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FEATURE / MOVEMENT

日本料理×狂言×オールドパーがコラボレーションすると・・・和職倶楽部 vol.3 特別編  | The Cuisine Press WEB料理通信

1970.01.01


text by Michiko Watanabe, Kei Sasaki / photographs by Tsunenori Yamashita



「和職倶楽部」は、日本文化と馴染みの深いスコッチウイスキー「オールドパー」が、和の職人文化をつなぎ、豊かなライフスタイルを提案するために発足しました。
今回は、日本料理とBARと狂言を一つの空間で楽しむ斬新な試み「狂言ラウンジ」の表舞台と裏舞台をリポートします。

パーティー感覚で狂言を愉しむ




狂言なんて、日頃まったく縁のない世界。わかるかどうか不安だし、観る側にも作法がありそうで気後れする・・・そんな方、多いのではありませんか。では、「KYOGEN」となると、いかがですか。親近感、出てきますよね。能楽師大藏流狂言方・大藏基誠さんが主宰する「KYOGEN LOUNGE」は、「パーティー感覚で気軽に狂言を楽しんでほしい」と、2011年から始まったイベント。今年2016年の2月で37回を数える。

会場は、渋谷・セルリアンタワーの能楽堂。狂言の前後には、能楽堂に隣接する老舗料亭「数寄屋 金田中」の料理とドリンクが楽しめるという、まさにパーティーなイベントである。料理長の松本 昇氏がその日の演目にインスパイアされた、ひねりのきいた料理もあるというから、余計、面白い。


第1回から渋谷「セルリアンタワー」内にある能楽堂で開催されている「狂言ラウンジ」。リピーターも多く、この日も満席。



「金田中」料理長、松本 昇氏

今回の演目は「花子(はなご)」。狂言には20分ほどの演目が多いなか、「花子」は1時間を超える大曲だという。益々、期待は膨らむ。でも、その前に・・・。


伝統芸能と食が共存する稀有な空間




開演前。能楽堂のエントランスからホールまで続くホワイエは、驚くほどの賑わいぶりだった。圧倒的に若い人。キモノ姿、それも今風な色合わせのおしゃれな着こなしの人が多い。グラス片手に一口大の小袖鮨を頬張る人、久々の顔合わせにおしゃべりに興じる人、みんな、思い思いに楽しんでいる。DJブースも設えられていて、キモノ姿の男性がヘッドフォン片手にリズムをとる。海外でオペラやミュージカルを観に行った時のような賑わいだ。これから伝統芸能を鑑賞するという「かしこまった感」はなく、伝統文化に触れ、人生がちょっと豊かになりそう。そんな高揚感に包まれる。




いよいよ、能舞台のある会場へ。客席はびっしり満席。初めての人も慣れている人も、熱い期待を寄せているのがわかる。

狂言は「現存する世界最古の演劇」にも関わらず、今回の「花子」もそうだが「今」に通じる話が多い。とはいえ、独特の節回しに加え、台詞には古語が使われるため、あらかじめストーリーをわかりやすく解説する前説コーナーから始まる。これがお笑い要素を含んだトークショー仕立てで、初心者も興味をそそられる仕掛けになっている。男と女が繰り広げるユーモラスでウイットに富んだストーリーを全員が共有したところで、いよいよ舞台の幕が上がる。





狂言「花子」の舞台より。一晩、持仏堂に籠もり、座禅をするので、絶対にのぞくなと妻を説得。太郎冠者に座禅衾をかぶせて身代わりとし、自分はいそいそと遊女の花子の元へ。夜中に心配になった妻がのぞきにくるとどうも様子がおかしい。衾をムリヤリとると、夫ではなく、太郎冠者の姿が。今度は妻が代わりに衾をかぶり、夫を待つ。明け方、ルンルンで戻って来た夫は花子との逢瀬をとうとうと語る・・・。

愛しい花子に会えて、浮かれていたのも束の間、浮気がばれ、恐妻に平身低頭謝り続ける主人公、それを許さぬ妻、というわかりやすい構図で大団円を迎えた後、カーテンコールではないが、登場人物が再び舞台に戻ってきてからが、また楽しい。

