最新フードデリバリーサービスが拓く小さく長く続く店の作り方
2019.12.06
text by Izumi Shibata /photographs by Hide Urabe
オンラインでオーダーを受け、宅配&決済を代行してもらう「配達代行サービス」の活用が急速に広まっています。
活用次第で、既存店の営業を助けるのはもちろん、「バーチャルレストラン」といった全く新しい発想の店づくりも。
情報化が進む社会で、小さく長く店を続ける秘訣を探ります。
Case1:店を安定して続けるために
―サンドイッチ&カフェ 東京・広尾「デイアンドナイト」
人件費カット&オンラインでの宣伝効果もあり
「デリバリーは時代の流れ。これからは絶対に無視できないと思いました」とは、白金にあるハンドメイドサンドイッチ店「デイアンドナイト」店主の守口駿介さん。ウーバーイーツ(Uber Eats)が日本に上陸した3年前から利用している。「店で配達員を雇うより、格段にコストを下げられます。また競合に比べて配達員確保のシステムに安心感があり、継続性も高そうだったので」。受注も端末経由で簡単だし、配達員の手配の心配はないから、店舗営業と並行しても調理さえ間に合えばいくらでも受注できるのは魅力。
隙間時間を有効に活用
だが、課題もある。ウーバーイーツの手数料をどう回収するかだ。注文者は商品代金と配送料を払う仕組みなので、安易に商品価格を上げることはできない。そのためこの店では、持ち帰りはサラダを付けず200円引き、宅配は同じくサラダなしで標準価格として調整を図っている。「課題はありますが、ウーバーイーツのオンラインを通して、より多くの人に知ってもらえるし、厨房を遊ばせている時間があるのなら、デリバリーの注文を受けた方がいいのは明らかです」。
現在、店の売上げの30%ほどがウーバーイーツによる。その数字は今後増えていくと考えている。
Case2.超ローリスクでの出店に活用!
―バーチャルレストラン 東京都内・「時代家 旬」「タイポケ」「京都ネギチゲ鍋専門店」等
人材不足と不安定な集客を解消
出前アプリのみの営業を前提に、「京のねぎ家」を中心に、九条ネギを用いたメニューが売りの8ブランドを展開するYO-PLUS。代表の小原英樹さんは、かつて10年以上、九条ネギを核にしたねぎ焼きの実店舗を営んできた。その際、人材不足や不安定な集客など、多くの飲食店が抱える課題を痛感。解決するにはと、現在のスタイルに行き着いた。
お好み焼き、九条ねぎチゲ、ねぎカツ丼、パッタイなどのタイ料理を、オンライン上に別々に専門店として登録。ただし厨房は共通で、駅から遠い賃料の安い場所に立地。料理はいずれも九条ネギと豚バラ肉を柱に展開でき、かつ1人で調理できるシンプルな手順に削ぎ落し、最小限の素材と人数で回す。
家賃、人件費、出店費用が大幅カット
「当店の例は、極端かもしれません」と小原さん。ただ、実店舗があるなら、その厨房を生かし、オンラインでの“新店”出店はお勧めだという。たとえば中華なら、丼や揚げ物の専門店など。「若手に任せることで教育やモチベーションアップになり、収益アップにもつながります」。
独立開業志望者も「保健所の免許を取れば、マンションの一室でも開業できる。初期投資を最少に抑え、反応を見ながら調整する方が成功の確率は上がります。仮に失敗しても、実店舗より痛手は格段に少ない」
宅配スタッフのマッチングが命綱
ただリスクもある。雨の日など配達稼働員が少ないと、ウーバーイーツのプラットフォーム上、需要と供給のバランスを取るため、注文が制限されることも。
「ある程度仕方がないと腹をくくっています。転職もホテル予約も、世の中のあらゆる商売の形が変わりました。飲食業も例外ではないでしょう。これからはシェアリングとマッチングの時代です」
【オンラインデリバリーの仕組みと流れ】
(問い合わせデータ)
◎ デイアンドナイト
東京都渋谷区恵比寿2-39-5
☎ 03-5422-6645
9:00~21:00LO 不定休
東京メトロ広尾駅より徒歩10分
◎ YO-PLUS
https://negifeti.jp/#
五反田支店
東京都品川区西五反田7丁目25-13-1F
☎ 03-6417-3698
取材協力:Uber Japan https://www.ubereats.com
フードデリバリーサービスの未来を描く
「Future of Food Summit」開催ルポ
Uberが乗客とドライバーをマッチングさせる配車サービスの素地を生かし、注文客とレストランと配達員をマッチングさせるフードデリバリーサービス「ウーバーイーツ」(Uber Eats)をアメリカでスタートしたのが2015年12月。それから4年の間に世界500以上の都市で展開するサービスに成長している。
今年7月、香港でアジア太平洋地域のレストラン事業者など外食産業に携わる約300人を集めて開催したサミットでは、「デリバリーサービスの枠を超え、外食産業をサポートする」をテーマに、このエリアにおける注目の外食企業やウーバーイーツのエグゼクティブによる基調講演やパネルディスカッションが行われた。
まず驚いたのが、「アジア太平洋地域の消費者は、世界中のどの地域よりもUber Eatsで注文をします」というUber Eatsアジア太平洋地域及びヨーロッパ・中東・アフリカ地域統括本部長であるラージ・ベリー氏の発言。ウーバーイーツがアジア太平洋地域に参入したのが2016年、2018年に29都市から75都市まで拡大し、2019年に入ってからレストランパートナー数は2倍以上に増加。カスタマー数とデリバリーパートナー数はこの1年で3倍に増加、と世界でもっとも急成長を遂げているマーケットだという。今年9月に日本も3周年を迎え、スタート当初150店舗であったレストランパートナーも、現在では14,000店舗まで拡大している。
アメリカ発祥のサービスがアジアで急成長している背景には、もともとアジアの国々では自炊より外食文化が日常に根付いている、日本の出前やインドの弁当配達業など、デリバリー文化に慣れているといったこともありそうだが、何より人々が忙しく、魅力的なフードの選択肢がどんどん増える一方のサービスに、相乗効果で利用客も倍増しているのだろう。
そんな中、ウーバーイーツは単なる宅配代行サービスではなく、ウーバーイーツが保有するデータとレストランパートナーのPOSデータを統合できるプラットフォームを開発することを発表。レストランがデータに基づいて経営を改善、あるいは新規開業できる、テクノロジー面でのサポートを担う姿勢を示した。
携帯電話がスマートフォンにかわり人々の行動様式が明らかに変化したように、デリバリーサービスの急成長、それを支えるテクノロジーによって私たちの食行動はどう変わっていくのか? そのスピードはもはや無視できない。
【取材協力】
◎ Uber Japan
www.ubereats.com