日本 [新潟]
食の文化遺産巡り~食の新潟・秋編~
2019.11.06
「食の新潟」を体感する旅に向かったのは「D&DEPARTMENT」の相馬夕輝さん。全国各地のロングライフデザインを食の分野から発信する「dたべる研究所」(東京・奥沢)や「d47食堂」(渋谷)などのディレクターを務める。
日本各地に息づく食の文化遺産を巡る旅。前回に引き続き、日常の贅沢に溢れる新潟の食を「D&DEPARTMENT」ディレクターの相馬夕輝(あいまゆうき)さんと旅します。
米が育む日常の贅沢
10月の新潟は、いよいよ新米の季節。D&DEPARTMENTディレクターの相馬夕輝さんと、米の名産地・魚沼を含む中越を訪れると、稲刈りは終盤を迎え、ススキが風に揺れていた。
「この辺りは豪雪で、清らかで豊富な雪解け水が質の高い米を育てるのです」と語るのは、魚沼市の若手米農家・関信吾さん。山間地で昼夜の気温差が大きいことも、米には好条件だ。主軸は、粘りと旨味が強い伝統のコシヒカリ。米農家の数は減りつつあるが、関さんのような若い力がその後の田んぼを引き受け、魚沼自慢の米を守り継いでいる。
杉の木桶を使い、今もすべての味噌を仕込む
こうした新潟の上質な米と大豆を合わせて昔から造られてきたのが、越後味噌と呼ばれる赤味噌だ。天保2(1831)年創業の「越後みそ西」では、歴史ある杉大木桶で、今もすべての味噌を仕込む。この蔵ならではの味わいを生み出すのは、樽や建物に自然に息づく酵母菌の力。木桶に含まれる水分が、外気の熱を抑えて保温効果をもたらし、よりよい発酵に繋がるという。
米、大豆、麦、3種の麹を一緒に醸した味噌も
「えちごいち味噌」が志すのは、極力機械に頼らず、面倒を惜しまない味噌造り。
「いいところを伸ばしてやるのは、子育てと同じ」と、社長の川上綾子さん。味の奥行きがありながら、すっきりした後味にするため、大豆を脱皮したり、米だけでなく大豆や麦も麹にして3種の麹を一緒に醸した味噌もあるなど、「麹命」の味噌造りが行われている。
元気すぎて移動に不向きな「生」のどぶろく
米といえば、かつて農家で酵母や米麹を混ぜ、自家醸造されていたのがどぶろくだ。酒税法による禁止を経て、小千谷市は2005年に「どぶろく特区」の認定を受け、自家栽培の米を使い、自身の飲食店で提供するなどの条件のもと、醸造を推奨。「地元の人が喜んで飲んでくれるので、もう10年造り続けています」と話すのはへぎそばの店「まるいち」の羽鳥清さん。「火入れしないどぶろくは酵母が元気すぎて移動には不向き。ここで飲んだほうが安心ですよ」と聞き、相馬さんは慎重に栓をゆるめた。
昔ながらの知恵を、日常の豊かさに“おいしく”つなげる
今回訪れた中越は、大部分が豪雪地帯にあたる。この地域では昔から、各家庭で越冬用にかまくらのような藁つぐらを庭に置いて、うず高く雪を積もらせ、野菜の保存に利用するという、雪国ならではの生活の知恵があった。
それを現代に活用しているのが、「雪室熟成」だ。「雪室のメリットは、低温・高湿度が安定した状態で保たれ、食品に与える負荷が小さいこと。冷蔵庫のように風や振動の影響もありません。そこで熟成させると肉は、ドリップが少なくてしっとり。酵素の働きで肉質が柔らかくなり、旨味や甘味が強くなります」と、「ウオショク」の宇尾野伸さん。
津南町の「大地」では、雪室で野菜を熟成。こちらは、建物の半分が雪庫、もう半分が貯蔵庫という構造で、1年中室温は1~5℃、湿度は90~95%に保たれている。「今のところメインは、ミニ大根やニンジン、ジャガイモです。旨味や甘味が増すだけでなく、長期保存できるのも良いところ。雪入れは年に一度で、追加は不要です」と話す宮沢清さんは「生まれ育った津南町で雪に関わる仕事がしたい」と、2007年から雪室熟成に取り組み、故郷の伝統を新しい形で次代へ繋いでいる。
自然が作った最高のごちそうを味わいに
カキノモト(食用菊)やイトウリを使った料理や芋煮、塩鮭など、郷土の味をたくさんそろえて待っていてくれたのは、十日町市の樋口道子さんだ。どれもやさしい味わいで、箸が止まらなくなる。「冬は雪が深くて外に出られないから、食材を保存しながら無駄なく使う。みんなおばあちゃんが教えてくれたの。生きていくための知恵が詰まってる」。料理の傍には、土鍋で炊いた魚沼産コシヒカリの新米も。しかも、生産者違いで3種! 相馬さんは「それぞれに味が違って、お米だけでおいしい!」と新潟ならではの贅沢に舌鼓を打った。
日常の食卓に欠かせないものが、素晴らしくおいしい
南魚沼市の「欅苑」で味わったのは、地元で採れた旬の食材をふんだんに使った料理の数々だ。女将の南雲直子さん自ら腕をふるい、野菜を中心に囲炉裏で焼いた岩魚や鮎を加え、本膳料理の形式で供される。「田舎料理」とのことだが、その味わいは極めて上品。「郷土料理もありますけれど、旬の食材を使ってあまり奇をてらわず、私たちがいつも食べている素朴な料理をベースにお出ししています。そうした季節の恵みこそが、自然が作った最高のごちそうなのかな、と思って」と南雲さん。
旅を振り返り、「料理もご飯も、日常の食卓に欠かせないものが素晴らしくおいしかったですね。昔ながらの知恵を科学的に紐解いて、食材の熟成に活用している雪室も新しい発見でした」と語る相馬さん。高級な食材や特別感を求めるのではなく、日常の食を豊かに楽しむもうとする人々の姿に、新潟の食文化の奥深さを見た気がした。
SHOP DATA
◎ 越後 みそ西
新潟県柏崎市新道882
☎ 0257-23-1893
8:00~17:00 土曜、日曜、祝日休
http://misonishi.jp
◎ えちごいち味噌
新潟県長岡市滝谷町1340
☎ 0258-22-2201
8:30~17:00 土曜、日曜、祝日休
http://e-omiso.co.jp
◎ 真人そば まるいち
新潟県小千谷市真人町乙794-1
☎ 0258-86-3037
11:00~14:00 17:00~20:00 水曜休
http://maruiti.jp
◎ ウオショク
新潟県新潟市中央区鳥屋野450-1
☎ 025-284-7500
http://uoshoku.co.jp
◎ 大地
新潟県中魚沼郡津南町大字下船渡乙1401
☎ 025-761-4070
http://kuranokura.com
◎ うぶすなの家(「大地の芸術祭の里」総合案内所)
新潟県十日町市東下組3110
☎ 025-761-7767
◎ 欅苑
新潟県南魚沼市長森24
☎ 025-775-2419
11:30~13:00(LI)、17:00~19:30(LI)
不定休 要予約
http://keyakien.com
コース5000円、7000円
宿泊(1泊2食)12000円、14000円