「わーっ、はっはっはっー!」

演じ終えた大藏基誠さんの指導で、観客も狂言流の大笑いを練習。笑っているうちに、日頃の憂さが吹っ飛ぶ。そして深く心に刷り込まれる。「狂言って面白い」と。

会場を出ると、笑っておなかがすいたからと料理をつまむ人、オールドパーで乾杯する人、感想を口々に語り合う人で、再びホワイエは活況を呈する。狂言って愉快だ。いや、「狂言ラウンジ」って愉快だ。


狂言ラウンジの料理より




はまぐりの酒蒸し(狂言「花子」のキーワード①「身代わり」より)
座禅をしたのは身代わりの太郎冠者。貝殻はハマグリなのに中身は身代わりのアサリ。ウルイの切りゴマ和えと。800円。



寒サバ小袖鮨。800円。大葉、ショウガ、煎りゴマ。



「琥珀酒オールドパーに合わせ」と但し書きのついた小皿盛り。1200円。合鴨有馬焼き、タケノコ煮揚げ、タラの芽衣揚げの3種。「オールドパーには、少し甘系の味が合う」と松本料理長。



甘味。イチゴと小倉あん、求肥餅。600円。求肥餅が座禅衾(ざぜんふすま)をかぶっているよう。



オールドパーは水で割ると一層まろやかさが増し、食中酒として楽しめる。香りも徐々に開いて、だしの効いた和食の旨味をいっそう引き立てる。



生涯現役で152歳9カ月の長寿を全うしたという伝説の人物、トーマス・パーの名前を冠したオールドパー。英国独特のウィットは狂言の遊び心にも通じる。

「遊び」を究めたところに生まれる心地よい「一体感」




ここからは「狂言ラウンジ」の舞台裏へ。
華やかな表舞台を支える「金田中」松本昇料理長と「能楽師狂言方大藏流」大藏基誠氏には、世代と立場を超えて、ある共通の思いが……。

(左)松本昇(まつもと・のぼる)
「金田中」料理長。1951年生まれ。高校卒業後、京都にて修業を重ね、2004年金田中入社。2015年東京都優秀技術者( 東京マイスター)受賞。
(右)大藏基誠(おおくら・もとなり)
狂言師。1979年生まれ。2011年より、狂言とパーティーを融合させた新しい試み「狂言ラウンジ」を立ち上げる。回を追うごとに観客は増え、現在37回を数える。次回は2016年4月21日(木)の開催。題目は「梟(ふくろう)」。詳細はこちら。http://motonari.jp



狂言と日本料理のかつてないコラボレーションを実現させた「狂言ラウンジ」。
日本の伝統文化の担い手ふたりが、一夜のおもてなしに懸ける思いについて、能舞台の鏡の松が正面に臨める「数寄屋 金田中」の大広間で話を伺いました。

松本 「狂言ラウンジ」は、もう37回やらせてもらっているけれど、実はこうして大藏さんとゆっくり顔を合わせて話をするのは初めてなんですよ。

大藏 改めていつも素晴らしい料理をありがとうございます。

松本 大藏さんが「狂言ラウンジ」を始めたのは、狂言を楽しむ人のすそ野を広げたいという想いだったんだよね。

大藏 同時に、伝統芸能を洗練された大人の娯楽として、現代に浸透させたかったんです。だから料理も「金田中」さんのような老舗の料亭にお願いしたいと思った。勇気を出してお伺いを立てたら、ご快諾いただき、後はもう大船に乗った気分で(笑)。

松本 当初からこのイベントを「ほかにないものにしたい」という大藏さんの熱い想いが伝わってきたんですよね。ならばこちらも一緒に盛り上げようと。


「料理」ではなく「空気」を売る




大藏 毎回、演目にちなんだ楽しい料理をご提案いただき、本当に感謝しています。いつもどのようにお考えになるのですか?

松本 狂言に関しては素人だから、ストーリーや登場人物はネットで予習します。おかげで随分詳しくなった(笑)。それで、演目の中からいくつかキーワードを探し、料理に結び付けられないか考えるんです。例えば今回の『花子』は浮気の話でしたよね。

大藏 はい。狂言でも非常に人気の高い演目で、いつか「狂言ラウンジ」でやりたいと思っていたものです。妻に「一晩座禅を組む」と嘘をついて身代わりを立てて、遊女に会いに行く男の話なのですが・・・。

松本 そう。私はそこから「身代わり」「妻の怒り」などのキーワードを拾う。そして「身代わり」ならばハマグリの酒蒸しをアサリの貝殻に入れよう、「妻の怒り」は刺身のツマを碇型にしてしまおうと。

大藏 いやあ、すごい。毎回、くすっとしながら、なるほどと膝を打つんです。元々駄洒落はお得意なんですよね?

