DEAN & DELUCA 料理長&バイヤーと行く和食の原点、福井を巡る旅
2017.01.06
text by Rieko Seto / photographs by Daisuke Nakajima
大本山永平寺を中心に「禅」から発展した食文化や地域の絆を強める郷土料理が今も息づく福井県。失われがちな「和食」の原点を探り日々の食卓にいかすべく、「DEAN & DELUCA」の料理長、バイヤーが福井を訪ねます。
禅の心で育まれる福井の食
「ただただ感謝の心で、召し上がる方のことを思いながら精一杯作る。僕らは永平寺さんから習ったものを作らせていただいているだけなんです」とは、ごま豆腐専門店「團助」3代目・山本慶治さんの言葉だ。福井に曹洞宗大本山となる永平寺を開いた道元禅師は、生命をいただき、生命のもととなる食を重視して修行の一つと位置づけ、精進料理の心を説いた。故郷の気候風土に根ざし、手間ひまを惜しむことなく、慈しみの心で食材の自然なおいしさを大切に引き出した福井の食の原点は、ここにあると言っていい。
和食の原点【禅の心】
永平寺からごま豆腐づくりを学び、精進料理のもてなしの心とともに守り継ぐ「團助」。液状の煎りごまに吉野晒製法の本葛、清涼な地下水を加えて練り上げたごま豆腐はとろりとやわらかく、上品な味と香りが広がる。みそだれを添えるのが伝統スタイル。
福井を巡ると、広い平野、緑あふれる山々、豊かな海が目の前に広がるリアス式海岸と、実に変化に富んだ地形であることがわかる。よって、食材も非常に多彩。豊富で清らかな地下水にも恵まれ、コシヒカリが誕生した日本有数の米どころでもあり、おいしい酒も数多くそろう。田んぼの畦道では、味噌や豆腐の原料にもなる大豆が必ずといっていいほど栽培されてきた。おまけに明瞭な四季の変化と寒暖差、湿潤な気候は味噌や醤油、へしこといった発酵食品にぴったりとくれば、「ここにおいしい和食がないわけがない!」と、思わず膝を打ちたくなる。
和食の原点【海の幸】
小鯛のささ漬けは、若狭湾で豊富に獲れる連子鯛を使った小浜名物。「田中平助商店」では手作業で三枚におろし、天然塩をふって一晩寝かせた後、地元の醸造酢を使った調味液に漬けて昆布、笹の葉とともに杉樽に詰める。繊細な手仕事が美しさと上品な味わいの秘訣。
食材の中には上庄里芋や山内かぶらをはじめ、狭い地域内で守り継がれる伝統野菜も多くある。
和食の原点【里の幸】
上庄里芋は、山に囲まれた大野市上庄の在来品種。日本屈指の名水と昼夜の寒暖差で、他所では得られない実の締まりともっちり感、甘味が生まれる。建石さんは約40 年前から上庄里芋を栽培し、開発した卵・牛乳不使用の里芋アイスも評判に。地元ではころ煮が定番。
和食の原点【伝統野菜】
若狭町鳥羽地区の山内集落の伝統野菜・山内かぶらはひげ根が多く、葉が60 ~ 70㎝と長いのが特徴。深い朝霧に育まれた身は締まり、やわらかな甘味が感じられて煮物にも漬物にも向く。地元の女性12名が「山内かぶらちゃんの会」を結成し、自慢のカブを守り継ぐ。
「ひげ根が多くて料理するにも手間がかかるし、若い頃は嫌で仕方なかったんです。でもやっぱり他のカブではおいしさが違う」と語るのは、「山内かぶらちゃんの会」代表の飛永悦子さん。現在は仲間とともにこのカブを地元の誇りとして栽培を続け、収穫体験や給食を通じて地元の子供たちにもその味を伝えている。
「そこにあるもの」で豊かに暮らす
福井の郷土料理は地域の食材を生かし、冬の豪雪にも耐えて、健全で豊かな食生活を送るための知恵の結晶といえる。米と並んで欠かせないのが大豆であり、打豆や豆腐、油揚げ、味噌など様々な形で使われる。特に厚揚げは、おかずにもおもてなし料理にも活躍する、煮てよし焼いてよしの必需品。精進料理や、親鸞聖人の忌日を中心に門徒が集まる報恩講(ほうおんこう)で供される郷土料理としてもしばしば登場する。法事では15㎝角ほどの厚揚げが一人1枚出されるというから、もはや県民食と呼んでいいかもしれない。
和食の原点【郷土料理】
