豊かな丘陵と山岳民族が育む、唯一無二の味わいの唐辛子調味料
India [Ukhrul]
2025.05.22

text by Akemi Yoshi
唐辛子を使った調味料「ヒルワイルド・ナガ・チリクリスプ」。使われているのは、ナガ丘陵産の花椒(ミチンガ)、この地域特有の赤唐辛子、ニンニク、黒ゴマ、発酵大豆、野生のシイタケ、ピーナッツ、そしてタンクル湧水塩。
インド北東部は、ミャンマー、中国などの国境に近く、人々の顔立ちも日本人に近いモンゴロイド系が多く、食文化も「いわゆるインド料理」とは一線を画す。そのエキゾチックな味覚は、近年国内で人気が高まっている。
2025年1月、Amazon Indiaにインド北東部マニプール州ウクルル地区で作られる「ヒルワイルド・ナガ・チリクリスプ(Hill Wild Naga Chilli Crisp)」が登場した。ナガ・チリクリスプは中国の辛味調味料「香辣脆(シャンラーツィ)」に似たもので、“食べるラー油”を思い浮かべるといいかもしれない。
ウクルル地区は、ナガ丘陵の先住民族タングクル・ナガ族の拠点として知られ、同地区の食品ブランド「ヒルワイルド」を2017年に立ち上げたゼイノリン・アンカンさんもその1人だ。食材の一つひとつが、どこにもない自慢の味わいだと語る。

彼女がビジネスを始めたきっかけは故郷の味だった。マニプールを離れてデリーに住んでいたゼイノリンさんは、お母さんの得意料理であるチキンスープを作ろうと市場で食材を買って調理したところ、あまりに味気ないことに驚く。
「故郷で食べていた時のような味の深みと豊かさが全く感じられなかったのです。食材の味と質に影響を与える独自の環境要因、テロワールとマイクロクライメイト(地形や地理的条件によって狭い地域間に生まれる特有の環境)の重要性を理解しました」

ゼイノリンさんは、「地域独自の味を大切に活かすこと、それらの食材を育み提供してくれる農家に正当な報酬を保証すること」を使命に掲げ、豊かな生物多様性と伝統農業の知識を活かすビジネスを立ち上げる。まず地元の食材を使用したクラフトチョコレートからスタートした。
2023年に起こったマニプール紛争で活動継続が困難な時期もあったが彼女は諦めなかった。ローマに本部を置く国際連合食糧農業機関(FAO)の先住民ユニットで活動する機会を得て、世界各地の先住民コミュニティが同様の問題に直面していることを知り、ヒルワイルドの方向性が正しいことを再確認する。
ナガ・チリクリスプは、普段の食事に添えるチャツネにヒントを得たものだ。ナガ族の食文化は、発酵技術や調理方法など、中国料理によく似た部分があるという。4カ月の開発期間に、12回のバージョンアップを重ね、ようやく納得できるバランスを実現した。ご飯にはもちろん、ポテトチップスやトーストとの相性も良い。様々な料理のアクセントにも重宝し、毎週のようにリピートを重ねるファンも少なくないという。
ヒルワイルドのラインナップは続々と増えており、加工品だけでなく、単品スパイスも揃っている。「マニプールが最高品質の食品生産地として知られることを目標に」頑張るゼイノリンさんの挑戦は続く。



◎Hill Wild
https://hillwild.com/
*1ルピー=1.71(2025年5月時点)
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