の登録に1カ月程度かかっていたという(現在は10日程度にスピードアップ)。
デリバリーについては、各地域の運送会社とタイアップし、地域経済をサポートしている。新しくサービスを始めたベンガルールは、チェンナイに比べて道路が混雑しているので、各地域のシェフの数を増やすことでデリバリー時間の短縮化を図る工夫をしているという。
さらに、サブスクの導入や、ハイデラバード、ムンバイ、デリーなど国内各地でのサービス開始なども予定している。人々の心とお腹を温かく満たしながら、今後も「お母さんの味」はインド各地で広がっていくことだろう。


◎Bhookle
https://bhookle.com/
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