福井の家庭料理に欠かせないのが厚揚げ。煮ると味がよくしみて、菜種油が旨味とコクを醸し出す。「ヤマギシ」の厚揚げは、外は香ばしく、中はつるんとやわらか。「決め手は揚げ加減です。豆腐が固すぎても、味がしみにくく、おいしく煮上がらない」と、山岸さん。
和食の原点【発酵文化】
寒い季節が近づくと近隣の人々が自家製味噌を造るため、自分で育てた大豆や米を麹にしてもらいに来るのが、越前市の味噌蔵「かせや」だ。こだわりの大豆と米を薪で蒸し、杵と臼で搗いて自然発酵させる、昔ながらの味噌造りを守る。「各家庭でそれぞれの好みに合った味噌を造るのが、この地域では一般的なのです。越前の冬の楽しみである〝なとみそ〞も、そう」と、5代目の鈴木雅史さん。もろみ味噌にナスやキュウリ、シソの実を加えた「なとみそ」は米麹の甘さと旨味が広がり、ご飯にぴったり。越前の気候風土に育まれた伝統の冬の味だ。
自ら手をかけた作物でその家庭・地域ならではの美味をつくり、家族で楽しむとともに客をもてなし、絆を深めて伝統を受け継ぐ。「大切なのは心です」。食に携わる福井の人々が語ったこの言葉に、和食の真髄を見た気がした。
日本の食を楽しむDEAN & DELUCAのストアイベント
1月は福井の食をフィーチャーします!
現地を訪ねた料理長とバイヤーの心に響いた福井の食を、丸ごと楽しめるストアイベントを開催します。
生産者がやってくる!GREEN MARKET
開催日時: 1月22日(日) 11:00 ~ 17:00 @六本木店
1月29日(日) 11:00 ~ 17:00 @京都店
普段は並ばない生鮮食材が並び、店内がまるで市場のような雰囲気になる「グリーンマーケット」。今月はバイヤーが惚れこんだ福井の食材と生産者たちがやってきます。
その場で味わえる!TASTING
開催日時: 1月22日(日) 11:00 ~ 17:00 @六本木店
1月29日(日) 11:00 ~ 17:00 @京都店
グリーンマーケットで買った福井の食材を、おいしく食べるヒントが詰まったテイスティング。DEAN & DELUCAのシェフが福井の食材を使ってワインに合う料理などを提案します。
3日間限定商品が登場!SEASONAL FOOD GATHERING
開催日時: 1月20日(金)、21日(土)、22日(日)
開催店舗: 六本木 /品川/有楽町/恵比寿/渋谷/吉祥寺/横浜/名古屋/栄/福岡/京都/新宿/八重洲/大阪/博多 ※取扱商品は店舗によって異なります。
DEAN&DELUCA店舗について
デリコーナーでは福井の食材を使ったメニューが登場。「甘酒」「ごま豆腐」「厚あげ」「地酒」「ささ漬け」など魅力的な食材を販売。シェフやバイヤーが「福井で感動した味」を期間限定でお届けします。
リニューアルした京都店 DEAN & DELUCA KYOTO
11月29日にリニューアルした京都店では、日本各地のつくり手のおいしいものを紹介しています。越前漆器にロゴが入ったタンブラーや、地がらし、打豆、味噌など福井の食材も揃えています。
京都市中京区烏丸通蛸薬師下ル手洗水町645 10:00 ~ 21:00 ☎ 075-253-0916
http://www.deandeluca.co.jp/storelocations/cafe&restaurant/kyoto/
【GREEN MARKETで買える!】 和食を支える福井の伝統工芸
福井の和食文化を支えるのが、地元で花開き、高い技術を誇る器や調理器具などの伝統工芸品だ。
優雅さと堅牢さを併せ持つ越前漆器は、約1500年前に鯖江市河和田地区で誕生。その漆を集める出稼ぎに行く際、携えて各地で販売したのが越前打刃物の鎌だった。現在ではその鍛造技術を用いて包丁が作られ、日本のみならず海外の料理人からも称賛を得ている。
若狭塗箸は宝石にも喩えられる華やかな塗り箸。貝殻や卵の殻を埋め込んで漆を塗り重ね、ていねいに研ぎ出すことで、若狭の美しい海底を描き出す。
平安末期発祥といわれる越前焼は、焼き締めや灰釉の素朴で温かみのある風合いと丈夫さを備え、日々の器として愛されてきた焼き物。
温もりあふれる優雅な手漉き和紙、越前和紙も高い品質と芸術性で福井が誇る工芸品。食を取り巻く空間に、やさしい彩りを添えている。