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JOURNAL / 世界の食トレンド

COVID-19対策―― 世界の飲食店はどう動いたか? スペイン編

2020.06.05


COVID-19対策――

世界の飲食店はどう動いたか? スペイン編

Jun. 5, 2020

text by Yuki Kobayashi / photograph by Oscar Oliva,Fernando Perez

世界の飲食店や飲食業に携わる人々はこの危機にどう対応し、何を学び、何を模索しているのか?コロナの渦中にいる、各国のジャーナリストがリポートします。

(5月15日時点の各国の状況に基づく。)





料理人、生産者、小売業が結束して立ち向かう

中国でのコロナ発生のニュースを対岸の火事のように眺めていたスペインで、感染が深刻化したのは急激だった。3月14日の緊急事態宣言は、多くの人々を驚かせ、また事態の重要さをショック療法で知らしめた感がある。料理学会やイベントで平時から結束の強いスペインの飲食業界では、営業禁止になった途端にSNSなどで業界救済のための意見が盛んに交わされた。宣言から2週間後には、慈善団体「World Central Kitchen(以下WCK。スペイン人シェフ、ホセ・アンドレス主宰)」がスペインでの炊き出しを始め、その迅速さですばらしい成果を収めている。

2010年に設立されたWCKは、これまでにも世界の災害地での炊き出しを行なった経験を持つが、今回のコロナ禍では、最も打撃を受けているマドリード州を中心に食事提供が行われ、4月25日現在、国内10都市で2万食を提供している。卸専門店の大手Macro社、マドリードのレストランチェーンArzabal、食関連のイベントやマーケティングを行うMateo&Co社、行政からはフードバンク、各地方の大小飲食店が協力し、適材適所で社会的弱者や医療関係者のための食事を短期間にオーガナイズするその手腕は特筆に値する。スペインの飲食業界、ひいては食品関連業界の連帯と社会貢献意識の高さを改めて明確にした。

WCKはダイヤモンドプリンセス号の横浜停泊中にも船内乗客への食事を提供した経験を持つ。常日頃から様々な客のニーズや異なった場所でのイベントなどを経験している飲食業者は、こうした危機に「最も有能な兵士になれる」とホセ・アンドレスはいう。

スペインには全国で約28万軒のレストランがあり、GDPの5・3%を占める重要な産業だ。現在、政府が提示した通常営業までの行程は州ごとに異なり、感染者数や周囲の状況を分析しながら、初めはテラス席のみ、次に収容人数30%、50%と段階的に営業を拡大していく想定だ。サン・セバスティアンのような美食の街ではどんな変化が起こるのだろうか?

バスク州では、オンダリビア(基礎自治体名、以下同)が閉店を余儀なくされた飲食店や小売店に1000ユーロを給付した例もあれば、サン・セバスティアンやビルバオでは、ボノ(買い物券)に30%のプレミアムを付け発行、地元商店や飲食店のみで使用可能として消費を促す政策を発表している例もある。だが、飲食業界の不満や不安はまだ根強い。レンテリアのレストラン「ムガリッツ」のアンドーニ・ルイス氏は慎重に言葉を選ぶ。



アンドーニ氏。顧客の多くが外国人だった高級料理店への打撃や、飲食関連を目指す若者たちの将来を心配している。

「現在、私たちのビジネスがどうなるかを慎重に評価しているところです。まだまだ不確定要素が多すぎて結論には至りません。状況を研究して、どれが最適の方法なのかを検討中です。難しい状況下こそ、我々に大きな学びをもたらします。私が会長を務める料理人の共同体EUROTOQUEでは、どういった形と順序で再開していくかを検討しています。この団体は、食の様々な事業に関わり、コンサルタント的な役割も果たしているし、企業にも個人にも感情的な拠り所にもなっている。国内800人の料理人の代表として、行政に対して声を上げていくつもりです」。

EUROTOQUEでは飲食関係者に店内衛生のガイドラインを示す他、周囲の生産者も救うべく“#ComeTemporadaEnCasa(旬を家で食べよう)”キャンペーンも展開している。

コロナ禍後の世界が変わろうとも、バルやレストランがこの国の社交場であることは変わらない。過去の強烈な経済危機も乗り越えてきたスペインの飲食業。その時よりも、さらに業界の連帯感は強い。忍耐強く前に進むしかない。


<世界のコロナ対策:スペインの場合>


▼行動制限要請、地域・全国封鎖の時期
3/11~ 全国休校、在宅勤務要請(実施は州により異なる)
3/14~ 全国封鎖 (以下、解除の流れ)
4/13~ 建築業、製造業などが操業再開
4/21~ 大人同伴で子供の外出を1時間許可
5/4~ 個人での散歩や運動を1時間許可

▼飲食業への要請や命令内容
3/14~ ロックダウンに伴い、全国の飲食店・ホテルは休業(一部ホテルは患者や医療従事者のために営業可)

飲食店の緊急事態解除は4段階で施行
(4/29発表。日付は参考、州により異なる)
段階0: 5/4~ 準備期間。テイクアウトのみ営業許可
段階1: 5/11~ テラス席営業許可(収容人数の30%まで)。店内飲食は不可
段階2: 5/22~ 着席のみ、収容人数の3分の1までの条件で営業許可
段階3: 6/8~ 着席、バル部分の立ち客込み、収容人数50%までの条件で営業許可

*段階の進行は州ごとの感染者数、病院の収容可能数、救急病床の確保数、公共交通機関、オフィスなどでの衛生管理の行き届き方、動線分析、社会経済分析により判断される。 各段階への移行には2週間を想定。データにより段階の後退も有りうる。

▼飲食業(企業全般)への主な救済策
◎ 失業手当
一時解雇された被雇用者に政府が失業保険を支給、社会保険料は雇用主負担。一部雇用者も失業保険の対象に

◎ 賃金補償
被雇用者の労災時(コロナ感染)、給料の75%を補償

◎ 家賃支払い猶予
物件所有者が公的機関の場合は義務付け、民間の場合は契約時の条件に沿って交渉可

◎ 融資
自営業者のための特別借入金制度(希望額の80%までを政府が保証)






◎ World Central Kitchen
www.wck.org

◎ Mugaritz
www.mugaritz.com

(『料理通信』2020年7月号/「ワールドトピックス」より)



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