松本 嫌いじゃないねぇ(笑)。

大藏 ははは。やっぱり!

松本 「狂言ラウンジ」の主役は狂言。料理は舞台の前後にお酒と一緒にお楽しみいただくものです。いわば映画館のポップコーンやピーナッツみたいなもの。でも、自分のつたない駄洒落ひとつで、料理も話題になれば、場が盛り上がるじゃないですか。

大藏 おおいに! お客様は観た後に必ず「あの料理ね」と沸いています。

松本 すると場に一体感が生まれますよね。うちの岡副(金田中三代目主人 岡副真吾氏)はよく「料亭は料理を売るんじゃない。空気を売るんだ」といいます。その言葉の本当の意味を、私は「狂言ラウンジ」を通じてやっと理解できたのかな、と。

大藏 料理で空気を作る。深いなあ。でもそういう意味で、僕も狂言が主役だとは思っていないんですよね。主役はあくまで、今ここにしかない時間と空間。ドレスアップをしたお客様が集まって、仲間と再会して会話を楽しんで、そこに料理や狂言もある。この空気こそ主役であると思います。

松本 最高の空気を作り、お客様に「楽しかった」と帰ってほしい。改めて話し合わずとも、私たちの想いは一致していたんですよね。そう信じていたからこれまで、楽しんでやってこれたのですが。


狂言「花子」のキーワード②「座禅」
遊女会いたさに一晩「座禅を組む」と妻に嘘をつく男。男の代わりに太郎冠者が座禅衾に入り、嘘に気付いた妻が今度は太郎冠者に代わり座禅衾をかぶる場面。



「鶏団子の達磨揚げ」(キーワード②「座禅」より)
「座禅」から禅の開祖とされる達磨大師を連想し、鶏団子をひと口大の達磨型に仕立てた。炒りゴマをまぶして香ばしい風味に。



狂言「花子」のキーワード③「怒り狂う妻」
座禅衾の中には太郎冠者がいると思いこみ、男はのろけながら帰ってくる。妻は座禅衾の中ですべてを知り、怒り心頭で姿を見せると、男が腰を抜かし、恐れおののく場面。


「鯛の細造り、胡麻酢和え」(キーワード③「怒り狂う妻」より)
ゴマダレで和えた鯛の細造りのつまをよく見ると、ハマボウフの根元が碇型に。ゴマダレのコクが、オールドパーの水割りに合う。

「文化」こそ「遊び」と心得て




大藏 主役がどうという話は抜きに、料理を楽しみに「狂言ラウンジ」へお越しになる方も多いと感じています。能や狂言と同じように、料亭の料理は、なかなか触れる機会がない日本の文化のひとつ。もちろん店で出される料理とは違うわけですが、それでもここで味わう料理はお客様、特に若い世代の方には特別なはずです。

松本 そうかもしれませんね。だからこそ、「狂言ラウンジ」の料理は難しい。立食で食べやすく、価格も気軽で、ストーリーとの絡みがあり、和食である以上、季節感も盛り込まないといけないわけですから。いつもオールドパーを飲みながら、頭を悩ませているわけです(笑)。

大藏 松本料理長の毎回の試みは、伝統文化を目新しい形で提示することで守り伝えるという、僕が狂言でやろうとしていることと共通する部分がある気がします。

松本 まあ、どっちに転んでも遊びの世界ですよ。だって「文化」は「遊び」でしょう。職業料理人なんて「遊び」の最たるもの。だって、誰も生命維持のために私の料理を食べに来ませんから(笑)。

大藏 遊びならなおさら、お洒落に楽しみたいですよね。狂言を観ることもデートの選択肢、みたいに。それこそが僕が「狂言ラウンジ」を続けながら、夢見ていることなのかもしれません。





◎渋谷セルリアンタワー能楽堂
東京都渋谷区猿楽町26-1
セルリアンタワー東急ホテルB2
☎ 03-3477-6412

◎セルリアンタワー 数寄屋 金田中
東京都渋谷区桜丘町26-1
セルリアンタワー東急ホテルB2
☎ 03-3476-3420
http://www.kanetanaka.co.jp

◎オールドパー
oldparr.jp









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