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FEATURE / MOVEMENT

最新フードデリバリーサービスが拓く小さく長く続く店の作り方

2019.12.06

text by Izumi Shibata /photographs by Hide Urabe

オンラインでオーダーを受け、宅配&決済を代行してもらう「配達代行サービス」の活用が急速に広まっています。
活用次第で、既存店の営業を助けるのはもちろん、「バーチャルレストラン」といった全く新しい発想の店づくりも。
情報化が進む社会で、小さく長く店を続ける秘訣を探ります。


Case1:店を安定して続けるために
―サンドイッチ&カフェ 東京・広尾「デイアンドナイト」

カフェ(通し営業)。モーニング、ランチ、ディナーとメニューを切り替えつつ朝9時~21時までフルオープン。テーブルオーダー形式で最大20席。常に客足が途切れることがない。



人件費カット&オンラインでの宣伝効果もあり

「デリバリーは時代の流れ。これからは絶対に無視できないと思いました」とは、白金にあるハンドメイドサンドイッチ店「デイアンドナイト」店主の守口駿介さん。ウーバーイーツ(Uber Eats)が日本に上陸した3年前から利用している。「店で配達員を雇うより、格段にコストを下げられます。また競合に比べて配達員確保のシステムに安心感があり、継続性も高そうだったので」。受注も端末経由で簡単だし、配達員の手配の心配はないから、店舗営業と並行しても調理さえ間に合えばいくらでも受注できるのは魅力。



(左)店内&持ち帰りをスタッフ3人体制で。バックヤードには常に2~3人が入り、宅配、テイクアウト、イートインの調理すべてとホールのケアをすべてのスタッフが代わる代わる対応。
(右)守口駿介さん。大学在学中、アルバイトを機に飲食の道へ。原宿や本郷のハンバーガー店での修業を経て08年独立、「バーガーマニア」開店。15年に「デイアンドナイト」を出店。



隙間時間を有効に活用

だが、課題もある。ウーバーイーツの手数料をどう回収するかだ。注文者は商品代金と配送料を払う仕組みなので、安易に商品価格を上げることはできない。そのためこの店では、持ち帰りはサラダを付けず200円引き、宅配は同じくサラダなしで標準価格として調整を図っている。「課題はありますが、ウーバーイーツのオンラインを通して、より多くの人に知ってもらえるし、厨房を遊ばせている時間があるのなら、デリバリーの注文を受けた方がいいのは明らかです」。



イートインメニューの大半が宅配&テイクアウトでも注文できる(サラダなし)。テイクアウトはピックアップ分の手間を200円引きにしてお客に還元。



「デイアンドナイト」ではワックス紙で包装。包装用什器のストックもかさばらずにすむ。



現在、店の売上げの30%ほどがウーバーイーツによる。その数字は今後増えていくと考えている。



Case2.超ローリスクでの出店に活用!
―バーチャルレストラン 東京都内・「時代家 旬」「タイポケ」「京都ネギチゲ鍋専門店」等

実店舗を持たずオンラインに特化。ウーバーイーツ、出前館と2つのアプリに8業態を出店。注文待ち受け端末が8つ、ずらりと並ぶ。



人材不足と不安定な集客を解消

出前アプリのみの営業を前提に、「京のねぎ家」を中心に、九条ネギを用いたメニューが売りの8ブランドを展開するYO-PLUS。代表の小原英樹さんは、かつて10年以上、九条ネギを核にしたねぎ焼きの実店舗を営んできた。その際、人材不足や不安定な集客など、多くの飲食店が抱える課題を痛感。解決するにはと、現在のスタイルに行き着いた。

お好み焼き、九条ねぎチゲ、ねぎカツ丼、パッタイなどのタイ料理を、オンライン上に別々に専門店として登録。ただし厨房は共通で、駅から遠い賃料の安い場所に立地。料理はいずれも九条ネギと豚バラ肉を柱に展開でき、かつ1人で調理できるシンプルな手順に削ぎ落し、最小限の素材と人数で回す。



「時代家旬」の九条ネギ焼き(生地ベースを焼くだけ)、「京都ネギチゲ鍋専門店」のチゲ(スープと豆腐を沸かすだけ)、「ねぎカツ専門店」のネギカツ(揚げるだけ)。注文後に5分で完成できるよう調理工程を工夫。



家賃、人件費、出店費用が大幅カット

「当店の例は、極端かもしれません」と小原さん。ただ、実店舗があるなら、その厨房を生かし、オンラインでの“新店”出店はお勧めだという。たとえば中華なら、丼や揚げ物の専門店など。「若手に任せることで教育やモチベーションアップになり、収益アップにもつながります」。



(左)小原英樹さん。九条ネギ料理専門店を京都に出店後、2002年自由が丘に移転。2017年に実店舗を閉め、出前アプリ出店に特化した経営にシフト。
(右)客席不要、必要なのは厨房だけ(鉄板、コンロ、フライヤー、電子レンジ、冷蔵庫)。しかも複数業態で共有する。スタッフ1人で8業態分の注文を裁く。



