台所から美意識が生れる食の都“ラクナウ”が、ユネスコ食文化創造都市に認定
India [Lucknow]
2026.01.19
text by Akemi Yoshii
文化施設ラクナウ・バイオスコープの展示「Lucknowi Bawarchi Khane(ラクナウの台所)」より。自慢の料理を手にするラクナウのホームシェフたち。クリエイティブ・ディレクターのタスヴィールさんは、「宮廷料理人から家庭の料理人まで、この街のあらゆる台所は、丁寧に記録されるべき技法と優しさの系譜を受け継いでいる」と語る。 photograph by Stuti Mishra for Lucknow Bioscope
2025年10月31日、インド北部ウッタル・プラデーシュ州の州都ラクナウの、ユネスコ創造都市ネットワーク「食文化」部門 *への加盟承認が発表された。インドでは、2019年に加盟したハイダラーバード市に続いて2番目だ。
ラクナウはかつて、州の中央部にあったアワド藩王国の政治・文化の中心地として栄えた。ムガル文化の影響を受けたイスラム教徒の藩王(ナワーブ)たちの宮廷で育まれた、アワディ料理で知られる。小麦粉の生地で蓋をして鍋を密封し、弱火でゆっくり調理する「ダム・プクト」など、洗練された調理法と繊細な香辛料使いが特徴だ。
ラクナウがユネスコに認められたのは、歴史が育んだ郷土料理の豊かさだけではない。この土地には、「テヘズィーブ」と呼ばれる、食を核とした生活文化――言葉遣い、振る舞い、おもてなしの精神、料理が、一つの美学で貫かれた伝統が息づいているからだ。
たとえば、ラクナウ出身のインテリアデザイナー、アーディル・I・アフマドさんが著した『テヘズィーブ〜アワドの食の伝統〜(Tehzeeb: Culinary Traditions of Awadh)』は、この街の美意識を体現した料理本だ。アーディルさんは今回の認定についてこう語る。
「ラクナウがユネスコの食文化創造都市として、ようやくその正当な評価を得たことを心から喜んでいます。かつてのアワド藩王国が育んできた文化の精髄、そして高度に発展した融合文化を認識し、保存していくことは不可欠なのですから」
また長年、街と家庭に受け継がれる料理の記録と発信を続けているラクナウの文化施設「ラクナウ・バイオスコープ(Lucknow Bioscope)」は、ユネスコ認定の土壌を作ってきたとも言える市民団体のひとつだ。
クリエイティブ・ディレクターのタスヴィール・ハサンさんは、「この街にとって食が、いかに記憶、技術、そしてコミュニテイを包含する広大なアーカイブであり続けてきたかを改めて考えています。ユネスコの認定は単なる栄誉ではありません。ラクナウの台所に耳を傾け続けようという招待なのです」と、喜びを言葉にする。
ユネスコ創造都市ネットワーク事務局によれば、ラクナウは、深く根付いた食文化遺産と、食文化を持続可能な都市開発に統合する取り組みが際立っていたという。
今後は、ラクナウの食文化を全国に発信する「アワド・オン・ザ・ゴー (Awadh on the Go)」プロジェクトや、伝統的なレシピを記録・保存する「フードアーカイブ」の創設、歴史的フードストリートやナイトバザールを通じた食の観光促進のインフラ整備や、地元シェフの育成、持続可能な食材調達の促進などが行われる予定だ。
今回の認定を誰よりも喜び、食と街を愛する市民たちの手で、美食の都ラクナウの未来は、より一層豊かに広がっていくことだろう。機会があれば、ぜひ足を伸ばしてその魅力を体感してほしい。
*ユネスコ創造都市ネットワーク(UCCN:the UNESCO Creative Cities Network)は、創造性を持続可能な開発の鍵とする都市の国際協力を促進するため2004年に設立。クラフト&フォークアート、デザイン、映画、食文化、文学、メディアアート、音楽、建築の8つの創造分野で都市を認定しており、日本では山形県鶴岡市と大分県臼杵市が食文化分野で加盟している。
◎Lucknow Bioscope Thematic Gallery: Lucknowi Bawarchi Khane
https://lucknowbioscope.in/thematic-gallery/lucknowi-bawarchi-khane/
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