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FEATURE / MOVEMENT

DEAN & DELUCA×鹿児島・阿久根

自治体と地元信金、生産者が一致団結!お宝食材を地元にアピールする新プロジェクト

2017.03.06

text by Kei Sasaki / photographs by Bungo Kimura

地元にこそ知らせたい阿久根の宝




1月某日、「ディーン&デルーカ」のシェフたちが鹿児島県阿久根市を訪れた。2月18日、19日に「にぎわい交流館阿久根駅」で開催された「阿久根のお宝食材フェア〜ディーン&デルーカ inあくね」に向けての食材視察だ。この催しは阿久根市と地元金融機関の鹿児島相互信用金庫が手を組み、阿久根の素晴らしい農産物を県外だけではなく、地元の人々にも知ってもらおうと企画したこれまでにない取り組み。生産者によるマーケットや「ディーン&デルーカ」のデリコーナーが出店したほか、阿久根の食材を使った料理コンテストも開催された。視察の旅には、コンテスト一次審査通過者も数名同行した。

コンテストの予選通過者はもちろん料理好き揃い(写真右)。シェフにレシピ作りのコツを教わる場面も。



阿久根には受け継がれた技や伝統に敬意を払いながら、新しい仕事を模索する生産者がたくさんいる。シェフたちは、大葉やエノキ茸で日本一を目指す生産者に会い、その固定概念を覆す方法論に圧倒され、漁港では気概溢れる加工業者の話を食い入るように聞き入った。全員で試食の感想を語り合う場面も。「この香りならば」と、すぐに料理を思いつくプロの発想に、参加者も刺激を受けた様子だ。自治体と地元企業、食のプロと地元の食べ手で盛り上げる食の一大イベントには、短時間ながら濃厚だった旅で得たものが、色濃く反映された。

阿久根市でのイベント実施にあたり、現地を訪れたディーン&デルーカの皆さん。右から、六本木店副店長 山口豪士さん、品川店料理長 作田大介さん、エグゼクティブシェフ 境哲也さん、恵比寿店料理長 村瀬洋平さん



つまではなく“食べる大葉”を目指す  ~「京田園」の大葉~




必要最小限の有機肥料で力強く育つ大葉。



大葉といえば、刺身のつまや薬味など“料理の引き立て役”のイメージだが「うちの大葉は、食べておいしい大葉です」と、「農事組合法人 京田園(きょうだえん)」の代表・京田提樹さんは胸を張る。水耕栽培が主流の中、「野菜は土づくりから」と、化学肥料不使用、有機肥料のみを用いた土耕栽培で、安全で味のいい大葉づくりに力を注ぐ。温室ハウス内は独特の清涼感のある香りでいっぱい。

京田園 京田提樹さん。大葉のほかにハーブ類も栽培する。



今が収穫期という大葉の色が心なしか薄いのは、追肥をせずに栽培しているから。「追肥すれば収量は上がるが、味にえぐみが出る。最小限の肥料で育てれば、大葉の生命力が強くなり、味は濃くなるんです」と、亰田さん。試食をした境シェフは「香りの鮮烈さが違う」と頷いた。

真剣な表情で試食をする境シェフ。




◎ 農事組合法人 京田園
鹿児島県阿久根市脇本13039
☎ 0996-75-2960



自然と共生する、サステイナブルな農業 ~「三笠えのき茸生産組合」のキノコ栽培~




ブラウンエノキ「味茸」。ぬめりが強く香り、旨味も濃い。



年間の生産量は約100 万本と、エノキ農家としては小規模ながら、二代目・松崎勝利さんがつくる高品質かつユニークな商品でその名をとどろかせる「三笠えのき茸生産組合」。鹿児島県産杉の間伐材と阿久根の米ぬかで作る培地で育てるエノキ茸は、風味濃厚、しなやかな食感で、生でもおいしいほど。乾燥させた「濃いえのき」シリーズは、エノキの香りや旨味が凝縮。保存性も高まる上、スープやサラダにそのまま使える手軽さで、今や三笠ブランドの看板商品になった。

三笠えのき茸生産組合  松崎勝利さん。昨年から原木キクラゲの栽培にも挑戦。



9 年前からは原木シイタケ栽培にも取り組む。エノキ茸の培地づくりも然りだが、大切にしているのは自然のサイクルの中での農業。ゆえに三笠のキノコには、阿久根の風土が香るのだ。