独立開業志望者も「保健所の免許を取れば、マンションの一室でも開業できる。初期投資を最少に抑え、反応を見ながら調整する方が成功の確率は上がります。仮に失敗しても、実店舗より痛手は格段に少ない」



宅配スタッフのマッチングが命綱

ただリスクもある。雨の日など配達稼働員が少ないと、ウーバーイーツのプラットフォーム上、需要と供給のバランスを取るため、注文が制限されることも。
「ある程度仕方がないと腹をくくっています。転職もホテル予約も、世の中のあらゆる商売の形が変わりました。飲食業も例外ではないでしょう。これからはシェアリングとマッチングの時代です」



温め方のコツを記した紙に、超厚手のお手拭きを付けて。お客に大好評。どの料理にも後付けする九条ネギは刻んで1人分ずつパックに入れて大量にストックしてある。



【オンラインデリバリーの仕組みと流れ】

各店に1台、専用端末が置かれる。注文受付ボタンオンで開店。オンラインに上がる。



注文が入ると、画面で知らせが入る。同時にウーバーイーツに登録している近くの配達員とマッチングし、ピックアップに向かう。



クリックして詳細を確認。オーダー表に注文内容と受付番号を転記、厨房に伝える。



調理に時間がかかる場合、引き取り時刻を遅らせるボタンも。配達員と客両方に通知が行く。



配達員が到着。受付番号と氏名、配達員の顔を確認して受け渡し。



自転車に積んで、注文者の元へ。雨の日は配達員が不足気味。宅配料もその分アップする。





(問い合わせデータ)
◎ デイアンドナイト

東京都渋谷区恵比寿2-39-5
☎ 03-5422-6645
9:00~21:00LO 不定休
東京メトロ広尾駅より徒歩10分

◎ YO-PLUS
https://negifeti.jp/#
五反田支店
東京都品川区西五反田7丁目25-13-1F
☎ 03-6417-3698

取材協力:Uber Japan https://www.ubereats.com







フードデリバリーサービスの未来を描く
「Future of Food Summit」開催ルポ



Uberが乗客とドライバーをマッチングさせる配車サービスの素地を生かし、注文客とレストランと配達員をマッチングさせるフードデリバリーサービス「ウーバーイーツ」(Uber Eats)をアメリカでスタートしたのが2015年12月。それから4年の間に世界500以上の都市で展開するサービスに成長している。



会場には世界各国のレストランパートナーたちのパネルが。



今年7月、香港でアジア太平洋地域のレストラン事業者など外食産業に携わる約300人を集めて開催したサミットでは、「デリバリーサービスの枠を超え、外食産業をサポートする」をテーマに、このエリアにおける注目の外食企業やウーバーイーツのエグゼクティブによる基調講演やパネルディスカッションが行われた。



アジア太平洋地域の「レストランパートナーアワード2019」の受賞者。



まず驚いたのが、「アジア太平洋地域の消費者は、世界中のどの地域よりもUber Eatsで注文をします」というUber Eatsアジア太平洋地域及びヨーロッパ・中東・アフリカ地域統括本部長であるラージ・ベリー氏の発言。ウーバーイーツがアジア太平洋地域に参入したのが2016年、2018年に29都市から75都市まで拡大し、2019年に入ってからレストランパートナー数は2倍以上に増加。カスタマー数とデリバリーパートナー数はこの1年で3倍に増加、と世界でもっとも急成長を遂げているマーケットだという。今年9月に日本も3周年を迎え、スタート当初150店舗であったレストランパートナーも、現在では14,000店舗まで拡大している。



Uber Eatsアジア太平洋地域及びヨーロッパ・中東・アフリカ地域統括本部長、ラージ・ベリー氏。



アメリカ発祥のサービスがアジアで急成長している背景には、もともとアジアの国々では自炊より外食文化が日常に根付いている、日本の出前やインドの弁当配達業など、デリバリー文化に慣れているといったこともありそうだが、何より人々が忙しく、魅力的なフードの選択肢がどんどん増える一方のサービスに、相乗効果で利用客も倍増しているのだろう。



カンファレンスの合間には香港の人気店の味をデリバリー。



そんな中、ウーバーイーツは単なる宅配代行サービスではなく、ウーバーイーツが保有するデータとレストランパートナーのPOSデータを統合できるプラットフォームを開発することを発表。レストランがデータに基づいて経営を改善、あるいは新規開業できる、テクノロジー面でのサポートを担う姿勢を示した。



Uber Eatsグローバルプロダクト本部長、ステファン・チョイ氏。



携帯電話がスマートフォンにかわり人々の行動様式が明らかに変化したように、デリバリーサービスの急成長、それを支えるテクノロジーによって私たちの食行動はどう変わっていくのか? そのスピードはもはや無視できない。






【取材協力】
◎ Uber Japan

www.ubereats.com



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