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JOURNAL / JAPAN

日本の食 知る・楽しむ

牛ヒレのステーキ「ヨシカミ」 since 1951

連載 ― 世界に伝えたい日本の老舗 服部幸應

2016.05.01

年配の常連さんたちが昔も今も愛するコンビメニューが「牛ヒレのステーキ」(5200円/200g、3250円/150g)とカニ缶を贅沢に皿いっぱいに盛りこんだ「カニサラダ」1500円。良い素材には過剰な手を加えず、シンプルに。素材を生かす日本料理の精神は洋食にも健在だ。(価格はすべて税込)

text by Michiko Watanabe / photographs by Toshio Sugiura

連載:世界に伝えたい日本の老舗

懐かしの洋食・ナポリタンが若い人たちにも人気とか。私のお気に入りは、「うますぎて申し訳ないス!」の愉快なキャッチフレーズで知られる「洋食屋ヨシカミ」製です。ナポリタンはもちろん、必ず注文するのがビーフシチューとヒレステーキ。どちらもメインなのに、ぺろりと食べられるから不思議です。3代目を担う吾妻弘章さんにお話を聞きます。

船上の料理人が伝えた西洋の味

2代目がバリバリ現役ですので、「3代目候補」ということでお願いします(笑)。
創業は昭和26年(1951年)。当時の東京は戦後の復興期で、好景気の真っ只中でした。浅草には劇場や映画館が立ち並び、一大歓楽街として大繁盛していたのです。初代は、いろんな商売をやっていたのですが、浅草にたむろする船のコックさんたちに目をつけ、その力を借りて食べ物屋をやろうと考えたんですね。船での調理は、限られた食材で飽きさせないようにする。また、極力ムダを出さないようにすることが肝要。その精神が今も生きていて、メニュー数は多いのですが、焼く、揚げるを基本に、そのバリエーションを加えたものばかりです。

3代目を担う吾妻弘章さん。

「うますぎて申し訳ないス!」のコピーは、下町のシャレってこともありますが、「そう言うからには、それ相応の料理を」という戒めでもあります。コックにとっては、プレッシャーですが、励みともなる言葉です。


ケチャップの風味が懐かしい「スパゲッティ ナポリタン」1150円。ピーマンではなくインゲンを使うのは、素材を上手に使いまわす船上コックの知恵(インゲンはメイン料理の付け合わせに必須)の名残り。

ドミグラスソースの深い味わいに思わずにっこりと笑みがこぼれる「ビーフシチュー」2450円。パンにもごはんにも合う究極の味だ。

創業時には、カウンター10席からスタートしました。最近は、手元が見えないカウンターも多いけれど、うちは客席から丸見え。だから、一切手を抜けません。お客様はよく見てらっしゃいますからね。かつて、浅草に来るお客様は、食通というか、うるさ方が多かった。「ちょっとくらい高くてもいいから、いいもん出してよ」という方ばかり。つまり、金は出すけど、口も出す。作る手元がよく見えますから、いろいろ文句を言われる訳です。でも、そうやって、コックを育ててくださったんだと思います。


店の誠実な仕事ぶりが見えるカウンター席。

昔からのお客様は、天ぷらならここ、ウナギならここ、と行く店を決めてる方が多い。そして、毎回、同じものを召し上がる。うちの場合は、200グラムのヒレステーキとカニサラダ。素材を厳選し、シンプルに作ったものです。日本人の味覚に合うように、また、ご飯に合うよう工夫していますから、安心してお召し上がりいただけます。週末の昼時は、地方からわざわざ当店を目指していらしてくださるお客様で大忙し。本当に、ありがたいことだと思っています。

店は開業時から同じ角に建つ。人気の高まりと共に、隣のスナックとの間にあった壁も取り払い現在60席に。

毎日同じ仕事を続ける中で、やれるだけのことをやっているつもりですが、もっとよくできるはずだ、さらにクオリティを上げていきたい、と日々精進を怠ることはありません。それこそが、「ヨシカミ」の味を守ることにもつながると思っています。


お土産も人気。カツサンドは創業からロングセラーを続ける。折代50円をプラスすればほとんどのメニューがテイクアウトできる。


◎ヨシカミ
東京都台東区浅草1-41-4
☎03-3841-1802
11:45~22:30(22:00LO) 木曜休
各線浅草駅より徒歩5分

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