原木シイタケ。




◎ 農事組合法人 三笠えのき茸生産組合
鹿児島県阿久根市脇本7989
えのき茸生産加工販売
☎ 0996-75-1008

原木椎茸生産加工販売
☎ 0996-75-2928



鮮魚の付加価値を高める加工術 ~「中野水産」の魚介~




水産加工品といって思い浮かぶのは缶詰や練り物の類だが「中野水産」が手掛けるのはそれ以外のおよそすべて。刺身向け、寿司だね向けなど生食用から、揚げ物や焼き物用、珍味まで数は400 種に及ぶ。代表の中野浩治さんの「水揚げされた魚を余すところなく」という考えからだ。「知名度の低さや歩留まりの悪さなどから市場で値が付かない魚に付加価値を与えるのが加工の仕事」と話す。

中野水産 中野浩治さん。



仲卸業として創業した先代の下で魚の扱いを学んだ海の男の言葉には、阿久根の海と、漁師を守りたいという想いがにじむ。つくって売るのではなく「欲しいものをつくる」がモットーゆえ、取引先も押し寿司の老舗から有名旅館、百貨店まで幅広く、品数は増え続ける一方だ。

水揚げされたばかりのキビナゴ。刺身用、昆布締めなど約50品に加工される。





衛生管理の行き届いた加工場を見学。




◎ 有限会社 中野水産
鹿児島県阿久根市晴海町8-1
☎ 0996-73-2818



阿久根の土地が生む恵みの味  ~「まなべみかん園」の柑橘~




まなべみかん園 北川貴さん、美樹さん夫妻。



「ミカン栽培は土地が9 割、技術1 割といわれます」と、代表の北川貴さん。前職はシステムエンジニアで10 年前、Iターンで妻・美樹さんの実家が営む「まなべみかん園」の跡を継いだ。元は別の土地でミカン栽培を行っていた同園。「土地が9 割」は先代の言葉で、より高品質なミカン栽培の好適地を求めて48 年前、阿久根に2 万坪の畑を拓いた。東シナ海からの風が心地よく吹き抜ける畑で実るのは、ミカン、不知火(しらぬい)、甘夏、黄金柑など約20 種。露地、ハウスとも有機肥料を用い、減農薬で栽培。ワックスをかけずに出荷する。

宅配での直販がメイン。多品種栽培は、1年を通じて商品を届けたいから。



「少し早いかな」と、差し出されたもぎたての黄金柑を試食したシェフたちは「みずみずしく酸味もほどよい」と、口々に話した。

皮や葉の香りも確かめる作田シェフ。




◎ 有限会社 まなべみかん園
鹿児島県阿久根市赤瀬川3301
☎ 0996-73-0427



鹿児島が誇る独自品種 大将季






不知火(しらぬい デコポンの一種)の枝変わり種として20 年前、阿久根で発見され、増殖育成された「大将季」。果皮、果肉とも赤味がぐっと濃いだいだい色だ。果皮は薄く手で剥ける柔らかさで、果汁たっぷり、甘味も十分。食べ頃は12月初旬から2月半ばまで続く。今や柑橘王国・阿久根を代表する高級品種。生産量も増え続けている。





高校生が未来へつなぐ食のバトン  ~「鹿児島県立鶴翔高校」の「3 年A 組」シリーズ~




今春卒業する食品技術科の生徒たちと一緒に。 



創立12 年目の新しい高校ながら、食品技術科の生徒が実習で作る農産物加工品で全国にその名を知られる鹿児島県立鶴翔高等学校。前身の阿久根農業高校から「3 年A 組」ブランドを引き継ぎ、現在も約13 品を製造する。

「鶴翔高校3年A組の豚味噌仕込み」。Aは農業(agriculture)、阿久根、Aクラスから。



「豚味噌仕込み」は発売から25 年目のロングセラー。カリキュラムは食品加工業や調理などに関わる食のプロを育成することを目的に組まれていて、商品作りも企画からレシピ開発まで生徒主体で行う。阿久根で捕獲した鹿で作ったコンフィ「旨鹿GIBIER(うんまかジビエ)」 が高級寝台列車「 ななつ星 in九州」のメニューに採用されるなど躍進は続く。今春の卒業生の中には地元の加工業者に就職する生徒も。若い力が、新しい時代の阿久根の食を担う。


◎ 鹿児島県立鶴翔高等学校 食品技術科
鹿児島県阿久根市赤瀬川1800
☎ 0996-72-7310


※本取り組みは鹿児島相互信用金庫と阿久根市による地域活性化事業の一環です。



自分の足元の宝に気づいた!
「阿久根のお宝食材フェア ~ DEAN & DELUCA in あくね」




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